Photography by Alisha Gaf

近未来ファッションとしての「マスク」

アナスタシア・ピレプチャクがつくるマスクは、〈フリーダ・カーロ×ビョーク〉的な強いエネルギーを発している。

by Rolien Zonneveld; translated by Ai Nakayama
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12 March 2020, 11:50am

Photography by Alisha Gaf

アナスタシア・ピレプチャク(Anastasia Pilepchuk)は、自分がいつからアートに興味を抱き始めたのかは不明だが、子どもの頃から周りにあるものでいろいろな実験をしていたことは覚えているという。「家具を移動したり、壁をペイントしたり、自分の持ち物を入れるための複雑な箱を作ったり。あと、カーペットもつくりました」

そして迎えた思春期は、暗澹たる時期だった、と彼女は語る。「アート制作は私にとってセラピーでした。十代の頃は本当に鬱々としていて、病み期がやってくると想像の世界に入り込んで、解放のひとつのかたちとして絵を描き始めました」
時が経つにつれ、アナスタシアは新しい創作をどんどん試し、現在は絵画ではなく、マスクをつくり、服をデザインし、DJデュオとして活動し、またモデル事務所を経営し、雑誌を編集している。

「私はマルチな人間でいたいんです。はたからみると、やることが多くてしんどいと思われるかもしれないけど、私にとってはそれこそが完璧なスケジュール。だって、各活動がそれぞれの休息になってくれるから。だから私は年2回、夏と冬に長期休暇が取れれば充分」

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現在31歳のアナスタシアは、シベリア、ヤクーチア(サハ共和国)にあるネリュングリという町で生まれ、8歳までそこで過ごす。その後は、モスクワに移り住み、モスクワ国立デザイン技術大学(Moscow State University of Technology Design)に入学。絵画とジュエリーデザインを学ぶ。しかし残念ながら、物事は彼女が思い描いていたようには進まなかった。
「ロシアでは、教育システムの問題に数多く直面します」と彼女は説明する。「たとえば、学校には道具がまったく揃っておらず、すごく古い考えかたをする教師もいます。きっと昔は、学生たちもそういう状況を受け入れていたんだと思いますけど、今、アート志向のロシア人たちは外国への留学を夢見て、実際にその夢を叶える機会を得ています」

「私もロシアを飛び出したかったんですが、チャンスを手にしたのはその何年もあとでした」。22歳のとき、彼女は初めてベルリンへ降り立った。ベルリンの自由な雰囲気が好きだ、と彼女はいう。

「ベルリンでは誰も私をジャッジしない。誰もが、私を私として受け入れてくれるんです。ベルリンが大好きになったので、なるべく長くベルリンに滞在しようとしてます。ただ、故郷と呼ぶのはやはりモスクワです」

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この数年、モスクワは20世紀の孤立を脱却し、現代アートと古典芸術が出会う、面白い文化的ハブとなっている。ガレージ・ミュージアム・オブ・コンテンポラリーアート(Garage Museum of Contemporary Art)や、ヴィンザヴォード・アートセンター(Winzavod Centre for Contemporary Art)など、ロシアの若いアーティストによるムーブメントを中心に扱う新スポットも登場している。

「ロシアには、ミハイル・ヴルーベリ、ヴィクトル・ヴァスネツォフ、クジマ・ペトロフ=ヴォートキンなどをはじめとする偉大なアーティストが多数おり、豊かな歴史があります」とアナスタシア。

「彼らはアーティストであると同時に、真の発明者です。今のロシアのアーティストも彼らと同じレベルに達するよう努力していますが、残念なことになかなか叶っていません。その理由としては、現代アーティストのほとんどが、お金を稼ぐことを考えているからだと思います。でも難解なアートをやっていたら、それは難しいですよね」

彼女はこうも語った。「でもロシア人アーティストの多くは、助け合っているし、オープンマインドで刺激的です」

彼女のお気に入りの現代アーティストは、ウクライナ出身で、故郷の戦争をきっかけにモスクワに移り住んだ画家、ニコラス・コシュコシュ(Nicolas Koshkosh)。彼は今や、国境を越えたカルチャームーブメントを代表する存在となっている。もうひとりが、パステルカラーでつくられるドリーミーな立体作品が特徴的なダニャ・ザカロヴァ(Dunya Zakharova)だ。その作品は、孤独、優しさ、メランコリーを想起させる。

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「私の主なインスピレーション源は、フリーダ・カーロとビョーク。ふたりともすごくユニークで、特別な存在です」とアナスタシアは語る。「ビョークは特に好きなアーティストのひとりですし、私のヴィジョンが彼女の影響を受けていることは間違いない」
「でも、マスク制作ではその他にも、人びと、自然、文化、気分などいろんなものからインスピレーションを受けてますね。たとえば、私がつくったマスクのなかには、雨粒を模したもの、アイスランドで見た氷河を再現したもの、制作時の私の気分が表れたものもあります。次につくるマスクがいったいどんなものになるかはわかりません。素材を選んで、何らかの感情や記憶を表現するだけ。そして自分が完成したな、と思うまで手を動かし続けるだけです」

アナスタシアがつくるマスクの多くは、彼女の音楽パフォーマンスのさいに使用されているが、純粋に制作プロセスを楽しんでいるがゆえにつくることも、他人のためにつくることもあるそうだ。

「私は、才能あるアーティストやミュージシャンとコラボレーションしたいと思っています。アートを通して、新しく誰かと会うことが好きなんです」

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Credits


All images courtesy of Anastasia Pilepchuk
@nastia_pilepchuk

This article originally appeared on i-D UK.

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