日本のゲーム音楽に魅了されたニュージーランド人

幼少期に出会った日本のゲーム音楽に魅せられて来日。その熱意が高じて、ゲーム音楽のドキュメンタリー映像の監督や、コンピレーションCDのプロデュースまでも手掛けるニック・ドワイヤー氏のインタビュー。

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nov 15 2017, 2:02am

2017年11月17日(金)、東京・恵比寿LIQUIDROOMにて、ゲーム音楽のライブイベント『DIGGIN' IN THE CARTS 電子遊戯音楽祭』が開催される。また、同日には'80年〜'90年代中期の貴重な日本のゲーム音楽ばかりを集めたコンピレーションアルバム『DIGGIN IN THE CARTS』が発売。

じつはどちらも、ひとりのニュージーランド人による熱い想いが具現化したものだ。その名はニック・ドワイヤー氏、1979年生まれ38歳。なぜ異国の彼が、日本のゲーム音楽に興味を持ち、そして『DIGGIN' IN THE CARTS』というプロジェクトを手掛けることになったのか?

——日本のゲーム音楽に興味を持ったきっかけは?

幼いころ、母親にコモドール64(※1)を買ってもらい、初めてコンピュータに触れました。それがきっかけでエレクトロニックミュージックに惚れ込んでしまい、寝るまえにゲーム音楽をカセットテープに録音しては聞き直す、というのをほぼ毎日やっていました。

そして10歳のとき、日本に行った兄からファミリーコンピュータ(以下、ファミコン)をプレゼントされ、そこで僕の人生が変わりました。当然ゲームは日本語ですから、翌日には辞書を買い、一生懸命日本語を勉強するようになり、それ以来、日本の文化的なものはすっかり僕の生活の一部になったんです。

日に日に「いつか日本に住んでみたい。日本で仕事をしてみたい」という気持ちが大きくなり、つねに日本に呼ばれているような感覚を持ちながら大人になっていきました。

そんななか、ちょうど3年まえに、日本のゲーム音楽を題材にしたコンテンツを手掛けたいと、ふと思い立ち、世界初となるゲーム音楽のドキュメンタリー映像シリーズ『DIGGIN' IN THE CARTS』(2014年/レッドブル・ミュージック・アカデミー)を制作したんです。

ちなみに、DJがレコードを探すことを"Diggin' In The Crates"と言うのですが、『DIGGIN' IN THE CARTS』という名前はそれに引っかけて、「ゲームのカートリッジ(カセット)を探し求める」という意味を持たせています。

(※1)コモドール64:1982年にコモドール社が発売した8ビットホームコンピュータ

フルバージョンはこちらから。

——ニックさんにとってゲーム音楽の魅力とは?

ファミコンをプレゼントされたのは10歳ですから、当時はまだゲーム音楽の魅力はまったくわかっていませんでした。ただ単純に『ファイナルファンタジー』や『ドラゴンクエスト』の音楽は素晴らしいな、と感じていたんです。

ゲーム音楽は、ゲーム機に搭載されたサウンドチップ(※2)によって奏でられるのですが、その音の特異性や美しさといった魅力は、後々から勉強してわかってきたんです。細かいことを調べて、ゲーム音楽のことを深く理解するようになったのは本当にここ4〜5年です。

僕は音楽からその国の文化を知るのが好きで、一時期、ナショナルジオグラフィックで世界各地の音楽を紹介する番組を作っていたんです。その当時のエレクトロニックミュージックは、日本の8ビットゲーム機(※3)の音をサンプリングしているものが多かったんですね。

ただ、そのようなことがなかなか世界の音楽ファンに伝わっていないということもわかってきて……日本のゲーム音楽の良さや、それを作っているゲーム音楽作曲家たちの存在をもっと多くの人に知ってもらいたい、そして当時のゲーム音楽は、れっきとしたエレクトロニックミュージックのひとつであることを伝えたかったのです。そのような想いが、ドキュメンタリー映像シリーズ『DIGGIN' IN THE CARTS』を制作することになった動機のひとつです。

ゲーム機にはファミコンをはじめ、PCエンジンやメガドライブ、スーパーファミコン、そしてパソコンですと、PC-8801、X68000など、さまざまなハードウェアがありますが、それぞれ搭載されているサウンドチップが異なり、奏でられる音も違うんですよね。専門的な話になってしまいますが、矩形波やFM音源、サンプリング音源など、サウンドチップごとにそれぞれ異なった性格を持っていて、どれも非常に魅力的なんですよ。

(※2)サウンドチップ:音声入出力に関する機能を持った集積回路

(※3)8ビットゲーム機:8ビットCPUを搭載した家庭用ゲーム機(ファミコン、PCエンジンなど)

——「音楽からその国の文化を知るのが好き」とおっしゃっていましたが、ゲーム音楽から見た日本の文化はどう感じましたか?

