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Rup Kaur at TEDxKC. Photography Don Ipock via Flickr.

インスタ時代の詩人 ルピ・クーアは熱狂の的

ByErica Eusetranslated byAtsuko Nishiyama

約200万人のインスタのフォロワーに支えられ、世界中の会場でチケットを完売させる詩人。

Rup Kaur at TEDxKC. Photography Don Ipock via Flickr.

This article was originally published by i-D US.

ソーシャルメディアの隆盛により、インスタ詩人という新しい世代が誕生した。とは言え、ルピ・クーアほどの人気を得た者は他にいない。SNSをスクロールして、トレードマークの黒字のTimes New Romanで書かれた、短く感情のこもった彼女の詩に出くわさないほうが難しい。詩が人気となり、彼女のインスタのフォロワー数は約200万人に達している。新作の詩集『The Sun and Her Flowers』のプロモーション公演では、ボストンからロンドンまで各会場のチケットが完売した。

クーアのカルト的人気は、2015年から着実に高まり続けてきた。きっかけとなったのはその年、月経の血のしみが映った彼女の写真の投稿が、インスタグラムの利用規約に反したとして削除されたことにある。クーアはこの事件に駆り立てられ、女性の身体に対する検閲に抗議の声をあげた。「私の下着姿はよくても、少し血が漏れると見せるなという。そんなミソジニー社会のエゴとプライドを満足させるくらいなら、謝罪なんて絶対しない」彼女はFacebookにそう書いた

それ以来クーアは女性の権利から移民の問題まで、激しい議論をひき起すような問題について、主に散文の形でオープンに意見を述べてきた。例のインスタの騒ぎのあと(この件では結局、アプリの運営側が彼女に謝罪した)、彼女はソーシャルメディアに詩作を投稿し、発表するようになった。

それまでもローカルなイベントなどでは自作の詩を朗読し、詩集も自主出版してきたクーア。インスタグラムを通じて、彼女の詩はたくさんの新しい観客の目に触れるようになった。グルムキー文字で書かれたシク教聖典の対称性と率直さにインスパイアされた、簡潔な筆致。芽を出しかけた木や砕けた心を白と黒で描いた自作のイラストと相まって、クーアの詩はインスタグラムのフィードをただぼんやりとスクロールしていても、見過ごすことのできない作品になっている。

もちろん私は成功したいけど
自分だけの成功を必死で求めたりしない
私が成功しなくちゃいけないのは
私のまわりの人たちが成功するのを助けるのに
十分なミルクとはちみつを
手に入れるため

(野中モモ訳・アダチプレス『ミルクとはちみつ』より)

「この本を書くのは、精神的にものすごく大変なことだった。この二年間はとにかくこれまでにない自信喪失の毎日。だからいまここに座ってたくさんの励ましの言葉を読んでいると、自分自身や自分の作品への見方が変化していくのを感じる。みんなの優しさのおかげで、私は自分のことを心から愛せそうな気持ちになっています。どうもありがとう。書くことに取り組みはじめて、2009年に人前で発表するようになってから、自分のヴィジョンを形にするためにとにかく一生懸命努力して、できることはすべてやってきた。だけど何事も一人の力だけでは成し遂げられない。いちばん最初から家族と親友たちが、声をあげること、きちんと伝えることの大切さを教えてくれた。地域での活動を共にしているアクティビストや先生たちは、いま私が掲げている理想を作り出すのに力を貸してくれた。私のチームは一丸となって、ツアー先でもオフィスでも、1年365日どんなときにも私が精神的な安定を保てるようにしてくれた。エージェントと出版社の人たちは、私のヴィジョンを信じてくれた。それがどれほど滑稽で、壮大なものに聞こえていたとしても。そして、あなたたちみんな。みんなのアートへの愛があったからこそ、私はどんなに辛いときでも書き続け、発表し続ける強さを持てたと思う。誰かがいつか私に言ったの、「車輪の中心が回転するのは、それを取り巻く周りの部分があるからだ」って。それは本当。ここまで来る旅ができたのは、私を超えた力のおかげ。車輪が回るのは支えがあってこそ。私たちみんなが一緒に立っているから、このムーブメントが生まれた。すべてに深く感謝しています」 10月15日

クーアの詩は短いけれど、強い感情のパンチが込められている。フォロワーたちは、愛や失恋やセックスを語る彼女の、オープンで真実味にあふれた言葉を賞賛する。「私を空っぽにしてしまう/愛なんていらない/求めているのは/エネルギーをくれる人」とクーアが投稿すると、20万以上の「いいね!」がつき、1500を超えるコメントが寄せられた。「私に向けられた言葉みたい」とファンの一人。「ああ、すごくリアル。壁に貼っておこうっと」別のファンも書く。

