UNDERCOVER 2020年秋冬:堕ちていく男

シェイクスピアの戯曲『マクベス』が下地である黒澤明監督作品『蜘蛛巣城』がインスピレーションに。自国に焦点を当てたデザイナー・高橋盾が、三幕構成の詩的かつ劇的なショーを披露。

by Tatsuya Yamaguchi; photos by Flo Kohl
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23 January 2020, 5:55am

轟々とした音が、暗闇と化した円形のサーカス劇場(Cirque D'Hiver Bouglione)内に響きわたった。舞台の中央で白布に覆われうごめく何かは、おどろおどろしく動き続けている。その周囲を、長髪をてっぺんで結い上げ、百足の柄を背にした男が徘徊するかのように歩く。しばらくすると白布から両腕が現れ、まもなく、苦悶する老婆の頭部がみえた。異形さに対峙した男は、誘惑されているようにもみえるが、困惑と驚きを隠せずにいる——。

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観劇チケットを模したインビテーションのタイトルには「fallen man」との言葉。映画『蜘蛛巣城』の主人公・武時が欲望に翻弄されたように「堕ちていく男」がテーマの鍵を握る。ショーは『蜘蛛巣城』にインスパイアされた三幕構成の演劇でもあった。『ウォーリアーズ』『2001年宇宙の旅』『時計仕掛けのオレンジ』『サスペリア』に続き、世界の名画の存在を解きほぐすかのごとく、一本の映画を明白なソースとしていた(まだ未鑑賞のあなたにとっては素晴らしい入口になるにちがいない!)。

今季、かの名画に忠実なストーリーテリングは、高橋盾に振付師・Damien Jaletを加え、〈UCP〉のメンバーである永戸鉄也と守本勝英によるディレクション、〈L.I.E.S. Records〉のRon MorelliとKrikor Kouchianの音楽とともに、4名のコンテンポラリーダンサーたちによって、シアトリカルに具現化された。終盤、避けられない弓矢に撃たれ、絶命するあのシーンまで! すべてが整合した名演であり、ショーの終幕、万雷の拍手は鳴り止まなかった。

メンズとウィメンズの合同ショーである今回のコレクションは、戦国時代の武士の鎧や、市井の人々が着ていた野良着や羽織のイメージが牽引していた。〈UNDERCOVER〉がこれほど明快に日本文化に言及したことは、おそらく、初めてではないだろうか。

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半衿のようなラペル、振袖型のスリーブ、前身頃の合わせ、チェック柄や格子柄のパターン、組み紐、三日月や雲、漢字のモチーフ、ロープで袖をたくし上げる引合せの緒のようなディテール、さらに、ライダースやナイロン地の鈍い光沢と刺しゅうで表現された甲冑や籠手。枚挙にいとまがないほどに、戦国時代ひいては日本文化における服装からの着想に溢れている。

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後半(城主となった先の男が、中央に鎮座している)に登場した、劇中の三船敏郎(主人公、武時)がプリントされたパファージャケットやスウェットは実に〈UNDERCOVER〉らしいテクスチャだ。菊の花が描かれたシルクドレスのレイヤーは美しく(武士とは装いが異なる女性は、ストーリー上でもとても重要)、ベレーや動物の耳付きの帽子(兜)から、ツバがついたキャップ、バイカーグローブ、チェストポーチにボディバッグ、大判のストールといったアクセサリーも舞台の上に欠かせなかった。が、濃色のカラーパレットで組まれた遊牧民的な重ね着は、とかくウェアラブルであり、例えば武士の「衣装」には決してみえない。自国の文化に着想を得ることはなかなかに難しかったりもするが、時が経って忘れ去られがちな過去は、傑出したクリエイティブのバイアスを通過すると、現代に新しさとなってよみがえる。当然のことだが、現代人のための洋服である。

『蜘蛛巣城』の主人公・武時は、森の老婆の予言や妻の言動に影響されて疑心暗鬼となりながらも欲望に翻弄され、城主となるもやがて死を迎える。素晴らしいダンスに見入っていると、他人を信じること、迷うこと、信じられなくなること、そして自らの欲望といかに向き合うかといったテーマ性が脳裏に浮かんできた。ショーの舞台の上から落ちてくる矢の嵐は、避けられぬ人の業を暗に示していたように思えてならなかった。これは、現代人に通ずるメタファーではないか?

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Credits

Photography Flo Kohl
Text Tatsuya Yamaguchi

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