coach spring/summer 17 at new york fashion week

ニューヨーク・ファッションウィークで、イギリス人デザイナーのスチュアート・ヴィヴァースがアメリカ中西部版パンクガールたちをランウェイに送り込んだ。

by Anders Christian Madsen
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23 September 2016, 5:25am

内情をよく知らなければ、「スチュアート・ヴィヴァースが突如としてアメリカに反旗をひるがえすパンクになってしまったのか」と思ってしまっても仕方がない。彼がCoachのデザイナーとして2017年春夏コレクションにと考えたのは、廃車置場を舞台として、Bleachedの「Keep On Keepin' On」が流れる、反体制的クラシックなファッションの世界だった。イギリスのパンクは、タータンやツイード、テーラリングなど従来の画一性をもって既成概念を壊し、新たな世界観を打ち出した。ヴィヴァースもまたCoachで、カントリードレスやスタジャンなど、保守アメリカ中西部を象徴するアイテムにシースルーやスタッズ、レザーフリルなどセクシーさを盛り込んで、挑発的世界観を打ち出した。かつては反体制の象徴として世界を揺るがしたにもかかわらず、現在ではアメリカ的価値観を打ち出す際に国内右翼がこぞってそのイメージを拝借するエルヴィス・プレスリーでさえも、ヴィヴァースの手にかかっては従来のプレスリーではいらない。ヴィヴァースはCoachのデザインチームに参加してからこれまで、アメリカの象徴としてプレスリーを実に巧みにデザインに取り込んできた。

ヴィヴァースは、現在アメリカがある状況——正確には、「ドナルド・トランプが存在感を増している現状」——がこのコレクションに少なからず影響を及ぼしたことは否定しない。しかしながら、彼は政治的意図を好んで発信するようなデザイナーではない。「もちろん影響はある。でも部外者であるからこそ持てる楽観のようなものが僕にはある。僕には、アメリカの良いところが見える——この自由、このオープンさは、アメリカならではのもの。それを部外者として見た、その視点こそがこのコレクションの始まりだった。僕が見るアメリカは、アメリカ人の目に映るアメリカとはきっと違う。僕たちがすることなすこと、すべては今という時代を反映した形なんだよ」。ドナルド・トランプはニューヨーク出身。だが、ニューヨークという街特有の価値観など微塵もない。まだ共和党候補が選出されていない段階で、共和党代表候補だったテッド・クルーズは、このニューヨーク特有のリベラルな視点を痛烈に批判していた。ヴィヴァースは、今回のインスピレーションを得るために電車でサンタフェまで行き、そこでこのニューヨーク特有の価値観を砂漠の風景に見たのだそうだ。「サンタフェは、まるで砂漠のなかのニューヨークのようだった。さまざまなカルチャーがマッシュアップされているような、そんな感じがしたんだ」とヴィヴァースは回想する。そういった意味で、Coachのコレクションは少なからずパンク的だった。そしてそれは、今季ニューヨーク・ファッションウィークになぜだか欠けていた要素だった。今アメリカが、そしてニューヨークが置かれている状況にあって、世界はクリエイティブなニューヨーカーたちに何かしら断固たる視点と姿勢を期待していた。しかし、CoachとOpening Ceremonyを除き、そのような反対姿勢を明らかにしたブランドはとうとう見られなかった。

パンクは、もちろんイギリス発祥のものだ。イギリス出身のヴィヴァースには馴染みの深い世界観だろう。だからだろうか、彼はこのコレクションをパンクだとは捉えていない。「このコレクションで描いているのは、タフでクールな女の子。アクは強いけれどフェミニンさや軽さが感じられる、そんな女の子像を描きたかった。Coachガールには、そういう世界観が似合うと思う」と彼は説明している。「自分でシューズやジャケットをカットしたりしてカスタマイズするような女の子。お手製の感じがあって、作りとしては素人じみた服の構造が気に入ってるよ。Coachはフォーマルなんじゃなく、あくまでも"わざとらしくない"世界観が似合うと思うんだ。Tシャツみたいに、そこにあったから着たっていうような雰囲気を出したかった」。そのアイデアほどアメリカンなものはない。この国で、「カジュアル」というのは宗教・信念のようなものだ。しかし、ヴィヴァースのイギリス的エキセントリックな視点を通して体現されると、カジュアルはより上質なものになっていた。観客席のフロントには、大人気のうちに終了したテレビ番組『ストレンジャー・シングス』のウィノナ・ライダーやミリー・ボビー・ブラウンがいた。『ストレンジャー・シングス』の世界観はまさにヴィヴァースにぴったり。また続編が制作することになれば、ヴィヴァースこそが衣装を担当すべきだし、フロントに座っていた女優たちの表情から察するに、彼女たちもきっとそれを望むだろう。

Credits


Text Anders Christian Madsen
Translation Shinsuke Kuriyama at WORDSBERG Inc.

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