hermes, alexander mcqueen, and sonia rykiel at 17 spring/summer paris fashion week

パリ・ファッションウィーク閉幕を目前に控えた月曜、HermesとAlexander McQueenが2017年春夏コレクションを発表し、今シーズンのトレンドを決定的なものとした。

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07 oktober 2016, 2:54am

ショーからショーへ、展示会から展示会へ、街からまた次の街へと駆けずり回りながら、私たちはこの狂気についてよく話をする。睡眠はとれるときにとる。私にはその「とれるとき」すらほとんどない。現実世界をきちんと意識していなければ、瞬時にしてその狂気に取り込まれてしまう。ファッションショーの世界の内でも外でも、まるで気持ちのジェットコースターに乗っているかのように、自らの感情の起伏に振り回される。月曜にはSacaiのショーの途中で「キム・カーダシアンがパリのアパルトマンで押入り強盗被害」との知らせを聞いたかと思えば、次のショー会場へと向かうときにはすでにそれを忘れ、アメリカのコメディ番組『Saturday Night Live』でコメディアンたちがヒラリー・クリントンとドナルド・トランプのテレビ討論会をパロディ化したクリップを見ながら笑っている。そしてHermesの会場で洗練された世界観に身も心も染まり、Delfina Delettrezのハイテクなプレゼンテーションでは壁から流れるウォッカの香りに酔いしれる。次に向かうは今年8月に他界したソニア・リキエルの追悼ショーで、彼女が去った悲しさと彼女が生きたことへの祝福の気持ちで胸がいっぱいになる。紙吹雪が舞う中、リキエルを偲びながら会場を後にすると、次はAlexander McQueenのショーへと急ぎ、会場では「天使を信じるか」「ミラノで訪ねるべき占い師」「パリでコスチュームジュエリーを買うならあそこ」などという話題がショー開始まで観客席で囁かれる。サラ・バートンが手掛けたこのショーが楽園シェットランド諸島へと観客をいざない、Emporio Armaniのショーでは自分がいるのがパリなのかミラノなのかがわからなくなり、混乱する。

Hermès spring/summer 17

そんな現実を、どう処理していけば良いというのだろうか?月曜のパリ——上記は月曜の様子だ——、私は今シーズンに見たすべてをようやく理解し始める。エドワード王朝風のフラウンスが膝下丈のスカートの裾を飾る、ほとんどスポーティといっても良いであろうHermesのドレスだったが、同様のドレスはニューヨーク(Victoria Beckham)やロンドン(J.A. Anderson)でも見られたし、ミラノ(Gucci)、パリ(Loewe、Celine、Valentino)でも同様だった。「3度見たものはトレンド」などと言ったのも今は昔。上に挙げた特徴すべてを兼ね備えたドレスを2017年春夏コレクションのランウェイで見た回数を考えれば、これこそが来シーズンのメガトレンドとなることは想像に難くない。Alexander McQueenのショーではサラ・バートンが、今シーズンいたるところで見られたスリーブのトレンドを極めた。ヴィクトリア王朝調のジゴ袖や、エレガントに肩をさらしたエドワード王朝調スリーブに、パフやツイストが遊び、パワフルな女性が描かれた。サラ同様にスリーブで魅せたデザイナーをここで挙げていけば、文字数単位でお金を頂くライターとしてはありがたいほどだ。しかし、それを「キリがない」と言ってしまえるほど、今シーズンはスリーブに特徴があった。今季はまさにスリーブのシーズンだったのだ。産休から明けて現場復帰をしたサラは、最近訪れたシェットランド諸島にインスピレーションを受け、そしてロンドン・ファッションウィークからここそこに見られていたヴィクトリア王朝時代のモチーフを見事に完成させた——「沈没した船とともに、美しく海底へと沈んでいった服」というイメージこそは、今シーズンを語る鍵となった。

Alexander McQueen spring/summer 17

その世界観を最初に見たのは、今シーズンのロンドンだった。1642年、オランダのオレンジ公ウィリアム王子2世に嫁いだチャールズ1世の娘に同行していた船旅の途中、船が座礁して亡くなったロックスバラ伯爵夫人ジーン・カー。「カーのドレス発見」というニュースに夢中になったErdemのデザイナー、アーデム・モラリオグルは、今シーズンのコレクションにその影響を盛り込んだ。パリでは、ジョナサン・アンダーソンがLoeweのショーを披露し、ふたりの男が波にさらわれた樽を繰り返し浜辺へと引きずり上げる映像を背景に、パッチワークドレスや船の帆のようなドレス、1800年代初頭を思わせるチュニックなどがランウェイを彩った。Alexander McQueenではサラ・バートンが、波に生じる泡のようなチュール地を用いたドレスに、難破船に生える海藻を思わせる装飾を施した。「トレンドは難破船」などということは起こらないだろうが、このファッションウィークの狂乱のただなかでは、その響きがなぜかしっくりくる。本来であれば1年をかけて見極めるべきものを、たった4週間で、駆け足で見ていれば、誰でもこんなおかしな感覚になる。

Sonia Rykiel spring/summer 17

月曜に開催されたSonia Rykielのショーでは、「Rykiel Forever」と織り込まれたニットを着たモデルたちが故ソニア・リキエルを偲び、ランウェイを歩いた。Sonia Rykielというブランドにとって、またリキエルの友人やファンにとって、そしてあのショーを作り上げる過程で関係したすべてのひとにとって、あれはただただ感動的な瞬間だった。今季の主要ファッションウィークの幕引きまであと2日という今、振り返ってみれば、良いショーもあれば、がっかりするショーもあった。しかし、がっかりする内容のショーであっても、そこにどれだけの時間と力が注ぎ込まれたかを、私たちはよく知っている。現実世界へと立ち戻ったとき、私たちはショックを受ける。ショー開催期間中に体験した刺激とはまったく違う刺激が現実世界にはあり、当然だがそれは極めてリアルな世界だからだ。ファンタジーの荒波に飲み込まれ、現実世界へと打ち上げられたとき、ジゴ袖やフラウンス満載のドレスがどれだけ現実世界に影響を見せるか、私たちは見届けていくことになるのだ。

Credits


Text Anders Christian Madsen
Translation Shinsuke Kuriyama at WORDSBERG Inc.