学習系YouTuber、スタディーチューバーの卒業後の人生

卒業後、私たちの多くは試験勉強のことなど忘れてしまう。しかし学生であることを強みにフォロワーを獲得したVloggerは、卒業後の人生に頭を悩ませることになる。

by Tom Haynes; translated by Nozomi Otaki
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18 October 2021, 11:54am

Imagery via YouTube

ほとんどの十代にとって、何時間も勉強し続けるのはまさにこの世の地獄だ。それなのに、誰かが延々と勉強し続ける映像をわざわざ見たがるひとがいるのだろうか、と疑問に思うのも無理はない。しかし2017年、18歳のルビー・グレンジャーがAレベル対策の1日をYouTubeチャンネルにアップすると、300万人以上の視聴者が彼女の文房具や日記を吟味し、1日14時間の試験勉強に集中する様子を見守った。視聴者の多くはこの動画に癒され(「これを見ながら泣いた」というコメントもあった)、自分が避けている勉強に打ち込む他人の姿に慰めを見出した。「誰かが集中するのを見て(自分の勉強を)先延ばしにしてる」というコメントも残されている。

現在21歳のルビーが、初めてYouTube試験勉強のコツをアップした(そしてハーマイオニー・グレンジャーと呼ばれた)のは、15歳のときだった。当時のチャンネル登録者は100人前後で、6年経った今も、彼女は当時の登録者の多くと連絡を取り合っているという。高3になり、Aレベル(英国の学生が高校卒業と大学入学の前に受ける最後の試験)の勉強を始める頃には、登録者数は5000人以上に跳ね上がった。当然ブランドからも、スポンサードコンテンツの依頼が舞い込んだ。

「圧倒されました」と企業からの依頼をほとんど断っていたというルビーは、インポスター症候群を引き合いに出した。「自分のプライバシーが心配でした。怖い話も聞くし」

しかし、スポンサーがつかなくても、ルビーの勉強ビデオは確実に利益を生んでいた。2018年、ルビーはエクセター大学に入学。YouTubeのチャンネル登録者は10万人を超えた。その後、彼女は契約の交渉や簡単なメンタルケアを行なうタレント事務所と契約する。ルビーのチャンネル登録者に比例するように、似たようなYouTuberも増え続け、『タイムズ』は彼ら彼女らを〈スタディチューバー〉と呼んだ。一部の視聴者に対し、この類のコンテンツは病的な魅力を発揮した。ルビーの分刻みの日課を見習おうとしたとしても、自分をはるかに上回る効率の良さの虜になってしまう。自分では購入もプレイもできないゲームの実況動画を見るようなものだ。

あるスタディチューバーによると、学生による試験勉強のコツや大学生活のVlogは、「何年も前に卒業したひとがつくった」オンラインのリソースよりもずっと役に立つと考える視聴者も多いという。バッキンガムシャーから電話でインタビューに応じたルビーは、「そもそも2018年までスタディチューブがなかったのがおかしい」と指摘する。「誰だって一度は学生生活を体験するのに」

これらのクリエイターは、すぐにビデオフォーマットの市場を独占した。ルビー自身の人気獲得のきっかけにもなった、長時間の勉強生配信、試験勉強のコツ、大学生活のVlog、成績へのリアクション動画などだ。YouTubeのVloggerの中ではニッチなサブカルチャーかもしれないが、60万人のYouTubeチャンネル登録者と16万人を超えるInstagramフォロワーを有するルビーは、正真正銘のインフルエンサーだ。しかし、大学の最終学年が近づくなか、彼女はある疑問に直面している。それはスタディチューバーが勉強をやめたらどうなるのか、ということだ。

同じくスタディチューバーで、昨年ダラム大学を卒業した22歳のジャック・エドワーズも、同様の問題を抱えている。ジャックはルビーよりも遅く、大学入学の直前にチャンネルを始めたものの、大学生活のVlogが大ヒットし、大学の文化を早く知りたくてたまらない学生を中心に人気を集めた。

