最愛の人を想う歌:TAKAHIROMIYASHITATheSoloist. 2018SS

静まり返った会場に、スーザン・ヴェガの歌声が鳴り響く。こうしてファム・ファタール・フェロウをテーマとした、TAKAHIROMIYASHITATheSoloist.のショーは始まった。

|
okt 17 2017, 7:35am

2017年10月16日(月)20:00。この晩を待ち望んだ人が、どれだけいただろうか。雨は降りやみ、肌を刺す寒さと湿気の匂いがただよう秩父宮ラグビー場の東門側通路に、闇夜にすっと溶け込む黒いテントがあった。ここが、TAKAHIROMIYASHITATheSoloist. のショー会場である。錚々たるシーティングだ。こと日本のメンズファッションを牽引してきたと言っても過言ではないファッションデザイナーやスタイリストらがフロントローに一堂にかいしている。Amazon Fashionが主宰するプログラム「AT TOKYO」に参加を表明し、来たる10月20日に合同ショーの開催を控えているsacaiの阿部千登勢とUNDERCOVERの高橋盾の姿もそこにあった。彼らもまた、デザイナー・宮下貴裕が、この東京の地で、ショーという方法で何を魅せるのかを心待ちにしていたはずなのだ。

暗転して暗闇の中、Suzanne Vegaの「Tom's Diner」、囁くような歌声が会場を包む。Oh, this rain it will continue……I am thinking of your voice……と。そして、赤褐色のライティングで、ショーの幕が上がった。2018年春夏コレクションのテーマに掲げられたのは、「femme fatale fellow」。去る6月にパリで発表された同コレクションは、あえて擬似的に「最愛の女性」の視点に立ち、その女性が持つスタイルのバランスをメンズに置き換えながら、「メンズ服の持つ可能性を示唆し、性差を超えたドラマティックな物語を紡いでいる」のだという、あえて日本語にするならば「最愛の人の男」なのだろうか。

ランウェイに現れたのは、このショーのために製作された、内田洋一朗によりハンドペインティングが施されたPVCのショートスリーブトップとフード、村山伸により製作されたマスク、顔を覆い隠すフェイスマスクを身につけたモデルたち。男性か女性かの判断もし難い、アノニマスな空気感をまとい飄々と歩く人々に、孤高で力強くも、繊細な情動を感じたのは間違いだろうか。どこかロマンチックな音楽と共鳴しながら、心を鷲掴みにされたのはきっと私だけではない。


もし仮に、インビテーションを手掛かりに想いを馳せることが許されるのであれば、「I AM THE SOLOIST. SINCE 2010」と記されたフェイスマスクを纏う少年のイノセントな佇まいに、彼は強く共感しているのかもしれない――これまでにもTheSoloist. のコレクションに参加し、ムービーに出演したことがある彼の名は、オスカー白石。Special Thanksの欄に記されていたのは、彼に加え、クリエイティブ・ディレクターの庄司信也、ランの店 PLACERWORKSHOPのオーナーでありタイポグラフィー・クリエイターの内田洋一朗、そして、若きフォトグラファー・阿部裕介の4名だ。

フィナーレ。フェイスマスクをとり素顔に、しかし目元に黒いラインを入れた男女のモデルが立て続けに闊歩する。Lana Del Reyが歌う「LOVE」が、ゲストに、情緒纏綿な優しい余韻を残した。And it's enough just to make me go crazy, crazy, crazy。It's enough just to make me go crazy, crazy, crazy。そういえば、オープニングの歌も、この楽曲も、恋をする女性がコーヒーを飲んでいた。