DIOR Winter 2020-2021 Men’s collection:追悼 ジュディ・ブレイム
キム・ジョーンズはウインター2020-2021メンズコレクションでクチュールと悪びれないダンディズムを讃え、ファッションの革命児、ジュディ・ブレイムの死を悼んだ。
Photography Mitchell Sams
パリ時間の2020年1月17日、キム・ジョーンズは2018年2月に亡くなった友人のジュディ・ブレイムへ贈る、絢爛豪華なトリビュートを披露した。
ジュディは何十年にもわたって、数々の世代に影響を与えた。彼のレガシーは、彼が生涯にわたりコントリビューターを務めたi-Dの誌面をはじめとして、あらゆるところに生き続けている。日々の生活で溜まるゴミを、最高に美しいファッションへと変えたジュディの美学とDIORとは対照的に見えるかもしれない。
「持っていないならつくればいい」とはジュディの言葉だが、DIORは常に「持っている」。しかしDIORは、誰よりも見事に「つくる」こともできるブランドなのだ。
キム・ジョーンズはジュディの作品を模倣するのではなく、人間としての彼、その個人的なスタイルに敬意を表した。

ジュディの友人であるスティーブン・ジョーンズがつくったバッファロースタイルのベレー帽に、シルクのネッカチーフ、ラグランスリーブのコート、DIYの安全ピンネックレス。それらはすべて、ジュディがいつも身につけていたものだ。コレクションではそれに加え、ジュディのファッションやクチュールへの愛を讃えるアイテムが多数登場した。

ショーのオープニングを飾ったのは、パールグレーのサテンオペラコート。その胸元には布地でつくられた立体のバラがあしらわれ、モデルは、小さなパールが施された白いベルベットのオペラグローブに包まれた両手を、ハイウエストパンツのポケットに突っ込んで歩く。
コートの下に合わせているのは、キラキラとクリスタルが輝くペイズリー柄のセーターだ。文字で見るとお腹いっぱいになりそうなスタイリングを想像するかもしれないが、実際は緻密に計算された流れるようなラインが美しいルックに仕上がっており、思わず土曜の朝にカーフスキンのオペラグローブを着けようかな、と考えてしまうほど。


このコレクションをひと言で説明するとしたら、「美しい」に尽きる。クラシカルで伝統的な美しさ、1920年代、あるいは50年代の、エレガントな時代の美しさだ。
その種の美しさはこれまで主に、ウィメンズウェアでフィーチャーされてきた。DIORメンズのアーティスティックディレクターに就任してからの2年でキムは、フォーマル、女性らしさに根づいた、新しい男性の美しさを提案してきた。〈カササギの目を持った孔雀(peacocks with a magpie eye)〉のためのファッションだ。
彼は、英国的な反逆心とサブカルチャーを用い、トレンドを生み出すすべを知っている。本コレクションでは、ラインストーンやパールをブーツやスリムカットのピンストライプに合わせた。そのスタイルはメインストリームで流行するだろう。

しかし、本コレクションの核にあるのは、クチュールと悪びれないダンディズムだ。目を惹くすてきなアイテムが多数レイヤードされたルックは、朝、着飾ることに情熱をかける男性の姿を想起させる。世界への義務としての美しさ、一日を始めるためのスタイル。それこそジュディ・ブレイム。新しいアイテムを買わなくてもこのルックを実現できるのが最高だ。
「ブランドなどは関係ない。どうアイテムを使い、自分がどうそれらをまとうかだ」とかつてジュディは言った。「自分の装いと態度を他人が信用してくれたのなら、それこそがスタイルだ」
その言葉は、企業が設定したドレスコードや文字通りのリファレンスが大手を振り、マーチャンダイズやブランディングに頼りきりのメンズウェア業界において、実に価値のある考えかただ。

本コレクションの装いは、シンプルにすばらしく、卓越していた。それらのルックをみるだけで五感が目覚めるような、それはまるで、ミシュランの星付きレストランのメニューを眺めているときと同じような感覚だ。ジュディはクチュールやラグジュアリーを愛した。i-Dにも、自分のため、そしてガールフレンド全員のためにバーキンが買えたらいいのに、と書いていたほどだ。
ショーの最後を飾ったのは、腰から上に輝く不死鳥の羽があしらわれたロングコート。その刺繍は熟練の〈小さな手〉たちにより、1000時間をかけて仕上げられた。ジュディのような伝説の職人に捧げるトリビュートとして、これ以上にふさわしいものはない。ジュディもきっと、気に入ったはずだ。




This article originally appeared on i-D UK.