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SAPPHIRE SLOWS WEARS DRESS AKIRA NAKA. BRACELET AMBUSH®. EARRINGS STYLIST'S OWN.

世界と共鳴する女性プロデューサーSAPPHIRE SLOWS

Ayana Takeuchi

ジャンルの壁を縦横無尽に飛び越え、新たなエレクトロニックミュージックの可能性を提示するSapphire Slows。ワールドワイドに活躍する彼女が歩んできた6 年間のキャリアを遡りながらその胸のうちを聞いた。

SAPPHIRE SLOWS WEARS DRESS AKIRA NAKA. BRACELET AMBUSH®. EARRINGS STYLIST'S OWN.

2011年の東日本大震災をきっかけに「いつ何が起こるか分からないし、やりたいことをやろう」という心の声に耳を傾け、就職活動を辞め音楽のレールにシフトチェンジしたSapphire Slows。渋谷系でひと時代を築き、現在ではThe xxのようなエッジィな海外アーティストをリリースする仲真史主宰のレーベルBig Loveから鮮烈なデビューを果たし、自身がファンだと公言するアメリカのNot Not Fun、100%Silkとも契約し音源をリリースしてきた。北米、ヨーロッパ、中国でもツアーを行うなど世界を股にかける電子音楽作家なのである。

先々で知り合った数々のミュージシャンたちと対等にコミュニケーションをとる自他共に認める実力派ではあるが、彼女にも苦悩はあったという。「Big Loveがリリースするはじめての日本人だったので国内にレーベルメイトもいなかったし、東京で制作について話せる仲間もいなくて孤独を感じることもありましたね。デビュー時は21歳で、新しく出会う人たちとの基本的な関わり方すらよくわからない時期もありました。すごく不器用だったと思います。女性ミュージシャンとしてのスタンスを迷っていたときに尊敬するプロデューサーのひとりインガ・コープランド(Inga Copeland)に相談したら、『あなたがフェミニズムについて思考を巡らせている間に男性は曲を作っているよ』と言われてハッとしたことも。自分に求められているものは何なのかと必要以上に考え込んでしまったんですけど、ツアーなどで知り合う海外アーティストたちと対話を重ねていくうちに、不安を少しずつ解消できるようになっていきましたね」とにっこり微笑んだ。

海外のミュージシャンたちとの交友も深い彼女だが、彼女の拠点はあくまで東京だ。現在は渋谷の会員制のクラブContactで行なわれているイベントMNML SSGSにレギュラー出演するようになり、次第に東京のテクノシーンにいるという自覚を持ち始めるように。けれども自身の音楽はテクノではないときっぱり否定する。彼女のサウンドは、どこか懐かしさを覚える80sシンセポップのような表情を見せたかと思えば、静謐な世界で鳴り響くアンビエントや、時にノイズまじりのエクスペリメンタルまで幅広い。そこにはどのような音楽的背景があるのだろうか?

「80年代のカルトニューウェイブの音は好きですが、現行のアンダーグラウンドなダンスミュージックからの影響が強いんです。Not Not Funや100%Silk、Olde English Spelling Beeのインディロックでもテクノでもない奇妙で実験的な音に共感を寄せてこれまで制作してきました。彼らのルールに捕われない自由なアティチュードにも惹かれましたね。そうしたバックグラウンドがあるから、私の音楽がテクノかといったら決してそういうわけではない。"テクノシーン"や"インディシーン"という限定的な括りより、その中でオープンで先進的な考え方を持つ人々と共感し助け合っていきたいという気持ちがあります」

そうした彼女の多面的な音楽性を知ることができる作品が、ヨーロッパの2レーベルからリリースされる。ひとつは3月末にベルリンのNous Disquesから『The Role of Purity』EPが、その数ヶ月後にはロンドンのKaleidoscopeからアルバムを発表。「発売の順序は前後しますがKaleidoscopeの方は3~4年前に作ったもの。この頃は歌モノが私らしいと期待されていたように感じていたので、ほとんどの曲でマイクを握りました。新しいサウンドに挑戦したい気持ちも強くあったので葛藤して生まれたものではありましたが、今までよりもポップな曲も収録しています。3月にNous Disquesから出す作品はそうした歌のカルマから抜け出したアンビエント。家でリラックスしたいときもあるから、徐々にビートのないものを聞くようになって、それで新しいインスピレーションが湧いて曲にしていきました。3、4年前と別のムードをほぼ同タイミングで提示できる良い機会だったので、ハードだったけど並行してリリースできて良かったですね」

所属エージェントの関係もあり今後は欧州での活動も増えるというが、ロサンゼルスのレーベルからリリースを重ねた過去があるため彼女にとってアメリカは特別な場所だという。トランプ政権の誕生には複雑な気持ちを抱いていると、ひとつひとつ丁寧に言葉を選びながら今後の目標とともに語ってくれた。

「音楽と政治を直接的に結びつけたくはないけれど、ミュージシャンであるからには思っていることを表現し続けていきたいですね。トランプが大統領になってクィアや有色人種に厳しい流れになっているのはすごく深刻な問題だと受け止めています。そうした世界情勢に目を向けつつ感じたのは、嫌なプレッシャーや方向付けに影響されずに黙々と活動を続けるのが自分のためにも、世の中のためにも良いんだということ。堂々と国際的に進出していくのが、悩んだり行き詰まっている人の励みにもなるのかなって。周りにどう括られようとも、私のイメージは新譜を出すたびに更新されるからやり続けていくしかないんです。"海外でも通用する"というステップのひとつ先にある"自然にインターナショナルな活動を続けていける"日本人ミュージシャンが台頭し始めているから、彼らと共にシーンを切り開いていくつもりでいます。日本では未だに海外アーティスト至上主義的なところがあって恵まれた状況であるとは到底言えません。そうした問題と向き合い、大好きな音楽にずっと寄り添っていきたいですね」

Credits


PHOTOGRAPHY BUNGO TSUCHIYA at TRON
STYLING KUMIKO SANNOMARU 
TEXT AYANA TAKEUCHI
Hair and make-up Rie
Photography assistance Masaki Nagahama
Styling assistance Anna Okuyama