クリストファー・ジョーダン・ウォレスが語る、映画『KICKS』と偉大な両親

ノートリアス・B.I.G.とフェイス・エヴァンスを両親に持ち、周囲の期待を一身に担って育ったクリストファー・ジョーダン・ウォレスJr。映画『KICKS/キックス』への出演で、自らの道を切り開いた彼にインタビューを行った。

by Colin Crummy
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25 July 2017, 11:10am

クリストファー・ジョーダン・ウォレスのInstagramプロフィールには、スティーヴィー・ワンダーの曲からの一節が引用されている。「他人からの期待に沿って生きちゃいけない」。俳優、そしてミュージシャンでもあるウォレス——実際の彼はどんな人物なのだろうか。ヒップホップの偉人、ノートリアス・B.I.G.とフェイス・エヴァンスを両親に持ち、父がこの世を去った際には莫大な遺産を引き継いだ——そんな彼を「尊大な男に違いない」と決めつける向きもあるだろう。伝説的なアーティストを両親に持った重圧に押し潰されているに違いないと想像する者もいるかもしれない。しかし実際のウォレスは、礼儀正しく、極めて謙虚な青年だ。

物静かな印象はひょっとすると我々がインタビューを行なった時間にも関係していたのかもしれない。電話インタビューが始まったとき、彼の地元ロサンゼルスはまだ朝10時だった。すでに俳優として評価を得ている彼だから、それについて自慢でもしたくなりそうなものだが、ウォレスはその虚勢を張らない性格が、育ててくれた母フェイス・エヴァンスのおかげだという。

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映画『KICKS/キックス』では、次狙っている女の子たちの話と、自身の確立されたラップ・スタイルについての自慢ばかりする、自信過剰な10代少年アルバートを演じているウォレス。彼いわく、アルバートは「女の子を"落とす"ためのミックステープをサンフランシスコのベイエリアの通りで売っているような男」だそうで、本人とは真逆をいくタイプだ。「アルバートは、母が僕に『こうなってはいけない』と教えてくれたタイプの男だよ」とウォレスは笑う。「母はいつも『ひとに敬意を持って接しなさい』と教えてくれた。アルバートは僕が絶対にやらないことばかりする男なんだ」

『キックス』の撮影が終わると、彼はアルバートのイメージから脱却するべく、すぐに弟のジョシュアとともにジム通いを再開した。アメフトの選手だったウォレス——ジムに通い始めると、すぐにその成果が現れた。「ずっと健康でいたいと思ってる」と、ソーシャル・メディアで見せているイメージを褒めたわたしに、彼はそう答えた。「弟と一緒に、週3〜4回はジムでトレーニングをしてるんだ。弟とはこれまでもずっと鼓舞し合ってきた。アメフトをしていた頃からそうだった。いつも僕たちは互いを高め合ってきたんだ」

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2017年、トライベッカ映画祭でプレミア上映された『キックス』。アルバートの友人ブランドンは、地元ギャングに盗まれた新品のNikeエアジョーダンを取り返そうと奮闘する。ウォレスが演じるアルバートは、映画のコメディ要素を一身に担っている。アルバートと友人のリコは、宝物のスニーカーを盗まれたブランドンを守り抜く仲間で、スニーカーを取り戻すと決意したブランドンとともにベイエリアでも特に治安が悪い地域で、恐ろしくも面白おかしい珍事を巻き起こす。「これは敬意の問題なんだ」とウォレスは、箱に入った新品のエアジョーダンが持つ魔力について言う。「新品のエアジョーダンを持つと、ひとは何者かになったように錯覚する。クールな存在になれたように感じるんだ。そして、それが奪われてしまうと、もう元の自分には戻れない」

『キックス』の監督は、本作がデビューとなったジャスティン・ティッピング。ティッピングは10代の頃、景品としてもらった白のNikeエアプレストを奪われた経験を持つ。この実体験が映画の原案となっているという。「地元のギャングたちにシューズを盗まれて、家まで裸足で帰ったそうだよ」とウォレスは話す。しかし、この映画が捉えまいとしているのは、そんな経験が物語る教訓だ。「シューズを奪われたことに対して、彼の兄は『それでいいんだ。これでお前もいっぱしの男だ』って言うんだ」

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6年生のとき、ウォレスは大きな期待に応えなければならなかった。伝記映画『ノートリアス・B.I.G.(Notorious)』で父の幼少期を演じたのだ。父の母、すなわちウォレスの祖母から、この役のオーディションを受けてくれと頼まれたのだという。プレッシャーはなかったのだろうか? 「当時はもちろん大きなプレッシャーに感じたよ」とウォレスは認める。「ビビってた。『オーディションを受ける——そして自分は父親を演じようとしてるんだ』って思った」。しかし、そこでウォレスは強い衝動を感じたそうだ。「ものすごい緊張だったけど、すぐにやる気に変わった。逃げなかったよ」と彼は言う。「もしあの役を取れなかったら、相当悔しい思いをしたと思う」

ウォレスはとにかくひたむきだ。しかし、だからといって彼に情熱が欠けているわけではない。実生活での彼は現在、サンタモニカ大学でコミュニケーション学を専攻する学生だ。そして、弟と友人ロータス・リー(Lotus Ley)とともに音楽づくりをしており、年内には作品を発表する予定だ。偉大なミュージシャンを両親に持つウォレスだ——音楽づくりはもっともな流れだろう。ウォレスが生まれた5ヶ月後の1997年3月、銃弾に倒れた父は、死後20年が経過した今でもヒップホップの歴史においてもっとも偉大なアーティストのひとりとして考えられている。そして、ウォレスの母はアルバム300万のセールスを記録しているグラミー賞受賞アーティストで、現在の音楽界に大きな影響を与えてきたアーティストなのだ。

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両親の影響はもちろんあると言うウォレスだが、彼の音楽には、両親とは異なるR&B要素が色濃い。現在は、音楽づくりと映画出演、そして学生生活に追われるウォレスだが、そんな中でも自分の道を切り開いていくつもりだそうだ。「物心ついた頃から両親のようになることを期待され、音楽業界に進むことを当然と思われてきた」と彼は言う。「でも、ひとの期待に応えるために生きちゃいけないとずっと思ってきたんだ。やりたいことをやり、心底好きなことをやって生きていかなきゃと思ってきた」

学業はほかのすべてが成果を得られなかったときのため——"もしものときのため"のものだという。しかし、これまでの活動を見るかぎり、ウォレスに"もしも"のことは起こらなさそうだ。有名で偉大すぎる両親を持つことの大きなプレッシャーはあるだろう。しかし、だからこそ切り開ける未来があるのだと彼は言う。「プレッシャーではある。でも、僕はそれを促進剤だと思ってる」と、ウォレスは言う。「すべてはプラスにしか働かない。いま僕がやっていることは、父ができなかったこと。僕は自分の道を進んでいるんだ」

Credits


Text Colin Crummy
Photography Todd Cole
Styling Turner Turner
Translation Shinsuke Kuriyama at WORDSBERG Inc.