Photography Justin French. Styling Carlos Nazario. All Models wear all clothing Louis Vuitton.

「社会の可能性を表現する責任がある」ヴァージル・アブローが語る、ルイヴィトンと創作哲学

ヴァージル・アブローのLouis Vuittonデビューコレクションは、ここ数十年のファッションシーンにおいて最も重要で刺激的な瞬間だった。私たちはストリートウェアがハイファッションの頂点に登りつめるのを目の当たりにした。ヴァージルは軽やかに証明してみせたのだ——熱心に取り組めば、夢は現実になると。

by Osman Ahmed; translated by Ai Nakayama
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24 May 2019, 9:03am

Photography Justin French. Styling Carlos Nazario. All Models wear all clothing Louis Vuitton.

「僕はモノをつくるだけ。その定義は誰かに任せる」。ヴァージル・アブローは、 iPhoneから顔を上げるとそう明言した。私たちがいるのは、クリーム色のカーペットが敷かれた、パリのLouis Vuitton本社。「僕の活動は多岐にわたる。建築家、ア ーティスト、グラフィックデザイナー、服飾デザイナー、クリエイティブディレクター、アートディレクター、スタイリスト、映像作家、写真家、DJ……。何かひとつに集中することには興味がない」

38歳のヴァージル・アブローを単にファッションデザイナーとだけ呼ぶのは、Louis Vuittonを鞄メーカーと呼ぶようなもの。ヴァージルもLouis Vuittonも、それ以上の存在だ。両者が象徴するのは、コミュニティ意識、イデオロギー、ライフスタイル。つまり、より広範な文化だ。2018年6月のLouis Vuittonデビューでは、ヴァージルが吹き込んだ新しい風がファッション界を信じられないほど活気づける瞬間を、私たちは目撃した。会場はパリ、パレロワイヤルの中庭。ゲスト2000人(そのうち600人は、ファッション、アート、デザイン、建築を学ぶ世界中の学生)が、レインボ ーカラーに彩られた長さ200メートルのランウェイを歩く、多様なカルチャー出身のモデル56人をみつめていた。晴れた日の明るい午後だった。BGMはトロント出身のインストゥルメンタルバンド、BadBadNotGoodによるジャズの生演奏。ランウェイを歩いたモデルのなかには、プレイボーイ・カーティ、ブロンディ・マッコイ、オクタヴ ィアン、スティーヴ・レイシー、エイサップ・ナスト、デヴ・ハインズ、キッド・カディなど、見知った顔も多かった。タイトルは〈We Are The World〉。エチオピア飢饉の救済のためにマイケル・ジャクソンとライオネル・リッチーが制作し、1985年に発表されたチャリティシングルの題名からとられた。会場にはカニエ・ウェストも駆けつけ、フ ィナーレで登場したヴァージルと感動の抱擁をする場面も。大規模なショーだったが、家族のような親密な空気感が漂っていた。

「ここはもうカンザスじゃない。僕たちはもう、別の新世界にいる」とヴァージルは話す。この言葉には、デビューコレクションのふたつのメインコンセプトが内包されている。ひとつは白い光がプリズムに当たって生まれる、虹色のスペクトル。そして1939年のクラシック映画『オズの魔法使』。ふたつとも、〈黄色いレンガの道〉を進むヴァ ージルの旅路のメタファーであり、彼がLouis Vuittonのメンズ アーティスティック・ディレクターに就任した初のアフリカ系米国人であるという事実(黒人としては、 LVMHグループ内で2003年にGivenchyのクリエイティブディレクターに就任したガーナ系英国人のオズワルド・ボーテングに次ぐ二人目)、その意義を表している。

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「多様性を尊重し、偏見をもたず、さまざまな地位の人たちに敬意を払う。そういう現代的な考えが、僕の信条に訴えかける」とヴァージルは言う。「それこそ、僕が作品づくりにおいて追求する、核となるもの。このメゾンで、この地位についた僕には、これからの社会の可能性を表現する責任がある」。

デビューコレクションでランウェイを飾った服は、彼が紡ぐストーリーの半分にすぎない。コレクションは鮮やかで明るい色彩ながら、彼が語るような示唆に富んでいた。だらっとレイヤリングされたズートスーツ、〈アクセサモーフォシス(ヴァージル語で〈バッグ+服+ハーネス〉的なアイテム)〉、スケーター風のタイダイスウェット、モノグラム・モチーフ入りの透明PVCバ ッグ。コレクションに多幸感があふれていたのは、デジタル世界に生きる有色人種のミレニアル世代にとって、とてつもなく大きな意味があったからだ。彼らはついに確立されたファッション界に仲間入りを果たした。彼らの文化が認められたのだ。