日本には俳句や生け花など、昔から多くを語らなくても最大限の感情を表現できるミニマリスティックな美がありますよね。京都の石庭も、わずかな数の石で、数千の言葉でも語り切れないような感情を表現しているじゃないですか。

'80年〜'90年代のゲーム音楽にも同じようなことが言えると思うんです。たとえばファミコンでは、同時発生音数が3音(ノイズを入れて最大4音)しか使えませんでしたが、それでも本当に深い感情を表現できていた。あらゆる楽器を駆使しても伝えきれないようなものを、たったあれだけの音数で表していたんですよね。

そんな日本の文化に深く根差している"最小限で最大を語る"という美意識を、ゲーム音楽を通じて詳しく知ることができました。

——当時のゲームを知らない、ユース層にオススメしたいゲーム音楽は?

たくさんあります! 有名どころですとスーパーファミコンの『ファイナルファンタジーVI』(1994年/スクウェア)、ファミコンですと『エスパードリーム』(1987年/コナミ)や『魍魎戦記MADARA』(1990年/コナミ)、PCエンジンでは『マジカルチェイス』(1991年/パルソフト)など。

あと、カプコンやデータイーストの作品など、'90年代初頭のアーケードゲームの音楽も好きですね。『ストリートファイターII』(1991年/カプコン)では、CPシステムと呼ばれるゲーム基板が採用されており、そこにヤマハ製のYM2151というサウンドチップが搭載されているのですが、その音が本当に素晴らしくて!

また、斎藤学さんという作曲家が作ったゲーム音楽もオススメです。音的にすごく悲しいというかメランコリックというか、ポルトガル語に「サウダージ(saudade)」という言葉があるのですが、それがぴったりくる音を作る人でした。PC-8801やX68000、FM-TOWNSといったパソコンのゲーム音楽を手掛けていた方なのですが、調べてみたら残念ながら22歳でお亡くなりになっていたことがわかったんです。今回発売するコンピレーションアルバムに彼の音楽を1曲入れることができたのはとても光栄でした。もし彼が生きていたら、きっとすごい作曲家になっていただろうなと思います。

——ゲーム音楽を楽しむのために必要な要素3つがあるとしたら、それは何でしょうか?

まずはいい音源を探さないとね。あんまり良くないのもあるから。そして、「いいな」と思うものを見つけたら、それを大音量で聞くこと。つまり、ひとつ目は「いい音源を見つける」、ふたつ目は「大音量で聞く」、そして3つ目は「僕がプロデュースしたコンピレーションアルバム聞くこと」かな(笑)。

それと、4つ目があるとするならば(笑)、11月17日に開催されるゲーム音楽のイベントにもぜひ来て欲しいです。ゲーム、ゲーム音楽、エレクトロニックミュージック、どれかのファンであれば、来たら絶対に楽しめると思います。

関連記事:世界に影響を与えた日本のゲーム音楽の歴史を探る

DIGGIN' IN THE CARTS 電子遊戯音楽祭
日時:2017年11月17日(金)
開場19:00/開演19:30〜
場所:LIQUIDROOM(恵比寿)
料金:前売3,500円/当日4,500円
*20歳未満は入場不可。顔写真付き身分証必須。
出演:Kode9 x Koji Morimoto AV, Chip Tanaka, Ken Ishii Presents Neo-Tokyo Techno (’90's Techno Set) Visuals by MMM, OSAMU SATO Presents LSD REVAMPED(LIVE) & SPECIAL VJ: TEAM LSD, Quarta 330, Yuzo Koshiro x Motohiro Kawashima Visuals by Konx-Om-Pax, Carpainter (Live Set / TREKKIE TRAX), hally Presents HALLY COLLECTIVES (hally, Saitone, ヨナオケイシ, 細井聡司, 三宅優, 杉山圭一,Rolling Uchizawa), GONNO presents beyond the chip sounds (Special DJ SET)
展示:あそぶ!ゲーム展 presents ゲーム音楽のパイオニアたち

コンピレーションアルバム『DIGGIN IN THE CARTS』
発売日:2017年11月17日(金)
レーベル:HYPERDUB / BEAT RECORDS
国内流通仕様盤特典:ゲーム音楽史研究家 hally (VORC)によるライナーノーツ、オリジナルステッカー封入