キュレトリアル的な見方:YOHEI OHNO 18AW

「ルック一体ごとではなく、空間全体をスタイリングしたような感覚です」。2度のショーを経て、今季はインスタレーションでの発表を選んだYOHEI OHNO。魅せることに傾倒した現実味のない服ではなく、人の生活のうえにある“プロダクト”としての服のあり方にデザイナーの大野陽平は立ち返ったと言う。ただ、彼の嗜好性がそっと影を落としながら。

by Tatsuya Yamaguchi; photos by Shun Komiyama
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22 March 2018, 5:49am

モダンな数種類の椅子やライト、一人がけ用のソファ、コーヒーテーブルとカップソーサー、そしてデスクの上には嗜好品ともいうべきオブジェの数々が互いに距離をおきながら配置されている。その合間には、真っ白い直方体の台座がいくつか設置され、直立するモデルもいれば、椅子に腰掛けるモデルもいる。これらは、YOHEI OHNOが発表したインスタレーション空間の要素をシンプルにすくい上げた場合のリストだ。

「共通するのは少し古めかしいけど、未来っぽくみえるもの。そうしたオブジェクトは僕の趣味の対象でもあるので、個人的な部分は色濃く出ていますね」と、デザイナーの大野陽平は話す。「ただモダンなだけでなく、人が親近感を覚えるような、ノスタルジーの匂いがある“空間”にしたかった」。そこに今季のテーマが浮上してきている。

ゲストは会場内を自由に動きまわり、さまざまな角度からインスタレーションを観ることができる。一方向的なランウェイとはまるで違う。「2度のショーを経て、『生活空間を含めた提案』という次のステップを考えました」。ランウェイを歩くことで“魅せる”ことに意識が傾き過ぎていたと思い至って、“プロダクト”として人に寄り添えるYOHEI OHNOなりの服というあり方に立ち返るようにして、「スタイリングは不安になるほど削ぎ落とし、すべてのルックは空間にあるオブジェクトとの釣り合いを考えて組んでいます」。つまり、人と服が、空間全体の一部として“調和”していることが欠かせなかった。

「もっと人の懐に踏み込みたい」。と言っても、魅力的な家具のなかに埋没してしまうような表層的なリアルクローズをつくろうとしたわけではない。「一般的な“実用的な服”というリアリティはまだ強く意識していませんが、服のどこかに日常のワンシーンを連想させたり、人の生活の一部が切り取られたような懐かしさを感じていただけたらと」。例えば、部屋のカーテンを連想させるスカーフにギャザーを寄せた装飾や壁紙を思わせる柄には彼のユーモアが潜んでいる。これまでフューチャリスティックなイメージを推し進めてきたメタリックな素材や変わったマテリアル使いは息を潜めて、コーディロイやツイードといった「人にとって近しい」という素材からイメージを膨らませた。直線と曲線が入り混じるフォルムや量感のコントラスト、色彩の穏やかさ、ディテールへのミニマルなこだわり、あるいは最低限の装飾性もまた他のオブジェと共鳴しあって見える。「肩にポイントをおいて、下はすっきりさせるといったバランスなど、“ブランドの特徴”になるものを、という視点もありました」

象徴的に継続しているものもある。工業製品特有の硬質なイメージがある螺旋状のイヤリングは耳元を彩っているし、前回はショーピースとして発表した球体型バッグやシグネチャー的存在でもあるロンググローブは“白い台”のうえに飾られている。「今シーズンはそれらをしっかり製品化することにトライしています。ただ、ルックのスタイリングという点では前回たくさんお見せできているので、今回はあくまで空間内のオブジェとして配置しました」

——これは彼に訊くほかないのだけど、デスクの上に置かれていた一冊の図録から受けた影響はどれほどなのだろう? それは2007年にヴェネツィアで開催された展覧会「ARTEMPO - Where Time Becomes Art」のもので、著名作家の芸術作品と人体標本、動物の剥製、神像・仏像、廃物など相似性のあるものが、壮大な空間のなかに無造作的かつ等価的に配置されていたそうだ——同じ波長がぶつかり合うと、より大きな波になるように、展示物同士が価値を高め合う空間だったにちがいない。