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      music Braudie Blais-Billie 17 May, 2017

      東欧のカニエ・ウェスト:トミー・キャッシュ、インタビュー

      エストニアの首都タリンでの生い立ちをラップで歌い、ソビエト崩壊後の東欧を映像で描くトミー・キャッシュ。25歳のポスト・ソビエト・ラッパーが、東欧とadidasの関係、ホドロフスキーやカニエから受けた影響を語る。「カニエ・イーストになりたい」

      「ロールモデルのラッパーはたくさんいる」と、トミー・キャッシュ(Tommy Cash)は言う。キャッシュは、インターネットで大きな話題となったビデオ「Winaloto」を作った、25歳のエストニア人ラッパーだ。裸同然の男女が登場し、女性の尻をヘッドホンのように両耳に当てるキャッシュや、女性の局部になったキャッシュが歌うシーンなどが織り込まれた映像に、一度聞けば忘れられないキャッシュ独特のスタイル、そしてロシアのプロデューサー、ステレオライズ(stereoRYZE)によるビートがあいまって、「Winaloto」は2016年夏に、NMEに"もっとも心がザワザワする"ラップ・ビデオと言わしめた。

      体が乗っ取られるというホラー要素がある「Winaloto」も、性的ニュアンスが多分に含まれている新作ビデオ「Surf」も、挑発的な自己表現が特徴的だ。監督はキャッシュ自身が務めている。人々の既成概念に疑問を投げかけるその世界観で、彼はよくアレハンドロ・ホドロフスキーと比較される。「ホドロフスキー映画はどれも芸術。『ホーリー・マウンテン』には大きな影響を受けた」とキャッシュは言う。「初めて『ホーリー・マウンテン』を観てからというもの、ずっとあの映画の世界に染まり続けている。ホドロフスキーが映画を作ったように、僕もビデオを作っていきたい」

      アート、故郷、そして自分らしくあることへの献身の姿勢が、キャッシュの作り出す世界観を稀有なものにしている。彼はエストニアの首都タリン出身。そこに育ったことで強いられる苦悩、自信を見出すに至った過程、そしてミュージシャンとして大成したいという信念を背景に、作品を生み出している。まずは「Leave Me Alone」のMVを観てほしい。そこには、エストニアの低所得者層とその過酷な現実が描かれている。2014年に『Euroz Dollarz Yeniz』でデビューしたキャッシュは、ロシア、ウクライナ、さらには日本のプロデューサーたちとともに、爆発的なビートに簡素ながらもクリエイティブなフロウをのせて、彼が呼ぶところの"ポスト・ソビエト・ラップ(ソビエト崩壊後の東欧ラップ)"のアーティストとしてキャリアをスタートさせた。

      そして、偉大なアーティストが誰もそうであるように、キャッシュもまた独自のスタイルとステージ上での圧倒的な存在感で、周囲から一歩抜きん出ている。彼のファッション・センスは、adidasトラックスーツ多用の東欧ストリートウェアを解釈したものが主体。ベルリンのColorsが企画した「Winaloto」のパフォーマンス映像では、ロンドンの新進気鋭ブランドZDDZによる鮮やかなオレンジ色のジャケットを纏っている。

      スタジオでのレコーディングとヨーロッパ・ツアーの合間に、i-Dはトミー・キャッシュにインタビューを行ない、"心がざわつく"ビジュアルを作った男、ソビエト崩壊後の東欧ヒップホップを牽引する男の実像に迫った。

      3月から続く長いツアーもいよいよ終盤ですが、ここまでのツアーはいかがでしたか?
      感謝の連続だよ。エネルギーも感情もすべて持っていかれるから大変だけど、ファンのためと思えば頑張れる。パフォーマンスするのも好きだしね。前回のツアーがもっと小さな規模だったというのもあるけど、今回のツアーは前回よりもずっと大変──レベルが違う。スーパーマリオで言うなら、今回のツアーはレベル4か5くらい。

      タリンでの少年期には、どんなことをしていましたか?
      14歳のとき、ダンスを始めた。クラスの女の子たちがヒップホップ・ダンスをやっていたからって理由だったんだけど、やってたら、好きになっていったんだ。アートの学校にいってたけど、学校は好きじゃなかった。音楽を聴いたり、授業中に寝てばかりいたよ。ダンスでいつも疲れていたからね。スケッチを始めて、それからストリート・アートにも手を出した──それが僕のラップの始まりだった。当初は、ラップもアートの形のひとつだった。曲を書きはじめて、そこからは自然とクリエイティビティが溢れてきた。最初のビデオを作ったら、ブレイクして今にいたる。

