新しい呼吸をはじめた東京ファッションウィーク:2021年春夏

全40ブランドのうち半数以上がデジタル発表を選んだ2021年春夏シーズンの東京ファッションウィークを、いくつかのオフスケジュールのプレゼンテーションとともにスローバック。ファッションは、確かに強さを取り戻した。

by Tatsuya Yamaguchi
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20 October 2020, 9:32am

パンデミックによって、ちょうど1年ぶりの開催となった楽天ファッションウィーク東京が幕を閉じた。世界のファッションウィークと同様に、フィジカルのファッションショーとデジタル上での発表が並んだ6日間で、個々のファッションデザイナーたちの絶え絶えぬクリエイティブマインドを垣間見ることができた。東京ファッションウィークは、長い深呼吸をしたあと、また、フレッシュな表情で走り出したのだ。

フィジカルのショーで忘れがたいのは、雨風やまぬミヤシタパークの屋上で行われたPerminuteだ。デザイナーの半澤慶樹が2016年にブランドをスタートさせてから一貫しているのは、実験的で有機的なカッティング。今季もシャープなドレープや彫像的なシェイプを描き、ふたつとないエレガントなドレスやワンピースに仕立てられていた。

tokyo fashion week, rakuten fashion week tokyo, 21SS
Photography Yuichi Ihara

独自のドレスメイクの手法に加えられたのは、ドレーピングとは対極をなす、アウトドアシーンを彷彿するナイロンのバックや高機能素材のガーメント、ブランドとしては意外性があるサイケデリックな質感のあるテキスタイルだった。それらを見事に融合させた半澤は、都市生活をおくる人々の日常とドレッシングの関係にせまる、現実的で美しいビジョンを示した。さらに、今後のコレクションを、春夏、秋冬の季節と連動させるのではなく〈For 5℃ -25℃〉や〈For 15℃-35℃〉といったように、気温や人間の肌感覚に応じて着用できるカテゴリーをもうけて発表予定だという。彼の底知れぬ実験精神は、ブランドとコレクションのあり方そのもののアップデートにも及んでいたのだ。

時代のうごめきを受容しながらも、インディペンデントなマインドを貫き変化を恐れない姿勢は、ファッションの躍動と常に隣り合わせにあるのだと再確認することもできた。

ハンドステッチ、切りっぱなしのカッティング、象徴的なドローイング、安全ピンやチェーンを組み合わせたアクセサリー。ほぼすべてのピースに施された手仕事のリズム感が、小気味よい温もりを感じさせるYusho Kobayashiは、鉄琴とパーカッションの音色と闇夜を背景に、白昼夢のようなショーを披露した。セントラル・セントマーチンズを卒業して帰国後、ブランドを立ち上げて3シーズン目のコレクションは、柄や素材使いで異なるエッセンスを衝突させ、静かな狂気を宿しているようにみえた。反抗期を表現したシーズンタイトルは「lost」。強くシンプルなメッセージだ。

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Photography Kanade Hamamoto

ヨガやピラティスの流行はその現れかもしれないが、ステイホームの期間を経て人間——あるいは自分自身の身体にも関心が向かっている。MIKIOSAKABEがこの数シーズンで推し進めているのは、重力と身体感覚、そしてファッションの関係を“足元”からリ・デザインすることだ。

それは、坂部がクリエイティブディレクターを務め、滑らかなカーブを描くアウトソールで知られるフットフェアブランドgroundsのコンセプトとも通じている。〈歩く〉という日常的な動きに変化をもたらすことに力を注ぎながら、ロジカルにデザインされたウェアラインは、滑らかな質感のナイロンを用いたカジュアルドレスやボタニカル刺繍入りのレインコートがイメージを牽引。フェイスラインがぼやけるようなカラフルなメイクアップ、靴と身体を一体化させるようなホワイトのロングソックス、光を吸収して彩度が変わるテープの装飾、パステルのカラーパレットに加え、甘美なフリルやギャザーをはしらせガーリーな人物像が浮き立つ。

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Photography Masaya Tanaka

洗練されたテーラリングを基軸に、アイスランド系デンマーク人アーティスト、オラファー・エリアソンの作品に着想したYuki Hashimotoは、空間全体をサーマルブランケットで包んだようなショー会場を作り上げた。いくつものファスナーやポケットを配した、マルチウェイのジャケットやベストなどで、フューチャリスティックな質感と機能的リアリティの調和を生み出していた。