「あれは対話についてのコレクション」とヴァージルは説明する。「最初のコレクションは、新しい礎として記憶に残るものに、そして読みかけの本のように開きっぱなしにしたかった」。Louis Vuittonのようなブランドの服やそのブランドが有するラグジ ュアリーの重みに関していえば、ヴァージルは良い意味で期待を裏切った。彼はむしろ、テーラリングとラグジュアリーな〈アクセサモーフォシス〉にフォーカスしたのだ(彼のアクセサモーフォシスはレッドカーペットを席巻するだろう)。「僕がやりたいのは、ロマン主義をメンズウェアに取り入れること。フェミニンな仕上がり。より柔らかなエッジ。ラグジュアリーはあらゆるものを暗示するけど、僕はとにかくみんなが欲しがるものをつくろうとしている」

そんなヴァージル・アブローは、どんな道のりをたどってこの〈エメラルドの都〉に到達したのだろう。2002年、土木工学の学位を取得した彼は、イリノイに居を移し建築の勉強を続けた。大学卒業後すぐに、カニエ・ウェストの当時のマネージャー、ジョン・モノポリーの面接を受け、その場で採用される。その後、ヴァージルはカニエとフ ァッション業界への参入を目指し、2009年、ふたりはFendiにインターンとして在籍。翌年カニエは、ヴァージルを自らのクリエイティブエージェンシー〈Donda〉のクリエイティブディレクターに任命した。

ヴァージルは昔から音楽が好きで、十代の頃からDJとして活動してきた。その経験が、彼のファッションへのアプローチにも影響を与えている。名作(クラッシック)をサンプリングし、ジャンルを超えて、オリジナルとはまったく異なるモノを生み出す。「DJはジムでのワ ークアウト、コレクションづくりはオリンピックみたいなもの」とヴァージル。「DJとファ ッションデザインは脳の同じ場所を使う。同じ空間にいる人たちの気持ちがひとつになるように導いて、それを楽しんでもらうんだ」

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独立系デザイナーとしてのヴァージルのキャリアは、Pyrex 23というストリートウェアブランドから始まった。Pyrexは、クラックコカインのパイプに使われるガラスの名前。 23はマイケル・ジョーダンの背番号で、バスケットボールに敬意を表して付けられた。しかしこのブランドは、ローンチからわずか1年で終了。2014年、Heron PrestonやPalm Angelsなどのストリートウェアブランドを傘下に置く小規模コングロマリットであるNew Guards Groupのマルセロ・ブロンの協力を得て、Off-Whiteを立ち上げた。ヘルベチカ、斜めストライプ、ダブルクオーテーションマークで括られたロゴを特徴とするOff-Whiteのデザインは、Instagram文化の興隆とともに急伸した。彼は、できる限り数多くのブランドとのコラボレーションを戦略的に実現。コラボ相手の顧客ベースにアプローチし、Off-Whiteというブランドの知名度を高めていった。

そして2015年には、LVMHプライズ フォー ヤング ファッション デザイナーズの候補としてノミネート。それから3年も経たずして、Louis Vuittonのトップへと任命された。ヴァージルの大ブレイクがいかに急速に実現したかがわかる。

ヴァージルと働く仲間たちは彼のことを〈この世でいちばん忙しい男〉と評すが、ふたつのブランドを率いている今は特にそうだろう。それに加え、数えきれないほどのコラボ企画も進めており、さらに今年6月には、シカゴ現代美術館でキャリアを総括する大回顧展「Figures of Speech」の開催を控えている。彼はそれらすべてを、いったいどう区別しているのだろうか。「Off-Whiteは、17歳の自分との対話。 Louis Vuittonは、1854年創業のメゾンとの対話。そこには歴史があり、畏敬の念がある」と彼は説明する。「ひとつのアイデアについて考えること、1着のパンツをつくること、ランウェイショーをデザインすること。それらはまったく異なる作業。だってそれぞれ別の礎のうえに基づいているから」

ヴァージルの発する言葉すべてにこだわる大ファンもいれば、少なからぬアンチもいる。しかし彼は、批判も冷静に受け止めている。「僕は自分のアイデアをはっきりと言葉にするだけ。そしたらそれを、僕のクリエイティブ面のキャリアが始まった15歳の頃から積み重ねてきたアイデアの山にまた重ねていく」とヴァージル。「僕の活動において、そうやってじっくり考えることは、何物にも代えがたい大切な行為。僕の活動は、活動それ自体との対話と関わり合っている。そこからすべてが生まれる」

