人は何のために走るのか? 菊乃がタイの国民的ロック歌手トゥーンとの出会いから考えた「ランニングの可能性」

ナイキラボとアンダーカバーによるランニングのコラボライン、GYAKUSOUのシーズンビジュアルに登場した菊乃が、55日間におよぶ約2200kmのチャリティランを達成したタイの国民的ロックスター、トゥーンと対面した。偉業を成し遂げたランナーとの出会いに、彼女は何を思ったのだろうか?

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20 May 2019, 8:00am

ランニングの目的は人の数だけある。大きなゴールを掲げる人もいれば、日常に欠かせないルーティンのひとつだという人もいる。正解も、間違いもない。自分自身が望むスタイルを選択できるのが、ランの最大の魅力だろう。

UNDERCOVERの高橋盾が率いるランニングチームGIRAにとってランとは、特定のゴールを設けない生活の一部であり、クリエイティビティを刺激する瞑想的なものだ。チームGIRAの精神を体現する次世代のランナーのひとりとして、GYAKUSOU SP19シーズンビジュアルのモデルを務めたPURPLE THINGSのデザイナー菊乃の場合はどうだろう。「走るのは、ご飯を食べる、歯を磨くというのと同じような日々の行ない」なのだと彼女はいう。

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「盾さんとは6〜7年前からの知り合いで、すごく仲がいいんです。真面目な話は一切しないけど(笑)、いろいろな感覚が似ているなと勝手に思っているんです」。海外に行ったら、その町並みを体感しながら走るという彼女は、UNDERCOVERのショーに出席するために向かったパリで、高橋盾と早朝6時に待ち合わせ、極寒のなかを一緒にランニングしたという。もちろん、GYAKUSOUのプロダクトを身に纏って。「一言で言うと、GYAKUSOUは、盾さん自身がランナーであることが体感で分かるプロダクト。走っているときの『こうだったらいい』という要素が凝縮された無駄のないデザインだと思います。例えば、ポケットがこの位置で、この数あって、こういう形状をしていれば理想的だ、とか」

GYAKUSOUのオリジナリティは、プロフェッショナルなランニングギアとして裏打ちするNIKEの知見が凝縮した高機能素材や製法のうえに、高橋盾のクリエイティブワイズが調和していることにある。「ランニングするときに見た目も気にしたいじゃないですか。デザイナーの先輩としても、ランニングの先輩としても尊敬している人がつくるものですから、すべてにおいて信頼できるんです」

ソロで走ることが多い一方で、「“一緒だけど違う”ランナーと出会えたら」と話していた菊乃。来日中に、東京だけでなく世界中から訪れていたランナーたちと一緒に走った、タイの人気ロックバンドBodyslamのリードボーカル、アルティワラ “トゥーン“ コンマライとの出会いは、まさにそんな出来事だった。

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彼は、タイ各地の病院に医療器具を届けるための募金を募る55日間におよぶ2191kmのチャリティランを成し遂げたランナーだ。「タイの人たちが自分の体と健康を考える大切さを伝えたかった」と言うが、「一方で僕は、タイを横断する最初の人になりたいとも思っていた。今回の挑戦は、自分自身の達成感のためのランでもありました。走ることは僕をハッピーにするから」とトゥーンは話してくれた。

日本円で約40億円に及ぶ募金。実現までの労力や過酷さ。そのどれを取っても規格外で、想像を絶するものだったに違いない。「そんなに長い距離は不可能だし、クレイジーだと言う人もいました。もちろん、Nikeの素晴らしいサポート無くして実現できないプロジェクトでした。この55日間、小さい一歩の積み重ねによって、気づくと最高のゴールにたどり着いていたんです。きっとどんな人のキャリアや人生にも言える、とても大切なことを僕自身が学んだし、そのことをタイの人たちに伝えられたんじゃないかと思っています」

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この日トゥーンと初対面した菊乃も、同じランナーとして驚きを隠せないでいた。「距離も日数も、自身が目標とした金額を上回る募金を集めたこともすべてが信じられない。彼のランがタイの人たちの心を動かしたという事実に感動しています」。トゥーンと別れたあと、彼女はこう続けた。「タイの人は優しくて、もともと大好きなんです。自分の時間を使って何かをしてあげようっていうケアリングの気持ちで行動している。彼も、こんな偉業を成し遂げたのに本当に謙虚じゃないですか。走るのが好きだから歌でなくランをチャリティの手段として選んだという話も、聞くだけで胸がアツくなる。どれだけの労力が必要なのか想像つかないけど、私もトゥーンさんのようにやれるならチャリティランをやりたいと思いましたね。誰かのために無償でやるって本当に素晴らしいことだから」

「彼が言っていたように、日本でもランニングをする人が増えたら良いなとは思います」と、菊乃は話す。「ただ、私はランニングすることが自分の重荷になったりすることは嫌だし、縛られたくない。自分のスタイルを変えるつもりはないです。でも手始めに、自分が本当に仲の良い子に『走るのも楽しいよ』ってことを伝えてみようかな。まずは自分のできる範囲で、居心地の良いコミュニティを作れたら良いなと思っています」

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Credit


Text Tatsuya Yamaguchi
Photography Kisshomaru Shimamura