イサマヤ・フレンチが語るセルフィ文化

カニエ・ウェストのビデオから、JUNYA WATANABEのショーメイクにいたるまで、多岐にわたる活躍を見せているイサマヤ・フレンチ。本誌のビューティ・エディターでもある彼女が、メイクアップの世界へ足を踏み入れたきっかけ、セルフィ文化、そして……キノコ研究の情熱について語る。

by i-D Team
|
15 September 2016, 3:18am

業界きっての人気メイクアップ・アーティストであるイサマヤ・フレンチ(Isamaya Ffrench)は、現在、疲れ知ずのワーカホリックでさえも弱音を吐くほどの過密スケジュールで働いている。ロンドンを拠点とし、この数週間でモロッコ、スイス、カプリ、パリをまわり、ChloéやNikeなどのブランドの仕事をこなすかたわら、『POP』、イタリア版『Vogue』、『V magazine』、そして自身がエディターとしてビューティを担当する『i-D』のエディトリアルも担当するなど、多忙を極めている。そして、引越しもした。4度にわたるこちらからの誘いが、「スケジュールが合わない」と断られたのも当然だ。

そんな彼女に会うとなれば「疲れている」と考えるのが普通——「機嫌が悪いかもしれない」とさえ想像するだろう——だが、イーストロンドンの新居でドアを開けてくれたフレンチは、ふくよかな唇から歯をのぞかせて微笑み、温かみに満ちたエネルギーを放って、私を迎えてくれた。裸足でキッチンに立ち、私に紅茶を淹れてくれているフレンチを見ていると、インタビューではなく、女子会を開きに来たような気分になる。

フレンチは、その大胆でカラフルなメイクで知られている。しかし本人はいつもほぼすっぴんだ。「シェフだってファストフードを食べるでしょ」とフレンチは笑う。「ひとにするから楽しいの。自分の顔にやろうとは思わないわ」

フレンチは売れっ子だ。しかし彼女がいま手にしている成功は、緻密な計画のもとに勝ち取った結果というよりも、幸運な偶然が重なって行き着いたもののようだ。ケンブリッジで育った彼女は、18歳のときにロンドンへ移住した。チェルシー美術大学で3Dデザインを学ぶために移り住んだロンドンだったが、のちにセントラル・セント・マーティン芸術大学でインダストリアル・デザインの修士号を得るに至った。大学時代、彼女は週末になると、パーティで子供たちの顔にペインティングをほどこすアルバイトを始めた。これに決めたのは、「ウェイトレスはやりたくなかったから」。小遣い稼ぎとして始めたこのアルバイトが、彼女のクリエイティブな面を大きく引き出すこととなった。「トレーニングのようなものだった」と彼女は当時を振り返る。「時間があるときには、やりすぎというほどとことんペインティングしたわ。子供はとてもクリエイティブに考えるでしょう? 子供たちと一緒に何かを作り出すのがとても楽しかったの」。フレンチに転機が訪れたのは、男の友人から「彼女の顔にトラのペインティングをしてほしい」と頼まれたときだったという。「その時、『これは仕事になるかもしれない』と思った。『もっと突き詰められる領域だ』と思ったのを覚えているわ」

評判は口コミで広がり、彼女にはプロのメイクアップ・アーティストとして仕事の依頼が舞い込みだした。最初に手がけたファッション撮影はアーティストのマシュー・ストーン(Matthew Stone)との作品で、裸の男たちにペインティングをほどこし、彼らを神に仕上げるというものだった。シアトリカルな作風で知られる彼女ではあるが、本人はカテゴライズされるのを嫌う。作品には、フレンチが学生時代に学んだ3Dの要素も垣間見ることができるが、それでも彼女が作り出す美は幅広い。「私には決まったスタイルがあるわけではないの。それを弱みだと考えていた時期もあったけど、今では強みだと思っているわ。決まったスタイルがないからこそ、そこに進歩が生まれるんだと思う。良い作品を作りたければ、自分のエゴを抑えなければならないの」

フレンチのメイクは、人を可愛く見せる以上の意味を持っている。ともすれば独善的にもなりうるテーマだが、彼女はメイクをもってアイデンティティやジェンダーといった問題と向き合っているのだという。「私が興味を持っているのは、"内面を外に投影する"こと」とフレンチは考えながら話す。「いつでもこの"内面"、アイデンティティという概念に立ち返るの。メイクは顔を変える。違う顔をそこに描いたり、元の顔を変形させることで、見る者に『何を見ているか』、『見つめているこのひとは誰なのか』を問うと同時に、そこに反応する"見る者自身"を問うもの--私はそんなメイクを目指しているの」。セルフィが盛んになってきている現在、ジェンダーやアイデンティティはよく議論されるようになってきている。デジタルの普及により、ひとびとは「自分をキュレーションして、自分を投影する」プラットフォームを得たのだと彼女は解釈しているという。

ファッションやビューティのように飽和状態の業界で成功するには、才能以上のものが必要となる。フレンチは25歳にして前代未聞の成功を手にしていた。フレンチ自身、彼女の成功は努力とビジョンだけでは成しえたものではないと考えている。彼女は、自分の成功を"自分という存在を重く受け止めすぎない性格"によるところが大きいと認識している。「現場では、なるべくハッピーな雰囲気を作り出したいと思っているの。私を信用してもらえるような環境をね」と彼女は言い、また騒がしい業界で健全でいられる秘訣は、どんな状況でも笑うことができるという能力にあるのだと付け加える。「仕事ではいつも、ユーモアをキープしようと心がけているの。みんな正気の沙汰じゃないでしょ? そのバカバカしさを笑えないようだと、仕事をするのがイヤになる」。その温かいエネルギーを感じ、こちらまでつられてしまう彼女の笑いを見ていると、フレンチが成功を収めたのも解るような気がする。一緒に仕事をしたら楽しいに違いないからだ。

彼女がいつでも屈託なくいられるのは、興味の対象がメイクを超えたところにあるからなのかもしれない。「大好きなことが他にもたくさんあるの。メイクは私にとって、受けたインスピレーションを吐き出す手段でしかない」と彼女は言う。クリエイティブにして博学なフレンチは、ウィンドウのディスプレイを手がけたり、テオ・アダムズ・カンパニーでダンサーやシンガー、俳優たちとともにダンスを学んだりもしている。男の子のような、自然な振る舞いのフレンチだ。口紅の話をしているところよりも、自然の中を走り回って木登りをしているフレンチのほうが想像しやすい。そう、自然もまた、フレンチが興味を持っていることのひとつだ。「キノコの栽培に興味を持ったら止まらなくなっちゃって。ロンドンのキュー王立植物園でキノコ研究をしている博士に話を聞きに行ったこともあるわ」。メイクアップ・アーティストとしてのキャリアに陰りが見えたら、キノコ研究に鞍替えすることあるかと尋ねると彼女は「そうね」と笑って答えた。

しかし、フレンチがキノコ博士となる日はしばらく来そうにない。人気はまだまだ続きそうだが、彼女は今後もただ流れに身を任せていくのだと話す。まるで冒険をするような仕事の毎日は、さぞ楽しいだろう。「すごく楽しいわよ! カラフルで、なにが起こるかわからない人生--もちろん、払わなければならない犠牲はある。でも、クリエイティブな人間は、やっていることが何であろうとそれがクリエイティブなものでありさえすれば満足できるものなんだと思うわ」

Credits


Text Laura Jordan
Photography Phill Taylor
Translation Shinsuke Kuriyama at WORDSBERG Inc.

Tagged:
humanity
Citizens of Humanity
fashion interviews
isamaya ffrench