彼は自分のデザインがある特定のグループに届けば満足、というタイプではない。すべての人に納得してもらうのが彼の野望だ。「店でぶらぶら見てるキッズにも、どれもこれも気に食わないっていう純正主義者にも届くものをつくりたい。自分がつく ったものがそのまま棚に置きっぱなしになるのはごめんだね」

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ヴァージルはかつて、自分のアプローチの核にある信条について語るとき、1915年にマルセル・デュシャンが考案した作品概念〈レディメイド〉に言及していた。デュシャンは、磁器製の便器や自転車の車輪などの〈ファウンド・オブジェ〉をそのままア ートギャラリーに置くことで新たな文脈を授け、絵画作品とした。見覚えのあるもののはずなのに、そこには考えもしなかったような効果が生まれる。ヴァージルは自らのDJとしての感覚を発揮し、ファッションのジャンルをつなぎ合わせる。「若い頃の僕に、クールの定義を教えてくれたのはスケートボードとヒップホップ」とヴァージルは話す。「今や、すべてがかつてないほど広まる時代。ヒップホップはプレッピースタイルに影響を与えたし、ロックンロールはヒップホップと混ざり合ってる。僕らがいるのは、さまざまなスタイルとカルチャーの坩堝だ」

この考えかたは、スポーツウェアとラグジュアリーブランドのロゴアイテムを組み合わせていたMTV世代に共鳴する。「人は何よりも自分が理解できないものに不快感を覚える」と語るのは、Radio 1のDJ、ベンジー・B。彼は約15年ものあいだヴァージルとともに仕事をしてきて、現在はLouis Vuittonのオフィシャル・ミュージックディレクターとしてLouis Vuittonメンズウェアショーの音楽を手がけている。かつてはフィービー・ファイロのCélineの音楽も担当していた。「だけどそれは、自分の力でのし上がっていく人には当てはまらない。大手レコードレーベルもそう。旧態依然のシステムを保持しようと頑張る人たちがたくさんいる業界だ。でも今のアーティストは、消費者ともっと直接つながってる」

「もちろんヴァージルには卓越した才能があるけど、彼が成功して、こんなことが可能なんだ、と数多くの人が気づくきっかけになった。一生懸命働き、強い決意をもち、集中し、やる気を失わなければ、こんなことが実現できるって」と2018年夏、i-Dに語ったのは、この30年間先頭を走り続けてきた黒人スーパーモデル、ナオミ・キャンベル。「それは希望を、たくさんの希望を与えてくれる」。ナオミの言葉にベンジ ー・Bも同意する。「勢いっていうのはそれ自体がひとつの芸術のかたちであり、ヴァージルはそれを体得してる。それに彼は、何をやるにしてもポジティブなエネルギーを失わない。ヴァージルのこのふたつの美点が、同じような人たちを強く惹きつける」

「確かに僕は、基本的に楽天家」とヴァージル。「できる限り多くの人の代弁者になりたいし、ほかの人たちが作品に見いだすものを表現していきたい」。彼のLouis Vuittonメンズ アーティスティック・ディレクター就任に関しては議論が絶えないが、彼本人にとってはただのノイズだ。Louis Vuitton代表取締役会長兼CEOのマイケル・バークが『WWD』に語ったところによると、今年1月、東京・原宿にオープンしたポップアップでは、オープンから48時間で、去年のSupremeとのコラボと比較して30%増の売上を記録した。このように実際に結果を出していることも、彼の追い風となっている。

「ファッション業界には、次に何が起こるのかを考えるために探求すべきことがたくさんある」とヴァージルは少し間を置き、考えるそぶりをみせる。「でもそんなに大変なことじゃない。変化は業界の外で常に起こっている。ファッション業界ではそれが忘れられがちだし、自らの地位に胡坐をかくことさえある。でも時代は変わっている。ちゃんと正しい場所をみていれば、未来はそんなにかけ離れてないはず」

Credits


Photography Justin French
Styling Carlos Nazario
Hair Mustafa Yanaz at Art + Commerce
Make-up Brittany Whitfield using Glossier
Photography assistance Chad Hilliard
Styling assistance Raymond Gee and Ore Zaccheus
Hair assistance Nastya Miliaeva
Casting Midland Agency
Models Jeffrey, Mayowa, Ahmad Kanu, Jaden Rodriguez and Juantrice Hartfield
All Models wear all clothing Louis Vuitton

この記事は『i-D Japan No.7』ヒーロー号から転載しました。 This article originally appeared on i-D UK.