リナ・サワヤマは地獄でも黙らない。楽曲に込める愛と政治観

Coachella、Big Weekend 2022のパフォーマンス、新曲『This Hell』が話題のリナ・サワヤマが、前線に立って声をあげ続ける理由

by Kotetsu Nakazato; translated by Lana Kageyama
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22 June 2022, 7:00am

「あなたにとってのクィアアイコンは?」と聞かれたら誰を想像するだろう。レディー・ガガやリル・ナズ・X、サム・スミスやマイリー・サイラスが名を連ねるなか、今、全世界が注目し、絶大な支持と人気を得ているのがリナ・サワヤマだ。

2020年に自身のアイデンティティや家族、友達といったパーソナルなテーマを盛り込んだファーストアルバム『SAWAYAMA』を発表し、『NME』が選ぶ2020年のアルバム・オブ・ザイヤーに7位でランクイン。日本にルーツを持つリナが5歳の頃から過ごしてきたイギリスで受けた、アジア系に対するマイクロアグレッションをFワードを用いながら力強く「黙れ!」と歌う『STFU!』、自分のジェンダーやセクシュアリティを理由に家族を失うことのあるクィアの仲間に「家族はあなたが選んでいい」とクィアコミュニティとの連帯を歌った『Chosen Family』など、多くのマイノリティとされる人々の、そしてリナ自身が歩んできたルーツを丁寧に掬い上げる楽曲に、ピクセル(リナのファンダム名)だけでなく数多くのアーティストがラブコールを送った。

そんなリナのセカンドアルバム『Hold The Girl』が9月2日に発売されることが発表され、リードシングル『This Hell』が配信された。「This hell is better with you この地獄はあなたといればマシ」と歌う本作は「コミュニティの大切さを歌いたかった」とリナは語る。「アメリカではようやく民主党の大統領に変わったけど、それまでアメリカを率いていたトランプの政権下ではマイノリティ、特にクィアの権利をなかったことにした。イギリスでもJKローリングのような素晴らしい物語を生み出す作家がトランスジェンダーに対する差別を繰り返したりと、社会は進んでいると思っていたけど実際はそうではないんです」

クィアであることをオープンにしているリナ自身も、こうした現状にはがっかりすると言う。しかしリナはこの地獄のような現状にも、ポップミュージックの力を用いて問題提起をし、クィアコミュニティをエンパワーしている。「私たちは育った場所やコミュニティに拘らず、新しい居場所を作ることもできる。人生において辛いと感じさせられたり、ショックを受けた出来事について皮肉を込めて歌いながらも、同時にセーフプレイスとなるような楽しいポップソングを作りたかったんです」

クィアコミュニティにとって現社会が生み出す状況が「地獄」だという表現は大げさな話ではない。今年の1月に子どもたちが学校でジェンダーやセクシュアリティ、LGBTQ+に関する議論を行うことを禁じる通称『Don’t Say Gay法案』がアメリカフロリダ州で可決された。LGBTQ+の若者の自殺防止・メンタルヘルス対策を行う団体『トレバー・プロジェクト』は今年、LGBTQ+の42%が「昨年、真剣に自殺未遂を考えていた」と発表。未だにLGBTQ+に対する差別が根強く残るなか、この法律はよりLGBTQ+の若者を窮地へと追いやることになる。

先日開催された世界最大規模の音楽フェス『Coachella』に出演したリナは、会場に集まったファンとともに、この『Don’t Say Gay法案』に対して「私が“Say”と言ったら、“Gay”と言って!」とコールアンドレスポンスで反対を表明した。

ステージ上で政治的な発言をすることに対して「私が尊敬するアーティストや、音楽界でレジェンドとされてきた人たちは、常に問題に対して声をあげてきました。リスクを取りながらも、世界に対して伝えるべきことを発信している姿にインスパイアされてきたし、私もそうでありたい」と語り、リナ自身が影響を受けたアーティストとしてエルトン・ジョンレディー・ガガの名をあげた。「エルトンは毎朝新聞を読んでいて、多くの問題に関心を向けています。レジェンドすぎて、本来であれば人の問題や心配事に耳を傾ける必要なんてないかもしれないのに、彼は常に世界で何が起きていて、何を自分がすべきなのかを考え行動しているんです。ガガもリスクを恐れずに声を上げ続けるアーティストのひとり。ラスベガスでガガのジャズショーに行ったことがあるんです。ラスベガスはとても保守的な街で、ショーに来ていたほとんどの人は、彼女が歌うスタンダードなアメリカンミュージックを聴きに来ていたと思います。だけどガガはショーの最中に何度もクィア基金について話し、会場に向かって「クィアとアライの人は立ち上がって!」と声をあげていたんです。なかには会場を去った人もいたけど、アウェーな状況のなかでクィアのために声を上げ続ける姿にとても感動しました」

リナはこの二人のように「世界で何が起きているのか意識し続けたい」と話す。日本ではアーティストが政治的な発言をすることがまだまだタブー視されているが、リナにとってのステージは「信じることのために立ち上がれる場所」だという。「自分のショーは1時間程だけど、愛のある空間を作り、その時間は誰もがありのままの姿で楽しめるセーフプレイスであることを大切にしています。そしてこの時間は、人々に理解を与える貴重な時間だとも思うんです。愛を持ち強く発言することは、ヘイトを持つことよりもチャレンジングなこと」と語るように、リナのステージは現状の社会やシステムに対し強く意思表明をしながらも、会場は愛で包まれ、あらゆるフラッグが掲げられ、一人ひとりが歌い、踊り、肩を組み“自由”を表現している。リナがステージに上がれば、そこは誰もが安全を感じられるダンスフロア付きのシェルターとなるのだ。

最後にリナは、日本のように同性婚やLGBT差別禁止法が認められていない場所に住むクィアに向け、セーフティー、シェルター、メンタルヘルスの重要性を語ってくれた。「自分は愛されるに相応しくないと感じてしまったり、そう信じてしまう気持ちはとてもわかります。私たちが生きてきた長い時間、自分の存在を否定され、間違ってると言われてきたのだから。だけど家族や社会から受け入れてもらえないことは、あなたの恥ではないし、あなたのことを愛してくれる人やコミュニティ(シェルター)はこの世界に必ず存在する。まだカミングアウトしていなくても大丈夫。必要なだけ時間をとってください。正しいカミングアウトの方法なんてないし、まずは自分の安全を一番に考えて、心の準備を整えてくださいね。悲しいことに全世界とは言えないけど、あなたの人生にはあなたを理解し、愛してくれる人が必ず現れるから」

リナ・サワヤマはクィアアイコンだけではなく、ポップミュージックとアクティビズムの二つの概念を拡張し続けているわたしたちのネクストリーダーだ。もちろん、リナにだけ闘ってもらうのではない。わたしたちはリナのショーへ行き、歌い、踊り、愛を持って声援を送り、「信じることのために立ち上がれる場所」を一緒に作っていく必要がある。それがわたしたちのプロテストなのではないだろうか。

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