2000年代ニューヨークのヒップスター音楽シーンを探る本

本物のロックンロールが最後に生まれた2001年から2011年のニューヨーク——『Meet Me in the Bathroom』は、そのシーンをつぶさに綴った本だ。

by Kate Hutchinson; translated by Shinsuke Kuriyama at WORDSBERG Inc.
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27 October 2017, 3:43am

This article was originally published by i-D UK.

「ニューヨークは最悪の状態にあった。俺は、それこそが世界でもっともエキサイティングなことだと思った」と、『Meet Me in the Bathroom』のなかでジェームズ・マーフィー(James Murphy)は言っている。もちろん、LCDサウンドシステム(LCD Soundsysem)のおそるべきフロントマン、あのジェームズ・マーフィーだ。リジー・グッドマン(Lizzy Goodman)が、「ニューヨークに2001年から2011年の間に生まれた音楽シーンが、ロックンロールを再起させた」歴史をまとめたこの本。世界が新たな世紀に突入するとともにマンハッタンのサウンドが一気にメインストリームとなった様子を、あの時代のあの空間にいた当事者たちが回想して語っている。マーフィーは、そんなツアーガイドのひとりだ。グランジの時代が終わり、まだMySpaceも生まれていない世の中で、マンハッタンは荒廃していた。まだクラブは禁煙法の対象となっておらず、ダンスフロアではセックスをするひとたちの姿も見受けられた時代——ラップロックが音楽チャートを席巻し、新たに生まれてくるものがどれもクールではないなか、DJたちは音楽のインスピレーションを過去に求めていた。誰もがタイトすぎるパンツを履いて、ドラッグを摂取してハイになるか、アルコールを摂取して酔っ払うか、もしくは両方を摂取してハイになっていた時代——マンハッタンに生まれつつあった新たなロックンロール・シーンは、パーティの存在が媒介となって大きくなっていった。

当時のマンハッタンは、荒削りで、焦燥感に満ちていた。そんな都市的なあり方を背景に、ザ・ストロークス(The Strokes)、ヤー・ヤー・ヤーズ(Yeah Yeah Yeahs)、インターポール(Interpol)、ザ・ラプチャー(The Rapture)、TVオン・ザ・レディオ(TV on the Radio)、ザ・キラーズ(The Killers)、キングズ・オブ・レオン(Kings of Leon:「南部のストロークス」と評されていた)らが現れ、シーンを築き、そしてロウアー・イーストサイドの荒削りなセクシーさを世界に向けて体現した。彼らは誰もが、地理的にでなくとも、概念的に、ニューヨークに結びついていた。音楽のテイストを超えて彼らに共通していたのは、「生き方、生きているという実感、そしてあの当時のニューヨークで20代として生きているという感覚だったのです。反逆精神、性、危機感、いたずら、そして遊び心に満ちたそんな年頃を、あの都市に生きるうえで、そこに新たなサウンドトラックを必要としていたのです。それが存在していなかったから、彼らは自らそれを作り出したというわけです」

グッドマンの本は、ジュリアン・カサブランカス(Julian Casablancas)、ジャック・ホワイト(Jack White)、そして、インターポールのポール・バンクス(Paul Banks)やカレン・O(Karen O)をはじめとする、目がくらむほどに豪華な要人たちによる言葉をまとめ、当時のニューヨークに生まれた反逆の音楽シーンを詳細に探っている。ストロークスの曲から取られた『Meet Me in the Bathroom』というタイトルからも分かるように、この本には、当時のニューヨーク音楽シーンに溢れていた放蕩の世界観が捉えられている。「放蕩は、がなりたてるギターの音と同等に、このストーリーの中核的要素」と、グッドマンは話す。本の中で語られる逸話は、ときに明け透けで、ゴシップとしか言いようのないものもある。口撃合戦の様相を呈している部分まである始末だ。「この本は、真実を記すためではなく、あの時代のあの場所にあった真実を感じてもらうために書いた」と、グッドマンは語っている。全621ページという作りの『Meet Me in the Bathroom』。そこには、アルバート・ハモンド・ジュニア(Albert Hammond Jr.)が自身のヘロイン中毒と闘い、カサブランカスが自身のエゴと闘った姿が語られているほか、ふたりのバンド、ザ・ストロークスが、なぜ2001年のデビュー・アルバム『Is This It』以降、周囲の期待に応えられずに終わったのかについて、いくつかの異なる視点から語られてまでいる(「ストロークスのメンバーは、アンダーグラウンドの感性を拭うことができずにいるのです」と、ジャーナリストのジェニー・エリスキューは語っている。「自らをダメにせずにいられないかのように」)。

