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      think pieces Billie Brand 19 April, 2017

      映画界に押し寄せる「食人鬼のニューウェーブ」 

      『Raw』や『The Lure』など、思春期にある少女の食人鬼を主人公にした映画の公開が相次いでいる。この現象は何を反映しているのか? これまでの食人鬼との比較を手がかりに、映画界に押し寄せている「食人鬼のニューウェーブ」を考える。 

      「母はわたしのこと、"危険"ってよく言ってた。『あなたは危険な子ね』って」と、映画『ネオン・デーモン』のなかで、16歳の新人モデルであるジェシーは言う。「母の言うとおりだった。わたしは危険な子なの」

      映画界でいま、危険な女の子が注目を浴びている。浮世離れした魅力で獲物となる人間を誘惑しては、その臓器を貪る、危険な女の子たちだ。ハリウッド映画史を辿ってみると、食人鬼のキャラクターは、女性を蔑視するようないわゆる昔ながらの男であるケースがほとんどだ。少なくともメインストリームの映画ではそのような傾向が強かった。たとえば、『羊たちの沈黙』に登場するハンニバル・レクターはそれをもっとも顕著に体現したキャラクターだろう。だからこそ、近年映画界に押し寄せている "食人鬼のニューウェーブ"は興味深い。それらの食人鬼は、みな若くてキュートな思春期の子であり、より重要なことにそのどれもが女性なのだ。新時代の食人鬼たちが、思春期という設定の中で描かれるのはなぜだろうか?映画が社会の現状を反映しているのだとしたら、彼女たちは一体、何を象徴しているのだろうか?

      (この先、ネタバレ注意)

      これらの疑問を考えるうえで、現在大きな注目を浴びている映画『Raw』を無視することはできない。まだ『Raw』を観ていないという読者のために、手短に説明しよう。『Raw』は、獣医科大学を舞台に、人見知りの激しい少女ジュスティーヌが、学校の恒例儀式でウサギの生肉を食べさせられ、血みどろになる——これを機に物語は進展していく。儀式に参加する時点では、ジュスティーヌは処女のベジタリアン。儀式後の彼女は、生肉へのフェチを増大させていき、セックスと生肉への抑えきれない欲望に駆られていく。生きた鳥やひとの肉を欲するジュスティーヌ——ここでの食人癖は、彼女の性の目覚めのメタファーとして描かれている。無秩序で、無慈悲で、複雑な性の目覚めを描いているのだ。

      そのような少女の思春期を描いた映画は『Raw』だけではない。同様に多感な時期にある少女が食人鬼として殺戮を繰り返していくというストーリー展開を見せるのが、映画『The Lure』だ。『The Lure』は、ポーランド発のホラー・ミュージカル。そう、ミュージカル仕立てのホラー映画だ。訓戒的な『人魚姫』や『リトル・マーメイド』の物語を発展させて作られたこの映画は、人魚の姉妹を主人公として進んでいく。人魚姉妹は、その名もゴールデンとシルバー。その仰々しい名前に負けないだけの美しい声を持ったふたりは、海から出て地上での生活を選び、うらびれた怪しいナイトクラブで歌手として働きはじめる。そこでふたりは、男たちを誘惑し、彼女たちに魅了された彼らを跡形なく食べ尽くす。ふたりの少女が大人になる過程で生き抜く変化が、美しいメタファーとして体現しているこの作品には不思議と力強さがただよっている。

      もうひとつの好例は『ネオン・デーモン』だろう。バラ色のレンズを通して作られた、視覚的な美しさに息を飲むホラー映画だ。この映画に登場する食人鬼たちは、狂気のスーパーモデルたち。もっとも美しい存在であろうとする彼女たちは、競争のなかで文字どおり人間を摂取していく。うっとりしてしまうほど美しい映画ではあるが、『ネオン・デーモン』には課題が残るということも指摘しておかねばならない。食人癖をもってセクシュアリティを描くという点においては、先述の2作と共通しているが、そこには、少女期の複雑さが描かれているというよりも、「女の子が女の子を食べる」という姿が強調されているにすぎない。『The Lure』と『Raw』が女性映画監督によって作られているのに対して、『ネオン・デーモン』は『ドライブ』の監督ニコラス・ウィンディング・レフン——そう、男性監督によって作られている。少女が大人の女性へ成長していく過程に経験する複雑で圧倒的な変化は、男性に理解できるものではない——それが問題の核にあるのかもしれない。

