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美白はダサい インドの病的な〈白肌信仰〉に反抗するメイクアップアーティストたち

白い肌への憧れや美白を叶える製品は、南アジア文化に長らく根づいてきた。インドでは、美白クリームの売上はコカコーラの売上を上回るほどに。しかし近年、新しい世代が美白信仰に待ったをかけようとしている。

by Tom George; translated by Ai Nakayama
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14 January 2020, 7:39am

Photo by @yasitskrishy

メイクアップメイクアップアーティストのカリシュマ・レクラズ(Karishma Leckraz)にとって、南アジアの家庭に褐色の肌で生まれたことは、楽なことではなかった。彼女は幼い頃から、白い肌が美しく、彼女の家族のような褐色の肌は〈醜い〉という考えかたが蔓延する社会で育った。思春期は〈Fair and Lovely〉という美白クリームと育った、と彼女は回想する。「それを使わなきゃいけない、というプレッシャーがあったとは言いませんが」と現在25歳のカリシュマは語る。

「褐色の肌は美しくない、と思い込まされていたので、白くなれば自分を美人だと思えるかも、と喜んで使っていたんです」しかし、この美白クリームは、実際にはまったく逆の効果をもたらした。カリシュマの肌は灰色がかり、弱い乾燥肌となってしまった。それは見た目よりも、彼女の心理に大きな影響を与えた。「気持ち的にとても打ちのめされましたね。白くなりたかった私にとって、美白クリームが効かないという事実はショックでした」以来、カリシュマはクリームの使用をやめ、自らの褐色の肌を大切にし、南アジアの伝統的な美意識に真っ向から挑戦するメイクアップアーティストのひとりとなる。

美白クリームは、水銀や「塗料のリムーバーと同じ成分」とされるハイドロキノンを含むものが多く、その危険な副作用はよく知られている。これらのクリームは肌の表皮を剥がしメラニンを減らすため、皮膚がんの危険を高めたり、神経、腎臓、肝臓、脳へ重篤な影響を与える可能性もある。

しかし、数々の問題が報告され、いくつかの国では美白クリームが違法とされたり、インターネットでも厳しく批判されていてもなお、美白業界は現在も成長を続けており、2024年までに312億ドル(約3兆3700億円)規模になると予測されている。

美白市場は中東、アジア、アフリカにおいて成長を続けており、ロレアル、ランコム、ヴァセリン、ガルニエなどのグローバルブランド各社が、ディーピカー・パードゥコーン(Deepika Padukone)やブラック・チャイナ(Blac Chyna)など人気セレブを広告塔に、独自の美白クリームを展開している。インド国内だけでも、美白クリームの売上はコカコーラの売上を上回るとされている。

「南アジアにおける美意識には、強い差別意識が組み込まれています。白い肌はより魅力的で、仕事や恋愛など社会的にも成功する。そして白い肌の持ち主はカースト上位出身者だ、という」と語るのは、インド出身の22歳のメイクアップアーティストで政治・社会活動家のリナーシャ・コタラワラ(Linasha Kotalawala)。「反対に、褐色の肌のひとは低いカーストの出身で、低収入で魅力的でもない、というステレオタイプがあるんです」

インドの身分制度であるカースト制度は、美しさと密接に結びついている。褐色の肌は貧困、重労働、一日中屋外で働くカースト下層者、もしくは不可触民と呼ばれる、誰もやりたがらない仕事に就くひとびと。いっぽう白い肌は、富、肉体労働をしなくていい身分のひとびと、あるいは長年インドで権力を誇っていた白人入植者たちと関連づけられる。

このようこのような考えかたが定着した結果、インドでは肌の色での根深い差別が問題となっている。それは特に、褐色の肌への憎悪として表出する。たとえば、サフランをベースとし、さまざまなものを混ぜた液体を妊婦が飲む、という風習が何百年も続いていることが知られているが、それは、それを飲むことで生まれてくる赤ん坊の肌が白くなるとされているからだ。自分の子どもの肌の色を気に病むあまり、代理母出産を希望する夫婦もおり、白い肌の代理母には、遺伝子的にどれほどの影響が表れるか不明であっても、より高額の料金を払うほどだ。

