Laura Rokas, Erin M. Riley

織物は女性の仕事なのか?

セルフィー、セックス、生理、政治…。タペストリーにまつわる退屈な言説を変革する、6人の女性アーティストが、自分だけの〈織物観〉を明かす。

by Zio Baritaux; translated by Ai Nakayama
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31 October 2019, 10:29am

Laura Rokas, Erin M. Riley

裁縫、織物、キルティングは〈女性の仕事〉〈家庭でできる手工芸〉と蔑まれ、西洋の芸術の本流からは長らく除外されてきた。しかし1960年代、ミリアム・シャピロやジュディ・シカゴをはじめとするアーティストたちが、それらの芸術形態の重要性を主張し、芸術史における位置付けの再検討を要求した。「男性たちの経験を重要視する姿勢は、美術館に陳列、収蔵される美術品を通して発信されてきた。それを理解することが極めて重大だ」とシカゴは著書『Women and Art: Contested Territory』で指摘している。

今は、自らの経験を表現、記録する手段として織物を使用しているアーティストが増えている。初期のインターネットを想起させるイメージを再現した色鮮やかなタペストリーを制作するケイラ・マッツ(Kayla Mattes)、裸体の自画像を織り込むことで自らのセクシュアリティを考察するエリン・M・ライリー(Erin M. Riley)、ギラギラと輝く瞳と短刀のような爪が特徴の、力強いポートレートを織るローラ・ロカス(Laura Rokas)をはじめとする6名のアーティストに、自分の作品について、その作品でどのように従来の織物観に抗っているのか、そして織物はいまだに〈女性の仕事〉なのかを聞いた。

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ローラ・ロカス(Laura Rokas

私の作品は、さまざまな表現媒体を行ったり来たり、という感じ。今は、絵画、ドローイング、写真、陶磁器、キルティング、刺繍などから構成されています。こうやって幅広い種類の表現手段を使ったり、並置したりすることで、ひとつの理想を実現しているんです。これらの表現手段のヒエラルキーや歴史は、〈手工芸〉〈女性の仕事〉としてレッテルを貼られ、抑圧されてきました。何よりも画家である私は、織物に取り組むときも、織機でつくる、柄を織り込んだ機能的な布としてではなく、絵画としてみています。

テキスタイルアートでは、労力が要求されます。私の作品は、プロセスにも、描く対象となるイメージにも、マゾヒズム的な要素が含まれているので、私は織り手に向いていると思います。タペストリーをつくるときは、1本の糸を枠に巻きつけ、針を使って何時間もかけてその経糸に一段ずつ横糸を入れていきます。私の織物は機能的ではなく、むしろピンと張った状態で枠に収めておきたい。私が表現しているイメージは、織物という表現形態と同じくらいドラマチック。真っ黒な髪の毛が流れ、ナイフみたいに尖った真っ赤なネイル、ギラギラと輝く瞳、血、暗い空、涙…。苦痛と喜びとが同時に訪れているような、そんな瞬間にフォーカスしています。それをグラフィック的なイメージとして簡略化しつつ、オペラを思わせる荘厳な雰囲気を醸し出すんです。

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エリン・M・ライリー(Erin M. Riley

私の作品は、日常生活にまつわる、継続しながら進化を続ける省察です。私は、恋人に送った写真や、逮捕や政治など、ニュースで見かけた画像を収集しています。トラウマや死、依存症、快楽、あるいはありふれた日々など、多くのひとが複雑な真実を抱えながら暮らしていますが、私はそれについて話をしたい、と思っているんです。

米国で、織物が女性の仕事と思われている理由はよくわかりませんが、織物を支え、継続し、教えてきたのは基本的に女性です。もしかすると、多くのものが〈男性の仕事〉とされ、女性が排除されてきたからこそ、女性たちは織物という、実用的で、面白くて、満足感を与えてくれる技術を磨こうと思ったのかも。性別、民族、階級などによって、立ち入れない場所も多かった時代、彼女たちは自分の持てるもので勝負をした。つまり、織物をやりたくてやった、というよりは、自分の持ち得るもの、成功するための武器だった。私たちは、可能性に関してもっと柔軟に考えるべきです。技術の価値は、シスジェンダーの男性がどれほど関わっているかによるものではありません。男女平等の社会において、〈女性の仕事〉は軽蔑的な言葉ではないんです。

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サマンサ・ビットマン(Samantha Bittman

私が織物にハマったのは、本能ですね。織物の構造の複雑さを知り、糸からひとつのイメージを描けることに夢中になったんです。織物において、イメージと対象は同化する。その事実に私は深く共感しました。歴史や文化によって、織物の姿は大きく違います。でもこの60年、特にこの10年で、織物は、メインストリームのコンテンポラリーアート界において一般的な表現技法となりました。数々のギャラリーが織物アーティストの作品を展示していますし、ファイバーアート(糸を使ったアート)にフォーカスした展示を行う美術館も多々あります。また、メジャーなアートフェアではほとんどすべてで織物作品が扱われています。