      これらの映画に登場する新世代の食人鬼は、それまでの食人鬼たちよりもはるかに美しいだけでなく、より明晰な頭脳と分別の感覚を持っている。『Raw』は、極めて極端な描き方ではあるにせよ、少女が大人へ成長していく過程で経験する苦難を見事に描いている。たとえば、劇中でジュスティーヌは、陰毛にまつわるポリティックスや、遊び場で感じるプレッシャー、姉妹間の競争など、大人へ成長する過程で誰もが惑う事柄について、なんとか理解しようとする。鏡の中の自分とキスを練習するシーンは実に素晴らしい。現実世界でも、成長段階にある少女が体験する最大の(そして、不可思議な)変化は、性的衝動に関するものだろう。思春期になると、突如として動物的な本能が芽生え、頭と肉体的欲望のあいだで葛藤が生まれるのだ。肉への渇きにも似た強い欲望に揺すぶられるジュスティーヌに、それは見事なまでに描かれている。

      2009年に公開されたディアブロ・コーディ監督の『ジェニファーズ・ボディ』は、食人癖を通して性の渇望を完璧に体現している。セックス狂として描かれている主人公のジェニファーだが、その実は選り好みなどしない食人鬼。「ひとの魂を食べて、それでおしまい。あなたのことも、食べて、それでおしまいよ」と迫る彼女に、親友のニーディは、「殺すのは男の子だけじゃないの?」と問うが、ジェニファーは「どっちもイケるくちなの」と答える。"どっちも"といえば、『ネオン・デーモン』のスーパーモデルたちも、『Raw』のジュスティーヌも、両ジェンダーへの肉欲を持っている。ジェニファーは存在の一部が悪魔という設定であるため、食人鬼としてすんなりと受け入れやすいキャラクターではあるが、"食人癖とバイセクシュアリティを関連づけて考える"この観点こそ、現代社会の時代遅れなセクシュアリティ観を象徴しているのかもしれない。

      若い女性食人鬼たちが比喩するものを読み解くのは簡単ではない。彼女たちは食欲だけではなく性欲に突き動かされて獲物を誘惑し、そして飛びかかる。その「誘惑者」という属性において、彼女たちは、危険な状況へと男を陥れるファム・ファタールと同じカテゴリーに入れることができるのかもしれない。しかし、食人鬼とファム・ファタールには決定的な違いがある。男性は、ファム・ファタールを見て、ある種の喜びを得ることができる。しかし、人間を食い殺していくというどう猛な行為が胃の縮こまるほどの残忍さをもって描かれる食人鬼が、男性の観客たちに喜びを与えることはないだろう。これらの映画に登場する女性食人鬼たちは、外見こそ美しいながらも、悩める等身大の人間として描かれている。男性が描く女性への幻想はそこにない。フェミニスト映画評論家ローラ・マルヴェイが絶賛することだろう。

      (補足:ジェニファーに限っては、『ジェニファーズ・ボディ』公開当時の2009年に10代の少年たちから性的対象として絶大な人気を誇っていたミーガン・フォックスが演じているという理由で、マルヴェイは賞賛しないだろう。)

      大人の女性に成長していく途上にいる女性食人鬼という存在は、悪夢でもあり夢でもある。現実世界において、わたしたちは、多くの恐ろしい罪を日々、目にしている。その結果、ほとんどの殺人に対して私たちは鈍感になってしまっているが、"カニバリズム"はいまだに最大のタブーでありつづけている。それ以上の狂気はないのだ。食人鬼が女性として描かれるという流れも、そのような背景があるからなのだろう。社会一般では、女性のセクシュアリティ、とりわけ思春期にある女性のセクシュアリティは、タブーなのだ。そう、悪(魔的)であると考えられているのだ。しかし、少なくとも今の私たちには、「少女はこうあるべき」という社会の期待を打ち崩す先進的なキャラクターを生み出している映画監督たちがいる。いま現在、映画の世界において、青春期にある少女の真の姿を最も描けているのは、そうした肉食の少女たちなのかもしれない。そう『ジェニファーズ・ボディ』でジェニファーの親友ニーディが言うように、「10代女子は地獄」であり、食人鬼の女性キャラクターたちは、それを見事に体現してくれているのだ。

      関連記事:ガランス・マリリアーが語る、食人青春ホラー映画『Raw』

      Credits

      Text Billie Brand
      Translation Shinsuke Kuriyama at WORDSBERG Inc.

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      Topics:think pieces, film, culture, raw, the lure, cannibals, coming-of-age, girlhood, female sexuality, jennifer's body, neon demon

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