彼の熱意から始まったプロジェクトは、すぐに10万人以上のチャンネル登録者を獲得。大学1年生の時点で、ジャックはエージェントにメールの受信箱を埋め尽くすビジネスチャンスを託すが、最初は奇妙に感じたという。「スタディチューバーが抱える矛盾は、ごく普通の共感できる学生であることを活かして有名になるということ。でも、お金を稼いで大勢に見られるようになったら、普通の学生ではいられない」大学卒業が近づくにつれ、ジャックの中でYouTubeチャンネルと70万人のチャンネル登録者は今後どうなるのだろう、という不安が大きくなっていった。「アイデンティティ・クライシスに陥りました」と彼は当時を振り返る。

「ネット上でのアイデンティティによって築いたものを捨て去るのは変な感じ。大学に関する本を書いたりポッドキャストをやったことは、僕という人間の中でとても大きなこと。そういう生活の一部を失うのは、ネット上でのアイデンティティの一部を失うのと同じです」

結局、ジャックのオンラインプラットフォームの話題は、「ポップカルチャー」や、新卒としての就職活動の苦労へと移行していった。現在研究助手として働くジャックは、今も学生時代を振り返るビデオを制作しているが、大学時代の勉強コンテンツはもう卒業したという。今後はパリで脚本執筆のコースを受講する予定だが、スタディチューブを再開するつもりはない、と彼は断言する。

「僕にとってはもう終わったこと」とジャックはいう。「自分の生活と関係がなくなったら、それがやめ時だと思います。20歳で試験勉強をしていたときは、そのコツを共有するのはごく自然なことだったけれど、今はもう新しい分野に挑戦しています」

ジャックもルビーも、大学生活から遠ざかるにつれ、キャリアへの不安が大きくなっていると打ち明けた。しかし、24歳のイヴ・コーンウェルは、常に最終的なゴールを見据えていた。彼女はブリストル大学で法律を学びながら、スタディチューブのコンテンツを制作していた。かなりニッチなテーマだったが、すぐに数十万人のオーディエンスを獲得。ジャックやルビーと同様、彼女の最初のブランド契約を結びたいという依頼が殺到し、タレント事務所と契約する。YouTubeでの収入のおかげで、イヴはロンドンの家賃を支払うことができ、さらに旅行をする余裕もできたという。

「YouTubeがなければ不可能なことばかりでした」と彼女はいう。「ロンドンの物価はとんでもなく高いので、間違いなく助けられました」

2年間のフルタイム勤務のあと、一流法律事務所に就職したイヴは、もうスタディーチューバーというより、「ときどきネットで自分の話をする弁護士」だ。しかし、彼女は今も仕事の世界にまつわる一風変わったビデオを投稿している。しかし、仕事の負担が増えるにつれ、YouTubeを更新する余裕はなくなっていった。

「今は寝て仕事をするだけでいっぱいいっぱい」とイヴは吐露する。「YouTubeのビデオをつくるとしたら、週1日も休めなくなってしまう」

研修期間中、イヴは、彼女が長らく公の場で準備を進めてきた仕事の様子を知りたくてうずうずしているであろうオーディエンスのため、どうにかして仕事とビデオの投稿を両立してきた。「今までずっと自分の生活を大勢の人たちに公開してきたのに、ようやく望んだ仕事に就いたら、なんの音沙汰もなく、どんな生活を送っているのかも教えずに辞めてしまうのは、不誠実だと思います」

YouTubeに割く時間が減るにつれ、イヴはTikTokやInstagramのリールへと移行していった。前者の動画制作には平日なら3日かかっていたが、後者なら1時間で済むうえ、より多くのオーディエンスにリーチできる。しかし、なぜイヴはあえて動画制作を続けているのだろう。彼女はこれらのコンテンツの報酬は一切受け取っていない。それでも、彼女は自身のビデオが法曹界に入るさいの制度的障壁を取り除く一助となっていると語る。

「クィアであること、ジェンダー、人種などについてたくさん話をしています」とイヴ。「自分にはチャンスがないと思っていた人びとがこの業界に入る手伝いができればと願っています」

いっぽうルビーは、彼女が有名になった動画のスタイルはいつか時代にそぐわなくなるだろう、と率直に語る。「スタディコンテンツには期限があります」と彼女は述べる。「大学やセカンダリースクールの学生に伝えたいアドバイスはまだまだありますが、なんとなく来年はもうそういうコンテンツはつくらないような気がします」

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