確かに今でも、女性の仕事、という面はあるかもしれません。でも、女性が家でするもの、というわけではなくなっていると思います。スタジオや学校で織物に取り組むアーティストは増えていますし、その結果、織物という表現技法は前進しています。世間も織物という表現に慣れ、より深い考察がなされるようになっていて、議論の規模はどんどん広く、多様化している。〈女性の仕事〉だった、という側面は、そのいちぶでしかありません。

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ケイラ・マッツ( Kayla Mattes

私は最近の作品で、ユーモア、文字、素朴さ、政治的なメッセージをほのめかす作品をつくりたいという切迫感をもって、糸を使ってタペストリーをつくっています。混沌とした現代を理解するための、デジタルカルチャーのレンズを通した織物に関心を抱いているんです。いろいろな意味で、私の作品は伝統に従っています。タペストリーは何世紀も、様々な文化において、織り込んだシンボルを通して歴史を語るための媒体、あるいは女性が異議を唱えるための政治的ツールとして使用されてきました。ただ、私は同時に、伝統を覆すことにも関心があります。単純に、四角形を解体することもそうだし、現代的なイメージや言語を作品に込めているのもそう。

芸術と手工芸の乖離に関しては、歴史的に積もり積もった重荷のようなものがたくさんあると思います。そしてこの問題は、ジェンダーと結びついている。織物は〈手工芸〉とひとくくりにされがちで、芸術的な概念がないものとして蔑まれてきました。やわらかい素材は女性らしいとか、かわいらしいものでしかない、と無視されてきたんです。実際、織物は複雑かつ数学的なプロセスで、コンピューターの発展にも影響を与えてきました。芸術と手工芸を二分する境界線をぼかすような作品を私はつくりたい。そのふたつはむしろ置き換え可能だと思っています。織工は芸術家であり、芸術家だって織物を使ってもいい。

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>アルナ・オッタルスドティールArna Óttarsdóttir

織物への私のアプローチは、素朴といえるかもしれません。私は独学で織物を学び、織物をやってきたのはわずか8年。技術や関連するあらゆる知識を学ぶのには時間がかかります。そもそも織物のメソッド自体、時間がかかるものです。私はまだ、織物の技術もその長い歴史も習得したとはいえません。

まずは織物の実用的な側面、そしてそのメソッド、ゆっくりと進む作業、素材自体に興味を抱きました。織物は女性と手工芸に結びつけられる。だから好きというのはありますが、私の作品づくりにおいてはそれが原動力になっているわけではありません。

織物は、記念碑的でもありながら、同時に平凡なものでもある。そこが面白いと思っています。私の織物作品の主題は、日常生活や、重要にはみえないものから生まれています。ちょっとしたスケッチとか、ラクガキとかを引き伸ばして、それを大きなタペストリーに織り込んでいるんです。あるいはその逆もあり得ますよね。アグネス・マーティンの作品からインスパイアされた手織りのふきんだってある。貴重だと思われているものと価値がないものとのあいだに生まれる緊張感。主題に関しても、素材に関しても、それが面白いんじゃないかと思っています。

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リネア・ヒョーベリ(Linnéa Sjöberg

この3週間、私は祖母の古い織機をきれいにしようと試みているんです。50年使われてなかった織機です。私が織物を志したのは5年前、古着を使って祖母が織った、ラグマットがきっかけでした。そのラグは、服を切ってバラバラにし、それを再び織ってつくったものです。新しいかたちに生まれ変わったと同時に、布がアーカイブされた。私は、それと似たようなアプローチで、働く女性の高級なワードローブ、私の子供の頃の服、ドイチェ・ヴェレのアーカイブ、友人のワードローブなど、様々な素材を使用してタペストリーのシリーズをつくってきました。

織物にはパフォーマンス的な面もあります。織機を使う私は、一体何者になるのか。私の前に、織機には誰が座っていたのか。この2年、私は歴史的資料からの再現作業を通して、織機の構造や、織物や染物の古い技術を学んできました。スウェーデン人作家のセルマ・ラーゲルレーヴ(Selma Lagerlöf)は、織物の精神を『ゲスタ・ベルリングの伝説』でこう記しています。「女が織機を組み立てさえすれば、他のすべての関心は吸収されてしまう。織物をすることで、あらゆる悲しみは慰められる。それは、数多くの女性の救済となってきた」

This article originally appeared on i-D US.

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