      ヒップホップ・ダンスからプロのヒップホップ・アーティストへの移行はどのように?
      最初は、ただ「ラップ好きだから、ただでパフォーマンスやらせてよ! 金なんかいらないから!」って感じだった。映画館で床に落ちたポップコーンを拾うとか、そんな最悪な仕事を転々としてたよ。新しい仕事を見つけても、すぐクビになってた。最初は「金なんていらない」って言ってた──大好きなことをやってる幸せだけで十分だったんだ。でも、じきに、生活するためにも金を稼がなきゃ、稼げるんだと思うようになった。

      カニエ・ウェストに影響を受けていると方々で話していますが、他にはどんなアーティストの音楽を聴きますか?
      音楽全般が好きなんだ。いろんなジャンルの音楽を聴いてきた。2000年代のヒップホップや、ナズ、エミネム、ミッシー・エリオット、マリリン・マンソンとかね。それと、アリス・イン・チェインズとか、グランジ音楽も聴いたよ。だけど、夢を信じることを教えてくれたのはカニエだった。あの頃のカニエはそれを体現していて、音楽づくりを始める前から彼には強く触発されていたんだ。

      あなたは自らのアートを"ポスト・ソビエト・ラップ"と呼んでいますが、そこにはどんな意味が込められているのでしょう?
      インスピレーション源は、僕が育った場所と、そこでの思い出。アメリカ人になろうなんて思わない。僕自身の声と音を大切にしていきたいね。今の世の中、そこが間違ってると思うんだ。みんな自分じゃない誰かになろうと一生懸命になってる。

      僕は、最初から自分が何者なのかを表現していかなきゃならないってわかってた。パリやイギリス、ほかにも僕がこれまで行ったどんな場所はどれも素晴らしかった。僕にとって新しい世界がそこには広がっていたよ。そこで、僕はエストニアを見せていかなきゃならないんだと思う。エストニアがどんな場所で、僕がどんなふうに育ったか、そこで何が起こっているのかをね。それがポスト・ソビエトの音楽だよ。

      衝撃の「Winaloto」、驚きいっぱいの「Surf」のビデオを制作した経緯と過程について教えてください。
      「Winaloto」は、彼女と初めてパリに行ったとき。ルーブル美術館を見て回って、そこから移動しようと地下鉄の駅に降りたときに「肌をテーマにビデオを作ったらどうかな?」と彼女に言ったんだ。僕の彼女、アナ・リサ=ヒマ(Anna Lisa-Hima)は、ビデオのプロデューサーとスタイリストを務めてくれているひと。そこからあのビデオが生まれたというわけ。「Surf」は性欲に正直に作ったんだ。歌自体も、ソビエト崩壊後の東欧の性夢みたいに生々しいからね。

      あなたは曲の中でもadidasについて歌い、足には3本ストライプをタトゥーで入れていますね。adidasとの出会いについて教えてください。
      父親がadidasのトラックスーツを着ていたんだ。僕がまだ小さかった頃に両親がトラックスーツを着て、長い散歩をしていたのをよく覚えているよ。家に帰ってからもトラックスーツのままで、僕は「なんで着替えないんだよ!」って思った。カルト宗教みたいなもので、そのミニマリズムにハマると抜け出せなくなるんだね。無頓着こそが東欧文化といっても過言じゃないと思う。太っていても、まったくスポーティでなくても、トラックスーツを着るんだ。どういうわけか今はそれがスタイルになって、世界中の人たちがトラックスーツを着てる。面白いよね。ともあれ、僕は長いあいだadidasに夢中だよ。

      ツアーが終わったら、残りの2017年は何をする予定?
      ロンドンのスタジオで素晴らしいアーティストたちとレコーディングをして帰ってきたばかりなんだ。まだ詳細は言えないんだけど──ワクワクが止まらない。僕なんか、小さな子どもみたいなもの。尊敬してきた人たちと会えたなんて、いまだに信じられない。

      今後、トミー・キャッシュはどこに向かうのでしょうか?
      カニエ・イーストになりたい。真面目な話、カニエは偉大で革新的なミュージシャンとして、ビジュアル面も抜かりなく、絶対的な存在感を打ち立てたひと。アイデアもファッションも、常に先進的だしね。僕も、やるからにはすべて素晴らしいものに仕上げたい。そして、完成された音楽を作り、誰も見たことがない世界を作り出したい。

      Credits

      Text Braudie Blais-Billie
      Photography Phussy
      Translation Shinsuke Kuriyama at WORDSBERG Inc.

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      Topics:music, music interviews, estonia, tommy cash, east bloc, winaloto, kanye west, hiphop, hip hop

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