『ア・ゴースト・ストーリー』:デヴィッド・ロウリー監督インタビュー

『ムーンライト』『レディ・バード』など次々と話題作を送り出している〈A24〉。彼らが次に送り出すのは、シーツ姿の幽霊の物語。デヴィッド・ロウリー監督が、脚本執筆の発端となったある出来事やアピチャッポン、“あのメモ”について語る。

|
nov 15 2018, 9:59am

優れた映画は、私たちが住んでいる世界に対してまた新たな視点を与えてくれる。私たちが日常の気に留めなかった些細なことに関心を向けさせる。世界をより優しく客観的に理解できるよう、自我の外へと連れ出してくれるのである。不慮の交通事故で突然死した夫がシーツ姿の幽霊となって悲しみに暮れる妻をそばで見守り続ける姿を描いたデヴィッド・ロウリーの監督第四作『A GHOST STORY/ア・ゴースト・ストーリー』は、普段の私たちの生活とは別の視点、亡き者の視点から世界を眺めることを共有する。

AGS
©2017 Scared Sheetless, LLC. All Rights Reserved.

田舎の家に暮らす作曲家のC(ケイシー・アフレック)と妻のM(ルーニー・マーラ)──本作はロウリーの監督第二作『セインツ 約束の果て』の主演ふたりとの再タッグだ──は、どこか別の場所へ移ることを計画しているが、そのことから家をめぐってふたりのあいだには小さな確執が生まれている。

ここにはデヴィッド・ロウリー自身が、仕事のためにLAに引っ越すか地元テキサスに留まるかで妻と喧嘩をした経験が背景となっている(彼ら夫婦は結局ダラスに家を買った)が、実は、そういった彼の個人的な心配のほかに製作にあたってもうひとつ、ユニークな逸話がある。ロウリーが、自身の偏愛するヴィンセント・ギャロの映画『ブラウン・バニー』の珍しいポスターを購入するかどうか迷っていたことが関わっているのである。

「数百ドルくらいのそのポスターを買うかどうかすごく悩んだんです。そういうものにお金を使うのはどうだろうか、そもそも家の壁に飾ったところで家自体がなくなったら全く無駄になるなとか……買ったとしても自己満足になってしまうし、自分が死んだら他人にとっては無意味なものになってしまう。でも、それをきっかけに死後のことや“家”というものについて、そして自分自身の存在意義について考えるようになりました。考えすぎて眠れなくなるほど悩みました。この件があったからこそ、この映画が生まれたとも言えるかもしれません。そしてこの映画を作ることで、その疑問の答えを見出すことにもなったのです。最終的にはポスターも買いました(笑)」

ベッドシーツを羽織った幽霊は、自らの死や現実を受け入れらないでいる。本作は、自意識に囚われたまま成仏できずにもがき苦しんでいる幽霊の葛藤を、幽霊側の視点から描いた一風変わった映画である(H・P・メンドーサの映画『私はゴースト』を彷彿とさせる)。そのために本作は、パーソナルでより視野が狭い印象も与えるアスペクト比1.33:1のスクエアなスタンダード・サイズの画面を採用している。幽霊は、世界の見え方が人間とは違うわけだ。

AGS
©2017 Scared Sheetless, LLC. All Rights Reserved.

「面白い構造ですよね。このサイズで映画を作ることで、とても面白い見せ方ができると思いました。たとえば、テレビだとすべてが横長のサイズになってしまいますよね? 正方形という形が気に入りました。このサイズは、ある意味では舞台のようでもあり、ある意味では窓のようでもある。それぞれに異なった視覚体験ができるのです。この映画のストーリーにはぴったりだと思いました。また、このサイズは昔のスライドショーや写真のようにも見えて、古い映画のようなイメージも併せ持っている。それにノスタルジックな雰囲気も伝わりやすい。この映画の主人公は過去に執着するゴーストだから、過去との関係性を描く上でも最適だったのです」

また、ロウリーは、幽霊の独特な時間の流れ方、あるいは悲しみで永遠かのように長く感じる時間感覚のプロセスを表現するために、極めてミニマルで抑制した長回しのカメラワークでじっと静観する。それは彼にとって、アピチャッポン・ウィーラセタクンやツァイ・ミンリャンのような「スロー・シネマ」の方法論を取り入れる試みである。

「私は、自分自身が悩んだり、悲しいと思ったときもすべては時間が解決してくれると思っています。どんな痛みも、悲しみも、きっと時間が和らげてくれるって。だから今回も、痛みや悲しみと時間の関係性は強く意識して作っています。ある意味、時間が悲しみを表現しているというか。特にアピチャッポンの映画は、そういう部分をファンタジックで幻想的に描いていたり、人間の感情を描くコンテクストに上手く使っていると思う。『ブンミおじさんの森』は大好きな作品です。ツァイ・ミンリャンの映画は、アピチャッポン作品のように幻想的であるというよりかは、時間が物語の構造に密接に関わっていますよね。時間によって人間の感情を表している。すごく素晴らしい作家だと思う」

AGS
©2017 Scared Sheetless, LLC. All Rights Reserved.