こうした憂慮はまったく差別的だが、残念ながらそうせざるを得ないのがインドの現状だ。褐色の肌のひと、特に女性への偏見は、社会構造に組み込まれている。南イリノイ大学のシンシア・シムス(Cynthia Sims)は、インドでは肌の白い女性のほうが褐色の女性に比べて就業機会が得やすいことを明らかにした。恋愛市場においても同様だ。〈shaadi.com〉などのマッチングサイトでは、恋人を探すさいのフィルター項目に〈肌の色〉を加えている。ホワイト、ライトブラウン、ブラウンなど、人生の伴侶ではなくコーヒーでも選ぶようなノリだ。

2014年にはインド広告基準評議会(Advertising Standards Council of India)が広告において肌の色で差別することと、商品の効果を誇張するための写真加工を禁止したが、インド社会に根付いた褐色の肌への意識に変化を与えるにはまだ足りない。

「ボリウッドで(悪役以外のキャラクターで)、あるいはビューティ業界、ファッション業界で褐色の肌の起用が増えれば、その意識をポジティブな方向へとゆっくり変えていけるでしょう」とリナーシャは語る。

まだまだ遅れを取っているボリウッドに比べて、着実に前に進んでいるのはSNSだ。リナーシャやカリシュマのような、若い世代のメイクアップアーティストたちが、自分たちのナチュラルな肌色をアピールしたり、褐色の肌のひとのためのルックを提案するなど、積極的に美白業界と戦っている。

カリシュマは、自分の肌色に合ったメイクでありながら、妖精を思わせる、不思議でファンタジックなルックを提案している。「自分のナチュラルな肌の色を大切にすることは、南アジアのメイクアップアーティストやインフルエンサーだけじゃなく、すべての人種にとって重要です」とカリシュマ。「それにより、自分が受け入れられた、自分の存在は無視されていない、と感じることができる。アイデアももらえて、力が湧いてくる。近年、SNSでは多様なインフルエンサーが登場していて、それが〈美しさ〉の真の意味に立ちふさがる障壁を壊すきっかけになっていると思います。自分を否定するのではなく、他人とは違う個性を大事にすることへと変化しているんです」

肌の色による差別と戦う彼らをサポートするような、社会的な変化もようやく生まれつつある。コスメ市場も変化を見せ、若きインド人メイクアップアーティストを勇気付けている。大手コスメティックブランドの多くはいまだに美白クリームを販売・宣伝しているが、業界を変革しひとびとの意識を変えようとするブランドもある。

「フェンティ・ビューティーは、多様性、インクルーシヴィティ、すべての女性、すべての有色人種の個性の表現や表象という点に関して、基準となっているブランドですね」と指摘するのは、インド出身で現在はオーストラリアで活動する20歳のメイクアップアーティスト、ロシャン・ナウサド(Roshan Nausad)だ。「有色人種の私たちも、メイク売り場に入って、自分たちが歓迎されていると思うことができるんです。私たちの肌色のファンデーションが売ってるから」

南ア南アジアにおける、生まれもった褐色の肌に対する嫌悪感は根深く、その解決への道のりは長い。しかし、状況は着実に変化している。若い世代はついに、自分のナチュラルな肌色を大切にしてくれるブランドと、彼らのメッセージを代弁してくれるメイクアップアーティストたちを手に入れた。

「私はメイクアップアーティストとして、数多くの褐色の肌のアーティスト、才能ある最高のアーティストたちといっしょに仕事をしていきたい。私たちの美しさを提示し、私たち自身、そして自分の肌への愛と情熱を見せていきたい」とロシャンはいう。「もう絶対に、自分を偽らない」

This article originally appeared on i-D UK.

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