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Photography mitograph

現代を「美しくサバイブ」するための衣服を志向したSHOOPは、「世界が分断されつつある中、今まで以上に必要となる人と人との繋がりや、コミニケーションのシンボルとして手形のグラフィック」を今季の象徴に掲げた。

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Photography Rintaro Ishige

ナイジェリアのスケーターブランド、WAFFLESNCREAMのプレゼンテーションを披露したのは栗野宏文がプロジェクトディレクターを務めるFACE A-J(Fashion And Culture Exchange. Africa-Japan)。国境を超えた文化的交流は、ますます加速していくだろう。

今シーズンのRFWTでは、40ブランドのうち25ブランドがオンラインでの発表を選んだのも大きな特徴のひとつだ。スローバックして感じられることがあるとすれば、世界中で模索され続けている映像表現のレトリックは、肉眼では捉えられないイメージや、現実では描ききれない想像の世界をビジュアル化することにあるのかもしれない。マスク姿の人々が往来する東京のランドスケープに、ラッセルコードレースを多用した凛としたワードローブを身に纏うモデルが佇む姿と内省的な世界観の中で踊るエモーショナルなダンスを融和させたAPOCRYPHA.も、そのひとつだ。

ブルックリンのスタジオを360度で探索できる映像をNYFWでコレクションを発表したKOZABUROは、東京で無観客ショーを開催——コレクション、モデルのキャスティング、音楽、配信映像の内容の全てが整合して最高にクールだった。リアルタイムで配信した映像は、回転する巨大な円盤の上にモデルを置き、ルックの前後左右をシステマチックにとらえる3つのアングルをひとつの画面に並列させるというアプローチ。同時に複数の視点でコレクションを見ることはフィジカルでは不可能なのだから、どうやら、映像の表現はまだまだ可能性に満ちている。

ヨーロッパ各地を拠点とするbig design award——2019年に発足したアジア発のグローバルファッションコンペティション——のファイナリストであるRobyn Lynch(ロビン・リンチ)、Tíscar Espadas(ティスカー・エスパダス)、Fabian Kis-Juhasz(ファビアン・キシュハス)、SKARULE(スカルール)のビデオは、映像表現がデザイナーのアティチュードを示す素晴らしい手段のひとつであることを明らかにしていた。

個々人に宿るオリジナリティこそ、いま、私たちが刮目するべきなのだ。溢れんばかりのクリエイションへの熱量と、既存の衣服のコードや造形を過剰なまでに再解釈したエネルギッシュなコレクションで、ショーに来場したゲストを圧倒したRequaL≡も、同アワードのファイナリストのひとりである(Fashion Awardの受賞者でもある)。硬直したファッション業界を打破する力さえも感じさせる。

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Photography Toshiki Aoki

フィジカルな学びの場から遠ざかるを得なかった学生たちにとって、将来が不透明なことは深刻な問題だといっていい。当然、ファッションシーンにおいても、である。そんな中、自身の2021年春夏コレクションに加え、Emilio Pucciとのコラボレーションを発表したばかりのTOMO KOIZUMIが、一対一のコミュニケーションをベースにしたインキュベーションプログラムを手掛けたという報せは、光明のように思えた。

坂部三樹郎が主宰するインディペンデントなファッションスクール「me」は、個性的な17人の卒業生による合同ファッションショーを開催した。新しい才能との出会う機会が、東京のファッションシーンのカンフル剤になることを願ってやまない。

リフレッシュした東京ファッションウィークに活力を与えたランウェイがある。ルネ・マグリットにインスピレーションを得たTAAKKのショーだ。会場は、植物が生い茂る、ユートピアのような新宿御苑の大温室。私たちを現実からいささか解き放ち、いっときの旅に誘ったのだ(傑出したフィジカルなショーの醍醐味である)。

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Photography Ko Tsuchiya

コレクションは、テキスタイルやスタイリングにおける“錯覚”がキーワードだ。リネンのボディから裾に向かってシャツ地に切り替わるテーラーメイドのジャケットはタックインでき、コットンのバーバリークロスからローンに織りを変換した透け感のあるトレンチコートは実に軽やかに仕立てられた。ブランドの基軸ともいえる素材開発における高度な技を活かしたコレクションで、ことさら目を引く色褪せた花のグラフィックは、自宅の花が枯れていく姿に惹かれたのだとデザイナーは話していた。

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Photography Ko Tsuchiya

花弁が枯れるように、失われた時間を取り戻すことはできないが、困難な時代に屈服することなく未来を想像することができるのは、ファッションデザイナーの創造性が生み出す、文化的な力ではないだろうか。

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