FRENCH WAVES:パリに受け継がれるエレクトリックな遺伝子 <後編>

1991年から2016年まで、四半世紀にわたるフランスのダンスミュージックの流れをトレースするべく生まれたプロジェクト「FRENCH WAVES」。その流れの末裔にあたる新世代のアーティストJACQUES。決して突然変異ではなく彼にも脈々と受け継がれてきたエスプリ、フレンチ・エレクトリック・ミュージックの遺伝子を探った。

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aug 29 2017, 2:23pm

ジュリアン、あなたのドキュメンタリー映画で大々的にフィーチャーされているJacquesを紹介してもらえますか?

Julian Starke (以下JS): JACQUESと僕とはともにストラスブール出身で、10歳の頃からの友人なんだ。パリに出てきたのも同じ年、僕らは一緒にPain Surprisesていうレーベルを運営してる。JACQUESはいつも音楽に夢中で、かつてはロックをしていたこともある。

なるほど。幼なじみの友人でもあったJACQUESがドキュメンタリーの後半で大々的に紹介されていたのは必然だったのですね?

Jacques(以下JQ) : このフィルムは、進むにつれて、ジュリアンの主観的なものになっているのは事実だと思う。映画の冒頭の舞台はパリで、前の10年については良かったとしても、後半は(僕らを見て)才能のないヤツって思われてしまうこともありえるよね。だけど、このドキュメンタリーにとって僕は欠かせない要素だったんだと思う。インターネットが当たり前の新しい世代の一人で、25年の時間のつながりを示すひとつの例として。

そもそも音楽を表現として選んだのには、どういう経緯でしたか?

JQ : 自分で音楽を選んだという意識はないんだ。家族が音楽をしていて、いつのまにか音楽をはじめていたから。でも考えれば考えるほど、良い選択だったとは思っている。例えば、気に入らない写真には目をつぶればいいし、美味しいかどうかわからない料理は食べなくていい、嫌な匂いも鼻をつまめばいい。でも音だけは、そうはいかない。スピーカーから音を出せば、いやでも耳に入ってくるからね。音楽は、他人の同意を必要としない唯一のアートなんだ。

もっとも暴力的な表現を選んだともいえますね。ドキュメンタリーを観ていておもしろかったのは、アトリエで音をサンプリングをしている光景でした。日常の身の回りのもの全てを楽器にしていこうと思ったきっかけは?

JQ : 僕の目には、あらゆるものがとてもシンプルな楽器のように見える、というだけさ。そもそも昔は楽器と呼ばれるものなんてなかったじゃないか。音楽を作るために、日用品が洗練されていった姿が、今の楽器というわけでしょ。

何かの音をサンプリングして音楽を作る人は他にもいると思うけど、ステージでもその日用品やがらくたを鳴らしてライヴしているのはあなたくらいかも知れません。ぜひそのライヴを見てみたいと思いました。

JQ : ライヴをするときに考えたのは、全てをサンプリングで再生するだけでは面白くない、ということだったんだ。単なるDJセットではないライヴをしたかったんだ。
JQ : まず音のアイディアが頭に浮かんで、そうするとどんなものでその音が再現出来るだろうと考える。でもアイディアが頭に浮かんでいるのはほんの束の間だから、トゥクトゥクトゥクトゥク、タッタッタッタって具合にどんどん音を見つけないといけない。実はうまくいくことの方が少なくて、別の音を探すことになる……。

以前からJACQUESの音楽を知ってはいたけど、まさか「フレンチ・タッチ」以降という流れの中であなたを捉えようとは思ってもみませんでした。ジュリアンのドキュメンタリーを通してそのつながりを発見しました。例えば、ペドロ・ウィンター(Busy P、ED banger主宰)があなたをフックアップしていたのも意外だったのですが、パリでの脈々と続く異なった世代のつながりを感じてうれしくもあり、美しい物語だと思いました。

