Photography Mitchell Sams

クリス・ヴァン・アッシュによるニュールック Dior Homme 2018AW

クリス・ヴァン・アッシュが創始者ディオールの名作を再構築した。

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jan 25 2018, 12:13pm

Photography Mitchell Sams

Dior Hommeのクリエイティブディレクターに就任して10年が経ったクリス・ヴァン・アッシュ。その過去と現在、そして戦後のパリでクリスチャン・ディオールが築き上げたメゾンとのあいだにある境界線は、年々薄くなってきた。「私はここで育ったのです」。自身が手がける2018年秋冬コレクションのプレビューを行なっているアトリエに座って、クリスはそう語った。自分の中にある90年代クラブカルチャーへの憧憬とスポーツウェアへの愛と融合させた、Diorへの敬意の念。最近の彼のコレクションは、新しい時代の到来を予感させる。クリスはこの歴史あるメゾンを自身の家にしつつあるのだ。伝統の守護者、そして革新者として。2018年秋冬、Dior Hommeとクリス・ヴァン・アッシュは現代の新しい流行曲をつくるべく、そのコレクション全体にムッシュ・ディオールの意思を反映させた。

「今の時代、話題となっているものはたくさんあります。スポーツウェアとラグジュアリーの融合、高価なものと安価なもの、そしてマスマーケットの衝突。ですから、自分の立ち位置を見失ってしまいがちです。Diorで、私たちはこのことを常に考えています」。絶え間ない近隣のざわめきから逃れるため、クリスは1日の8割をアトリエで過ごしているのだという。その場所で彼は自身の現代版メンズウェアに対して厳格なルールをつくり、若者の活力あふれるサブカルチャー的な活気と、熟練テーラーの贅沢で職人的な技術を調和させているのだ。「自分のブランドで、私が最初に発表した13年前のショーを見ると、それが伝統的なテーラリングと職人技を、バギーパンツやスニーカーと合わせたものだということがわかるでしょう」と、彼は説明する。「こういうものが好きなんです。スタジオの階下にある多くのアーカイブは、私たちを洗練させ、アイデアを次のレベルに引き上げてくれる可能性を秘めています。テーラリングがどれほど素晴らしいものになり得るかを見せるのが、私の役目だと感じています」

今季のコレクションの基礎なったのは、クリスチャン・ディオールの「ニュールック」をメンズウェアに落とし込み、さらに21世紀にフィットするように再構成したクリスの2018年春夏コレクションのストーリーだ。「それはバージャケットというムッシュ・ディオールが遺したアイコニックなアイテムを使いながら、それをさらに発展させることでした」。彼は興奮した口調でそう説明すると、新しい「ニュールック」のインスピレーションとなったモノクロ写真を指し示した。「ディオール氏がウィメンズファッションの世界にメンズのテーラリングを取り入れたことから、それは始まりました。そして今、ウィメンズファッションのDNAがメンズウェアを刺激したことで、ひとつの円となったのです」。今回作成されたバージャケットは当時のパワーを残し、シャープにかたち作られた曲線と絞られたウエストには斬新さがある。「このショーのためにバージャケットのひとつを着たんです。今朝初めて袖を通したのですが、肩を入れた瞬間、違いを感じました。振る舞いさえも変わってしまう」。振る舞いこそ、クリスが変えようと試みたものだった。「ルーズなストリートウェアを着こなすキッズたちがDior Hommeのスーツを試着すると、気に入ってしまう。すごく魅力的なんですよ。私たちは「テーラリングは終わった、みんなルーズでオーバーサイズな服を着ている」という考え方に抵抗しているのです。こうした考えが、とても構築的で頑健、かつボディコンシャスというようなブランドのDNAを強調したいと私に思わせたのです」

「ムッシュ・ディオールのアプローチに夢中なんです」と、クリスは付け加える。「戦時中であっても、人をもっと美しく、シャープで価値ある存在にしたいという彼の考え方に」。現代の混沌とした政治状況で、クリスは、自らに忠実でありつつ、新たな高みを目指している。「もちろん、ストリートウェアの要素も大好きですよ。どちらの要素も主張していきます」

「若い人にとっては、奔放な理想を具現化する自由。年齢を重ねた人には、外側から内側を見るような感覚」。2018年秋冬のショーのプレスシートにはそう書いてある。この内観??に対する彼の答えは、自身が持つ90年代のクラブカルチャーへの郷愁と、アトリエにある服づくりの技術を融合させることだった。そしてその結果生まれたのが、このふたつの世代間にある年月を経た緊張関係だ。「古典主義と戦うユースカルチャーです」と、彼は簡潔に述べた。気楽なクラバーと注意深い都会のサラリーマン。優位に立とうと牽制し合うが、この2者は共存関係にあるだけでなく、お互いを前進させる存在でもあるのだ。このことはかつての人気モデルを現在の最旬モデルと並べるというキャスティングにも反映された。

「90年代のストリートウェアをもとにしたアイテムがたくさんあります。当時の流行りで買ったことを後悔している人も多いであろうこのトライバルタトゥー柄のアイテムを取り入れることで、この時代の良いセンスとその裏側にある悪趣味な部分を取り入れたのです」と、彼は笑いながら話した。『Tattoo Fixers』(イギリスのリアリティ番組)に出演しなくとも、スーツやシャツの全身にフロッキープリント(短くカットされた繊維を垂直に差し込む加工)で表現されたそのモチーフは、まったく別物に見える。「私が子どものころ、キッズはニューウェーブな怪しい奴らかクラバーかのどちらかでした。私にとってトライバルはクラバーを意味しますが、その価値は常に高められるべきです。こうした色合いにすれば、ほとんどニューロマンティックのシャツのように見える。私はこの両者をミックスすることができる。影響力を重ね合わせ、発展させるのです」

バギーデニムからレイヤードされたTシャツ、オーバーサイズのマフラーまで。クリスは、彼自身の中にあるバラ色の思い出に浸ったのだ。「90年代は常に重要なリファレンスです。なぜならその時代に私がクラブに行きはじめたから。このショーは「Forever Young」というタイトルで、それは10代のころの自分をロマン主義的に振り返る自分、そして40代になった今でも永遠に若いままの自分ということです。こうした良い思い出を現代的に上書きするということですね」。アルファヴィルが1984年にリリースした名曲「Forever Young」と、90・00年代のポップ&クラブチューンのメガミックス(「Take on Me」から「Pump the Jam」まですべてを網羅)をBGMにしたこの楽観的な雰囲気は、すこぶる伝染しやすい。さあ、みんなでForever Youngになろうじゃないか。

Credits


Photography Mitchell Sams
Translation Aya Takatsu

This article originally appeared on i-D UK.