コロナ禍に必要なのは「毒々しい服」── 川久保玲が語るファッションの今とこれから
Comme des Garçonsの川久保玲が、ファッション業界の未来、そして彼女の飽くなきクリエイティビティの源になっているという〈世界の不条理〉に対する怒りを語る。

Comme des Garçons AW20. Photography Mitchell Sams
現代のファッションを代表するデザイナー、川久保玲。1973年のComme des Garçons設立以来、彼女はシーズンごとに、ファッションの目的、機能、価値の定義を根底からひっくり返し、塗り替えてきた。
服は痛烈に社会政治を批判しつつも安らぎを与えてくれること、近寄りがたいほどの抽象性と実用性が併存できること、スカートが彫刻のような高尚な作品となると同時に、誰もが欲しがるアイテムになりうることを、彼女は証明した。
そのような厳格なコンセプトを礎に、メインストリームに訴えかけるブランドをつくるには、当然ながら相当な努力が必要だ。寡黙なことで有名な彼女の最新のインタビューによれば、新型コロナウイルスのパンデミックも、彼女の飽くなき労働意欲の妨げにはなっていないという。
「創造とは、自分がどこにいようと、どんな状況にあろうと、常に新しいものを探し求めること。それこそが真実」と彼女は『The Cut』誌のキャシー・ホリンにメールで述べた。
さらに東京のアトリエでは、政府がステイホームを呼びかけるなか「感染拡大防止の最大限の予防措置を取りつつ、業務を進めるために毎日30%の社員を出社させている」と彼女は語った。
彼女自身も例外ではなく、「毎日早朝から、経営関連の業務と並行してクリエイションを続けている」という。
これは彼女が厳しい責任者あるからでも、敢えて政府の勧告に逆らっているわけでもない。彼女がコロナ禍でも仕事を続ける理由は、「一度クリエイションを中断してしまったら、二度と元の場所には戻れなくなるのでは、それ以上前に進めなくなるのではないか、という恐怖心」のためだ。
さらに、彼女はファッション業界の未来について訊かれたさい、パンデミック後に「多くのひとが自分の境界から出ずに暮らすようになる」ことへの懸念を語った。
結果として、それは彼女が最上のファッションやアートの創造に不可欠だと考える、「斬新なことに挑戦したり、個性を発揮したり、自分を解放する」私たちの意志を阻むことになるかもしれない。
しかし、彼女は現代における多様性の重視、それが衣服に与える影響については、楽観的な構えを見せている。
「私たちはさまざまなスタイルや趣向に価値を見出し、受け入れるべき」と彼女は主張する。「あまり考えずに着られる単純な服、安価な服、気分を高めるドレス、制服、毒々しい服などに」。
ここでいう〈毒〉とは、身体に異常をきたすものというより、「退屈よりもずっといい、とても強烈な」もの、という意味だ。
現代において、〈毒〉は社会や政治を取り巻く空気だけでなく、文字通り私たちが吸い込む空気中にまで、至るところに存在する。しかし、川久保玲はその事実に打ちのめされるのではなく、世界の「不正や不条理」を、生産性と変化の源とみなしている。
「怒りのエネルギーを創造に注ぎ込む。私は昼も夜も怒り、懸命に働いている。それが今の私にできる精一杯のこと」