JQ : 僕らは『FRENCH WAVES』のツアーでペドロとNYに向かったんだけど、それから1年経って、世代から世代へと伝わるものを実感するようになったんだ。それはこのドキュメンタリーに横たわっている不思議なものと同じだと思う。もしかすると僕らは遺伝子を受け継いで、次に渡してと、数年先の未来を見てるんじゃないかって感じがするんだ。

この25年を振り返ったとき、「フレンチ・タッチ」の中からも全く別のベクトルに向かった人たちもいます。例えば、ボブ・サンクラーだったり、ダヴィド・ゲッタだったり。彼らのようにインターナショナルでメインストリームに向かった人とはまた違う、アンダーグラウンドで尖った感性の脈々としたつながりを嬉しく思いました。

JS : ボブ・サンクラーにはこのプロジェクトで取材もさせてもらっている。彼らを擁護するようなことを少し言うと、ムーブメントが起こると、そこに残るものたちと外に出てしまうものたちとが生まれるということ。フレンチ・ウェーヴの25年は、音楽に関する様々な流れの交差点のようでもある。そこには、情熱や何かを共有したいという欲望があると思うんだ。僕は批評家ではないから、JACQUESとロラン・ガルニエ(Laurent Garnier)とは全く異なるだとか、そういうことは考えない。僕は『FRENCH WAVES』を通して、どのように情熱や欲望が伝えられていくのかを浮き彫りにしたかったんだ。フィルムの最後には、NYのラジオに出演するJACQUES、SUPERPOZE、ペドロ・ウィンター(Pedro Winter)が映るシーンがある。そこで本当に自然なやり方で、異なる世代が集まる姿を見ることが出来た。このドキュメンタリーでは、そういうヴィジョンを提示したかったから嬉しかったよ。

フランスの音楽シーンを熱心にフォローし続けているひとりにエディ・スリマン(Hedi Slimane)もいて、彼もあなたを被写体として撮影していましたね。エディもこのスタジオにも来ていたんですね?

JQ : 実は撮影したのはもうひとつ別のスタジオだったんだ。ここ(パリ郊外のL'AMOURという空間)は、アーティストだけでなく難民や未成年のために開放している空間でもあるから、別のスタジオに移動して撮影したんだ。それが3、4ヶ月前の話で、実はほんの2週間前にも急に連絡が来て、今度はホテル・リッツの部屋で撮影したんだ。なんてギャップだろう。そもそも彼はとても無口でどうして僕に声をかけてくれたのかも分からなかったんだけどね。

エディの写真であなたを見た時も意外だったのですが、実はなぜJACQUESを一連のフレンチ・タッチの流れとは別ものと思いこんでしまっていたかというと……、大変失礼なのですが、そのヘアスタイルが一因だったかも知れません。

JQ : (笑)これ、自分でカットしてるんだよ。日本のサムライみたいだって、言う人がいるんだけど... えっ?違うの? ともかく、このヘアスタイルが僕のアイコンのようになったのは事実だよ。自分の音楽にどんな感情を与えるだろうと考えて、このヘアスタイルにたどりついたんだ。最初は単に人を驚かせるためだったけど、時には「頭に鳥でも飼っているの?」なんて反応が返ってきて、からかわれてばかりいるんだ。日本では普通なんだと思うんだけど、フランスではちょっと奇妙だから、他人と区別するのに役立っているよ。え?日本でも奇妙?? とにかく滑稽さとスタイリッシュさが溶け合うことなく、存在しているみたいで気に入ってる。ああ、日本では、このヘアスタイルはかなりいけていると思っていたんだけどな……。(笑)

9月21日(木)、決定渋谷アップリンクにて一夜限りの再上演!チケット購入はこちらから。

関連記事:FRENCH WAVES:パリに受け継がれるエレクトリックな遺伝子 <前編>

http://french-waves.com/

Credits


Photography & Text Shoichi Kajino