しかし、当時のニューヨークを体現していたのは、ストロークスのガレージロックだけではない。アンチフォーク音楽シーンが小洒落たコスチュームのイメージで破綻し、クラブで踊ることを禁じる市の制定にひとびとが反発し、ハウスミュージックの大きな存在感がロック音楽の居場所を奪ってしまった当時のニューヨーク音楽シーン——そこに現れたエレクトロクラッシュ系音楽は、「次に業界が推す音楽」というイメージをひとびとに与えた。この本は、2001年以降に生まれたロックンロールのシーンだけでなく、それが生まれた背景をも詳細に綴っている。マーフィーと、祖国イギリスを離れてニューヨークに移り住んでいたティム・ゴールズワージー(Tim Goldsworthy)が、ふたりでレーベルDFA Recordsを立ち上げ、新たに生まれようとしていた音楽シーンで中枢的役割を果たした。『Meet Me in the Bathroom』の多くの部分は、マーフィーとティムが築いていた、友情を超えたラブロマンスの関係について割かれている。いかにふたりがお互いの成長を助け、ニューヨークのダンスミュージックとパンクミュージックを融合させる媒介となり、そしてなぜ彼らふたりが袂を別つこととなったのかについて、実に詳しく書かれている。

この本がただの"ネタ本"となってしまわなかった要因は、「2001年以降のニューヨーク」という時代の特殊性にあるのだろう。この本が捉えているのは、グッドマン曰く「同じように起こることは2度とない」、極めて特殊なあの時期と空間なのだ。911アメリカ同時多発テロ発生の衝撃に揺れる現実(本に登場するミュージシャンのほとんどがその現場を目撃している)と、インターネットでのファイル共有が拡大したことによって音楽サービス提供の構造自体が根幹から揺るがされていた音楽業界、そしてイラク戦争とジョージ・W・ブッシュ・ジュニア(George W. Bush Jr.)の米大統領再選という困難な状況を背景に、ニューヨークのバンド達は生きていた。平和の幻想が打ち砕かれ、そこに見えた現実の世界は危機に溢れていた——ミュージシャン達は、そんな時代性を音楽に込めようと懸命になった。「闇を背景として、ひとびとが、楽しく、歓びに生きようとした時代なの。存在主義的な悲しみのなかにあっても、ひとがいたずらや笑いを忘れないような、そんな時代」と、グッドマンは言う。しかしそこには、そんな状況だったからこそ生まれた、良いものもあったという。

「911が招いた結果として、わたしたちにはその後2年間ほど、猶予のような自由がもたらされた」と、グッドマンは続ける。彼女自身も、まだ『Spin』誌のライターになっておらず、ストロークスのニック・ヴァレンシ(Nick Valensi)とレストランで働いていた。「タイタニックが氷山にぶつかり、船は着実に沈み始めているのに、誰もそれに気づいていない——そんな状況だった。一方で、レコードの売り上げは史上かつてないほどに多くなっていて、バンドは誰しもがプライベート・ジェットで移動をしていたような時代。いま振り返ると、胸が痛む——その先にどんな世界が待ち受けているかを、当時は誰も知る由もなかったんだから」

そんな現実逃避の感覚は、執筆の過程で、大きな存在感をもって本の内容全体に影響を与えるようになった。グッドマンは、途中まで書き進めていた本の仮タイトルを、『The Last Real Rock Stars』とした——「"現在のところ"最後の、真のロックスター」と、グッドマンは語っている。「先行きが見えないからこそのエネルギーというものがあった。でもそれは徐々に薄れていった」と、グッドマンは言う。「2000年に撮った写真がたくさんある。ちょうどNapsterが話題になっていた頃。でも、わたしが写真に収めていたバンドは誰もNapsterの脅威など気にすることなく、自分たちが何を訴えたいかを探ることも、あるがままの自分たちを打ち出そうともしていなかった。当時を思い返してみると、まさにそれがあの時代のあの空間にあったものなんだと痛感する。すでに廃れた時代のなかを彼らは生きていたんだ、と」

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そのような贅沢な環境は、現在の音楽シーンにもミュージシャンにも、ほとんど許されることはない。ストロークスをはじめとする当時のニューヨーク・バンドたちは、イギリスのプレスに大きく取り沙汰され、それがシーンとして彼らの自国であるアメリカでの認知に繋がった。しかし、ソーシャルメディアが主力のメディアとなっている現代、話題は急激に廃れてしまう運命にある。もしもあの時代にInstagramが存在していたら、当時のニューヨーク・バンドたちが生きていた"バッドボーイ"のイメージが災いして、快楽主義的生き方を打ち出していた彼らは袋叩きの対象となっていたにちがいない。「落ち着きのなさ、クリエイティブな焦燥感が必要とされていた」と、グッドマンは言う。「ドラッグとアルコールが——最初の数年間は特に——時代に求められたエネルギーを生み出していた。もう、今という時代は、アンダーグラウンドという環境で好き勝手やるというのが難しい。アートには、そういう環境が重要なの。今は、何かをやればすぐにそれがネット上に投稿され、草の根的に話題になって、大きな露出となる。でも、そんなふうに注目を集めた話題は、すぐに忘れられる。それはアートを生むプロセスにおいてとても危険なこと」