とりわけ、ルーニー・マーラ演じるMが、部屋の片隅でひとり座り込んで黙々とチョコレートパイを食べる様子を長回しで収めたシークエンスは、観る者に彼女の深い悲しみを示す。ここには、米国の作家ジョーン・ディディオンが40年連れ添った夫を亡くしたあとの悲しみや葛藤、そこから立ち直ろうとする努力を描いたノンフィクション『悲しみにある者』が参照されているという。

「実は、ルーニーと私はその本を読んでいました。映画のなかで“悲しみ”というのものが、予期せぬ形でどう現れるのか、そしてそれをどう表現していくのか、それを考える上で参考にさせてもらったんです。たとえば、その本のなかでは亡くなった夫の郵便物や靴が悲しみを象徴するものとして描かれていますが、それを読んで、そうした何でもない普通のものを通して、より悲しみを深く表せると気づいたのです。そして、Mがパイを食べ続けるというシーンは、私自身の経験に基づいています。私にとっては、食べるという行為が悲しみを表現するツールなのです。悲しくなるとたくさん食べてしまうんです。ベッドのなかで涙を流すのではなく、よりリアルにフィジカルに悲しみを表現した重要なシーンです」

しかし一見、夫のCはジェントルに見えるが、彼には妻との議論を嫌い、問題を解決するよりも自分の音楽の仕事を優先する節が見受けられる。その傾向は、Cが幽霊となってもまだ残っているようで、Cの死後、新たな人生を少しずつ歩み始めようとするMがほかの男と親密になっていることを目撃した彼は、家のなかで混乱を引き起こす。ただ、厄介なことに、それは人間にとってみれば、心霊現象という形であらわれることになる。興味深いのは、本作は幽霊側の視点から心霊現象を裏返して描きながら、実は、Cによるポルターガイストが、男性側のエゴイスティックな欲望と結びついているとも見ることができることだ。

AGS
©2017 Scared Sheetless, LLC. All Rights Reserved.

「Cは自分に近いキャラクターです。私も仕事になると、夢中になってしまって妻のことやそれ以外のことがないがしろになってしまう。周りが見えなくなってしまうタイプなんです。私自身、監督でありつつ、音楽の仕事もしているという点でもCは自分の分身のような存在です。逆にルーニーが演じたMは、私の妻に近いキャラクターになっています。映画のなかでのふたりのやりとりも私たち夫婦のそれに似ていますしね」

幽霊は、愛する妻への想いを胸に彷徨い続ける。しかし妻のMが家を離れた後もCは彼女とともに過ごした家に名残惜しそうに居残り続け、ほかの新しい人が越してきてもポルターガイストを起こしては、彼ら住人を悩ませ続ける。その家は、その後、何年にもわたって自意識に囚われた地縛霊が住まう幽霊屋敷と化す。ケイシー・アフレックが幽霊となるCを演じているが、喪失の深い悲しみ、あるいは過去の経験に囚われ続けてしまう鬱状態の男の物語という点では、『マンチェスター・バイ・ザ・シー』で彼が演じた無表情で寡黙なリーと通じるものがあるかもしれない。どちらにおいてもアフレックの繊細で掠れた声が脆弱な男性像に機能してもいるだろう。

「もちろん『マンチェスター・バイ・ザ・シー』は観ています。ただ、私がその映画に直接的に影響を受けたり、役柄の内面について参考にした部分があるというよりは、ケイシー自身が、俳優としてCという役のなかに男性としての弱さや繊細さを作り上げてくれた部分が強いと思う。ケイシーならではですよね」

そして、それまでゆったりとしたテンポで進行していた映画は、終盤に差し掛かると、一転、ハイペースではるか過去のその土地の記憶や彼ら夫婦が引っ越してきたばかりの頃へと戻る。形而上学的なタイムループが展開されるのである。

AGS
©2017 Scared Sheetless, LLC. All Rights Reserved.

「時間は空間を超越できると考えているんです。特にこの映画で描いたゴーストは、本来の時間の外側に存在している。だから、空間を超越しているのだと思う。私は、時間というものについて、時系列に線のようにずーっと伸びているものではなく、湖に石を投げたときにできる波紋のようなものではないかと感じているのです」

幽霊が時を超えてまでその家に執着して留まり続けるのは、妻のMが壁に残したメモの中身を知るためだ。その目的を果たすまで彼は成仏できないわけだが、ロウリーはそれを彼らだけの秘密に留めておく。

「あのメモの内容は、実は、ルーニー本人しか知らないんです。彼女自身が誰にも言わずに見せずに書いて、壁のなかに埋めました。でも、家も本当にあのまま壊してしまいましたし、書いた本人も何を書いたかはもう忘れてしまったらしいんです(笑)。ただ、私はあのメモから、過去を乗り越えるという象徴のようなものを伝えたいと思いました。とても大切な想いが込められています」

A GHOST STORY/ア・ゴースト・ストーリー』2018年11月17日(土)シネクイントほか全国ロードショー。