五輪観戦に疲れたら観たいブラジル映画10本

ファヴェーラを舞台にした物語から、テクニカラーで鮮やかに描かれたカーニバルの熱狂まで。ここに紹介する10本の映画はどれもブラジルの夢と現実を鮮烈に映し出している。

by i-D Staff
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12 August 2016, 12:15pm

Still from City of God

1.『セントラル・ステーション』(1998
『モーターサイクル・ダイアリーズ』(2004)のウォルター・サレス監督によるこの作品は、母を失い、一度も会ったことがない父を探す旅に出る少年と、失うものもすでにない未婚の中年女性が少年の旅に同行する模様を描いている。監督のサレスはこの作品で米アカデミー賞2部門にノミネートされるなど世界的評価を受け、ブラジル映画界の代名詞ともいうべき存在となった。予告編を観るとこの映画を「センチメンタルな作品」と思うかもしれない。しかし、少年と旅をすることで生じる予期せぬ責任に悩み、ときにそれから逃れようと手をつくす中年女性を「ブラジルのメリル・ストリープ」と称される名女優フェルナンダ・モンテネグロが演じ、その怪演も手伝って、この作品は薄っぺらな感傷を免れている。国を横断して父親を探す少年の向こうに、ブラジルが見える作品だ。

2.『愛の四重奏』(1995
監督ファビオ・バレットはこの作品でブラジルの歴史を題材として扱い、ブラジル映画としては30年以上ぶりとなる米アカデミー賞外国語映画部門でのノミネートを得た。タイトルは、パートナーを騙して勝たなければならないトランプゲームの名称からつけられたという。20世紀初頭のブラジルに移民としてやってきた2組のイタリア人夫婦、テレサとアンジェロ、そしてマッシモとピエリーナ。いずれも不釣り合いな夫婦で、当然のようにテレサとマッシモが恋に落ちるが、保守的な社会での秘められた恋は、抜き差しならない様相を呈していく。

3.『シティ・オブ・ゴッド』(2002
犯罪発生率の高さから、住人の生存率が「生き延びることができたとして20歳まで」と言われるリオデジャネイロのスラム街を描いた本作。フォトグラファーになることを夢見る主人公の青年は、リオのビーチライフの陰に潜む暴力的な現実をドキュメントすべく、スラム街の犯罪王ふたりのあいだに起こる抗争のなかへと足を踏み入れていく。フェルナンド・メイレレス監督は、この作品をギャングスター映画とスリラー映画の要素を融合させた作風で作り上げた。鮮やかな色彩と無名のストリートキャストたちが醸し出す生々しいリアリティが奇跡のエネルギーを生んでいる。

4.『ピショット』(1981
リオとサンパウロで撮影されたドキュメンタリースタイルの『ピショット』は、警察と巨大ドラッグ組織によってブラジルのストリートキッズが虐げられている現実を容赦なく見せつける。監督のエクトール・バベンコはこの映画で、11歳の主人公ピショットが、刑務所での虐待からドラッグ売買、売春までを経験する様を描いている。物語は現実のものとして撮影後も続き、ピショットを演じたフェルナンド・ラモス・ダ・シウバ(Fernando Rmos da Silva)はサンパウロで警察官に銃殺され、19歳でこの世を去っている。バベンコはその後、名作『蜘蛛女のキス』を世に送り出すなど世界的な成功を収めたが、今年初旬、70歳でその生涯を終えた。発表から35年を経た現在でも『ピショット』は世界に影響を与え続けている。ハーモニー・コリンやスパイク・リーをはじめ、多くの監督たちが、この映画に大きな影響を受けたと明かしている。

5.『The Second Mother/ザ・セカンド・マザー』(2015
荒々しい犯罪映画はこの辺でひと休みして、この『ザ・セカンド・マザー』を観てほしい。サンパウロの裕福な家庭で住み込みの家政婦をしている女性の人生を、感動的に、そしてときにユーモアを交えて描いたブラジル映画だ。主人公は、田舎町に暮らす家族のため、自分の人生を投げ打って家政婦として働く中年女性ヴァル。しかし、家族への仕送りのため懸命に働くヴァルのもとに、18歳の娘が現れる。サンパウロの大学を受験するという娘は、母ヴァルが働く家に転がり込み……。脚本と監督を手掛けたアナ・ムレイエルト(Anna Muylaert)は、現代ブラジル社会を鋭い視線で見つめ、階級や世代、母娘の関係のあり方を探っている。

6.『アイルトン・セナ~音速の彼方へ』(2010
現在公開中の『エイミー』を手掛けたイギリス人ドキュメンタリー監督アジフ・カパディアによる作品だから、厳密にはブラジル映画ではないが『アイルトン・セナ』はブラジル人がスポーツに向ける熱狂を如実に物語っている作品だ。現存しているアーカイブ映像とホームビデオ映像を織り交ぜ、カパディア監督はブラジルの国民的英雄であるセナとブラジルの宗教熱を背景に、この伝説的F1レーサーの生と死を物語として描いている。

7.『黒いオルフェ』(1959
フランス人映画監督マルセル・カミュは、ギリシャ神話『オルフェとユーリディス』の舞台をテクニカラーの現代リオカーニバルに移して描き、カンヌ映画祭でパルムドールを獲得した。主なキャストに黒人系ブラジル人を起用して物語を描いたことは当時の世の中に衝撃を与えたが、その評価は現代になり批判の対象となりつつある。アメリカ大統領バラク・オバマは、自身の回想記のなかで、母親と初めて『黒いオルフェ』を観たときの思い出について触れており、そこで、子供じみた黒人キャラクターをあまりに単純化していると批判的な見解を示している。

8.『マダム・サタン』(2002
リオのボヘミアン文化が生き生きと描かれたこの映画は、伝説のドラァグアーティストにしてカポエイラ界のスター、また元犯罪者としても有名だったホアン・フランシスコ・ドス・サントス(João Francisco dos Santos)、別名マダム・サタンが、人種や階級、セクシュアリティの差別と闘い、ブラジル社会で矮小化された人々のあいだでアイコンとなるまでの姿を描く。伝説的なファイティングスタイルで警官たちをなぎ倒していくシーンは痛快だ。

9.『Only When I Dance/オンリー・ウェン・アイ・ダンス』(2009
苦難を乗り越えてコンペティションに挑む若き才能たちを追ったドキュメンタリー映画『オンリー・ウェン・アイ・ダンス』。貧困地区ファヴェーラに育つイルランとイザベラがバレエカンパニーに入る夢を叶えるべくオーディションに挑む。定番の設定ではあるものの、一心不乱に夢を追いかけるふたりの執念と才能はいやおうなしに観る者の胸を打つ。

10.『彼の見つめる先に』(2014
ダニエル・ヒベイロ監督デビュー作『彼の見つめる先に』は、セクシュアリティと自我に目覚めるティーンを丁寧に描き「ブラジルのユース映画=ファヴェーラのストリートキッズ」というイメージを払拭した。レオナルドはサンパウロに暮らす盲目のティーン青年。学校に転入してきたガブリエルに惹かれていく自分に気づくが、幼馴染の親友、ジョヴァンナがことを複雑にしていく。音楽はブラジルどころか南米とも関係のない、スコットランド出身のベル&セバスチャン。サンパウロよりもサンダンスで出会えるような、軽快にして甘酸っぱい映画だ。

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