この本には、避け難く、"わたしたちによる、わたしたちのための"という雰囲気がある。しかし、あの時代のニューヨークにあったこの音楽シーンをニューヨーク以外で追っていたひとびとや、単にそのシーンとその空間性の魔力を覚えていないひとびとにとって、この本は、あの唯一無二の時代性と空間性を理解する大きな手助けとなる。『Meet Me in the Bathroom』で語られる仲違いや分裂の逸話は、どれも、微笑ましくも切ない。しかし同時に、そこに否が応でも感じられるエネルギーが、当時のニューヨークへの憧れを駆り立てる。タイツを引きちぎり、テキーラのショットを煽って、後ろ髪だけを伸ばしたインディーズ音楽ファンと一夜をともにし、バンドを結成し、レーベルとの契約やクラブでの演奏に運命が動いていく世界が、そこには描かれているのだ。そんな退廃的ながらも魅力的な世界に、自分も生きたいと誰もが思わされる——もしくは、バンドのテレビジョン(Television)の曲を入れたミックステープを作りたいと思わせられる、そんな本だ。パンクの歴史には、黎明期のパンクを証言する言葉を集めた『Please Kill Me』が生まれた。あの時代にも同様の本があってしかるべき——そこで生まれたのが『Meet Me in the Bathroom』だ。しかし、70年代に生まれたパンクと、2000年代のニューヨークに生まれた音楽シーンには大きな違いがある——ノスタルジアを超えてある、その最大の違いとは、当時のニューヨーク音楽シーンに生まれたバンドたちが、今もなお活動を続けているという点だ。「聖火を引き継いでくれる者が現れなければ、それを持って走っている者がそれを持ったまま走り続けなければならない」と、グッドマンは言う。「LCDサウンドシステムが今でもツアーをすれば大いに観客を沸かすことができるという事実が、あの時代の文化的特殊性の証拠」

ヤー・ヤー・ヤーズを知らなくとも、もしくはザ・ストロークスの音楽を良いと思ったことがなくとも、ファン層を超えてあの時代がひとびとに共鳴するのは、その時代の特殊性があるからだとグッドマンは言う。2001年から2011年という時代は、「それ以降、アメリカの文化的アイデンティティにおいて起こったことすべてに、重要な意味をもって影響した」とグッドマンは言う。ヴァンパイア・ウィークエンド(Vampire Weekend)やダーティ・プロジェクターズ(Dirty Projectors)など、ザ・ストロークスに続くかたちでブルックリンに生まれたiPod世代バンドたちが、"ヒップスター"のイメージを確立した(それらバンドの数々についても、この本は触れている)。そして、インターネットの登場でひとびとがあらゆる情報へのアクセスを手にしたことで、誰もが「何が好きか」ではなく「何が嫌いか」をベースに自らの存在を打ち出すようになり、それに伴って「クール」の新たな定義が確立された——この流れを後押ししたのも、当時のニューヨーク音楽シーンを賑わしたバンドたちだった。「外国の街で、極上のピクルスが出てくるようなレストランに入り、MGMTの音楽がかかる店内でスキニージーンズを履いたウェイターたちが忙しく立ち回っていたら、その空間はカレン・Oやジェームズ・マーフィー、TVオン・ザ・レディオ、その他ブルックリンが生んだバンドの数々に何かしらの影響を受けている」と、グッドマンは言う。「本人がそれを認識していようといまいと、そういう空間が生まれる時点で、そこはあの時代の文化的流れ一部となっているの」

グッドマンは、またあのようなシーンが生まれ、それが世界的なものとなる可能性を排除していない。「シーンの生まれ方は、インターネット文化によって根本から変わってしまった」が、グッドマンは、「わたしたちがどうにもミュージシャンに惹かれてしまう性分はいつの時代も変わらない。カリスマ性や怒り、態度、不安、そして魂の叫びといった、ロックスターをロックスターたらしめるものは、時代に関係なく、やっぱりひとを魅了するもの」と言う。あの時代のあの空間を、実体験としてしては知らないひとびとに、グッドマンがこの本から感じ取ってもらいたいこととは、「ひととの関わりから、あのシーンは生まれた」ということだそうだ。シーンを作り出したミュージシャンたちは、共にカフェで働き、仕事後はお互いの家に行き、共に時間を過ごして、ひととの関わり合いを日常とするなかで、あのようなアートを作り出した。「"Meet Me in the Bathroom"時代が持っていた魔法の時間と空間は、パーティを渡り歩いてエクスタシーに溺れたミュージシャンたちの逸話を読めば如実に感じることができるはずだ。結局のところ——と、グッドマンは言う——退屈な時間をともにすることから、素晴らしいものは生まれるのだ。

Meet Me in the Bathroom: Rebirth and Rock and Roll in New York City 2001-2011 is out now

Credits


Text Kate Hutchinson
Image via Wikipedia

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