伝統的な詩とは違い、クーアの詩は口語的だ。そしてほとんどの作品の結末は開かれている。読者は彼女の言葉に自分なりの意味づけをしやすく、またあまり説明を加えずに自分たちのフィードでシェアできる。創作科の学生でクーアのファンでもあるリリー・ホワイティングが私に語ってくれたように、彼女や友だちはクーアの詩を「モチベーションをあげる言葉」としてシェアし合っている。

「私がルピのファンになったのは、詩を通じて彼女を感じることができるから」と19歳のオリヴィア・ミューレンは言う。クーアの詩は、インスタグラムで発見した。「そこに書かれた痛みや気持ちを、心から感じ取ることができたの。彼女の詩は共感できるものばかり。つらい失恋や人生の大変な時期を経験しているのは自分だけじゃないんだって気づかせてくれる」

若者たちがつながりを求め、エンパワーされたいと感じるこの時代に、クーアの飾らない励ましの言葉が支持されるのは当然だ。移民を厳しく取り締まることを公約にあげたドナルド・トランプが当選した後、クーアは「移民」と「アイデンティティ」に関わるトピックに取り組んで、2章分の詩を『The Sun and Her Flowers』に追加した。「あの人たちにはわからない/ひとたび家を失えば/二度と見つからないかもしれない/生きている間ずっと/二つの土地に引き裂かれ/二つの国の橋になる」ある詩にはそう書かれている。

「私たちは、現実の経験について話しています。いまの時代、ソーシャルメディアだけではなくメディア全般のおかげで、私たちはいつもどこかにつながっている。そして自分自身とは、ほとんど向き合っていません」。クーアは〈エンターテイメント・ウィークリー〉のインタビューでそう説明している。「だから私たちがいつもつながっているこのメディアでこの詩を読むということは、ほとんど鏡を見るのに近いんです。そして突然、内省する時間を持つことになる。そういうことが大きな原因の一つとなって、今のような動きが生まれたんだと思います」

ソーシャルメディアで生まれ、人気となったクーアの作品だが、彼女の成功はインスタグラムのフィードを超えて広がっている。2014年11月に出版されたデビュー詩集『ミルクとはちみつ』は世界中で250万部を売り上げ、25以上の言語に翻訳された。彼女はそのファンの多さによって、インスタグラムの人気者を超えたセレブの位置にまで押し上げられている。「詩の世界のポップスター」と名指されたこともある。これまでには詩に興味のなかった読者たちが、彼女の作品には魅了されるのだ。

「『ミルクとはちみつ』を読むまでは、詩が好きってわけじゃなかった」とミューレンは言う。「最初はこの本を買うことにも迷いがあった、詩にはほとんど興味がなかったから。でも読み終わった後、同じような本を探している自分がいました」

人気が高まるにつれ、クーアはそれに見合うだけの批判も受けてきた。盗作の疑いをかけられたり、南アジア系の女性たちが共有する経験のスポークスパーソンであるかのようにふるまっている、と批判されたこともある。「確かにクーアは、教育を受け、西洋的な価値観を持つインド系カナダ人の自分自身と、彼女の先祖たちや、現代のパンジャブ農村地域に暮らす同世代の南アジア女性との違いをあまり意識していないように思える」と、Buzfeedにクーアの記事を書いたキアラ・ジョバンニは指摘した。断片的で告白調のクーアの詩をパロディ化したアカウントも、数え切れないほど作られている。

それでも、今月初めに出版された『The Sun and Her Flowers』は、あっという間にアマゾンのベストセラーリスト第2位になった。批評家たちがクーアの作品をソーシャルメディア向けアートだとおとしめようとしても、彼女が自分の見つけたやり方で大成功を収めたことは疑いもない事実だ。彼女の詩の投稿はインスタグラムで10万以上の「いいね!」を獲得し続け、書籍の売り上げも100万部を超えそうな勢いだ(他の詩人の詩集なら、出版されて5万部も売れたらラッキーなほう)。そしてフォロワーたちは、彼女の朗読を生で聴きたいと声高に求める。

「大げさだと思われるのは嫌なんだけど、彼女は私の人生に本当に大きな影響を与えたと思う」とミューレンは言う。「嫌なことがあった日には『ミルクとはちみつ』を手に取るの。そうすればだいたい、また希望を持てるようになるから」

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