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胎児の命令で妊婦が殺人をくり返すホラー映画

母親のあり方に対するステレオタイプや、映画界における女性キャラクターの扱われ方、そして女性の役割について、すべてをひっくり返してみせたアリス・ロウ監督の『Prevenge』が公開される。

by Colin Crummy
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10 February 2017, 12:04pm

なんともキュートな物語を話して聞かせよう。映画を作らないかという話を持ちかけられたとき、アリス・ロウ(Alice Lowe)は妊娠6ヶ月だった。ベン・ウィートリー監督の『サイトシアーズ殺人者のための英国観光ガイド』で主演と脚本を務めたロウは、初めて脚本、主演、監督をやらせてもらえる好機だと、この話に飛びついた。さらに、撮影の最後には生まれたばかりの愛娘デラをシーンに出演させることまでできた。しかし、ここで"幸せなママ"像の甘く淡いイメージに惑わされてはならない。この物語は、キュートなだけではない。子ども服ブランドは、妊娠や母親らしさをソフトなパステルカラーのうちに描こうとする——しかし、ロウが作りたかった映画は、真逆をいく世界観だった。

『Prevenge』は、「お腹の胎児が自分を操って復讐の連続殺人を企てている」と信じてやまない妊婦が主人公のホラー映画だ。それと同時に「怒りに満ちた妊婦が殺人を繰り返す」という、既成の女性観をぶち壊すようなその内容は、ブラック・コメディの極みでもある。撮影中にロウが実際に妊娠していたという事実も面白い。

大虐殺が繰り広げられるストーリーながら、ロウはそこで"母親というものへの先入観"を逆手にとって、妊婦であることの恥部をダーク・ユーモアに変えて見せている。この映画を通して、映画界で女性が直面する問題についても問いを投げかけている彼女にインタビューを行った。

この映画製作のきっかけは?
以前一緒に『Black Mountain Poets』という映画を作ったジェイミー・アダムス(Jamie Adams)から電話をもらい、「また映画を作らないか」と誘われたんです。そのとき、私は妊娠6ヶ月で「これはやるべきだ」と思いました。そこで、復讐の連続殺人に燃える妊婦というアイデアを話し、「2ヶ月で撮り終えないといけない」という話をしました。子どももできて、映画も作れて——一石二鳥だと思いましたね。

この映画のアイデアはどこから?
女優にとって、子どもを授かるのはとても怖いことなんです。妊娠がわかったときにも「知られたら仕事がなくなる」と、妊娠が周囲に知られないよう私を説得する友達までいました。怖かったですね。子どもが生まれるだけでも怖いのに、仕事までできなくなるなんて。私はフリーランスで活動しているので、政府からの出産補助金しかもらえないんです。映画業界で働けないとなったら私は何をすればいいのか?母親でも映画監督にはなれるのか?人生に対して、実存主義的な危機感をおぼえました。母親になるということは子育てに時間を費やして、社会的な活動が制限されるわけですから。どんな妊婦にしたら面白いかを考えたとき、それが「社会から求められる妊婦」像の真逆のあり方だと気づいたんです。リネンやパステル、蝶々、子どもの呼び名のことばかり考えているのが、世間一般の妊婦のイメージだと思うんです。この映画に出てくるのは、怒りに燃えていて、過去と死の考えに取り憑かれている女性です。これから新たな命をこの世に送り出そうとしているのに、死のことばかり考えている——そういう人物です。

情け容赦ない女性を描くことに躊躇はありませんでしたか?
妊婦はどこでも情けばかりかけてもらえるので、その情けの部分をキャラクターから取り除くのは大きな挑戦でした。最初の殺人はショッキングに映ると思います。「男性キャラクターが攻撃する側で、女性が被害者になる」という展開には誰もが慣れていますからね。そういった通念を、意図的におちょくったんです。また、女性が愛すべきキャラクターとして描かれる傾向も扱いたいと思っていました。「このキャラクター、もっと感じよくならないかな?」とこれまで何度言われてきたことか。それは男性キャラクターについては絶対に聞かれない意見です。そんなことどうでもいいでしょ!と私は言いたい。映画としては、女性キャラクターが感じ良いかどうかなんて関係ない。観客が女性キャラクターを好きになる必要なんてないんですよ。その人の心の動きを追うことができれば、それで十分でしょう?

なぜ女性キャラクターについてそんな意見が出てくるのでしょう?
"母親としての役割"が関係しているのかもしれませんね。ひとを支え、自己犠牲を払う存在として考えられがちなんですかね。たしかに母親であるということは、そうしたことも伴います。ただ、高齢出産も増えていますし、子どもを持たないと決めている女性もいたり、仕事を優先したり、自分のアイデンティティを最重要と考える女性もいたりする今の時代、 "献身的で自己犠牲をいとわない" という母親像はますます当てはまらなくなってきていると思います。私たちがそう認識していないだけで、実は男性キャラクターにこそそういう面があるのかもしれないわけです。男性キャラクターはいつも話の主軸となっていて、彼らがやりたいようにやるから話が前に進む——女性キャラクターは小道具として扱われると考えてしまう傾向にあります。

妊娠をこのように表現するのをためらったりはしませんでしたか?
一線を超えたいと思っていました。神聖で清潔で愛すべきスイートな存在とされている妊婦観を、真っ向から否定するようなものにしなければならないと思いました。

殺害されていく人々のタイプ分けはどのように?
自惚れていて自分勝手な人たちにしようと考えました。彼女(妊婦)が、社会において有害で、「自分の赤ちゃんが生まれてくる世の中を汚す人々」と考えるキャラクターを作り上げていくのは実に楽しかったです。憎むのを楽しまないと、殺しにテンションは生まれませんからね。

『Prevenge』はイギリスで2月10日から公開。

Credits


Text Colin Crummy
Translation Shinsuke Kuriyama at WORDSBERG Inc.