NARIAKI WEARS SHIRTS AND TROUSERS JIL SANDER. GLASSES STYLIST’S OWN.

小袋成彬 interview:人生というサウンドスケープ

小袋成彬『分離派の夏』は、宇多田ヒカル『First Love』がそうだったように、日本のポップ・ミュージックに対して巨大なインパクトを与えることになるだろう、驚愕すべきデビュー作だ。様々なアーティストのプロデュースも手がけた弱冠26歳の新しい歌声が、2018年の日本に響き渡る。

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06 April 2018, 7:52am

NARIAKI WEARS SHIRTS AND TROUSERS JIL SANDER. GLASSES STYLIST’S OWN.

物腰柔らかで気品あふれる佇まいと、作品について語る際に紡ぎ出される明晰でユーモラスな言葉たちから、小袋成彬という若き才能の知性が伺える。

ポスト・ダブステップとネオ・クラシカルが華麗に溶け合うエクスペリメンタルなトラックと、ライやフランク・オーシャンといったインディーR&Bを思わせるヴォーカルが特徴的なユニット、N.O.R.K.。彼らが解散した後、ヴォーカルを担当していた小袋は、2015年に自主レーベルTokyo Recordingsを設立した。彼はそこで綿めぐみやCaepson等をプロデュースし、映画『ナラタージュ』の主題歌を歌うadieuのアレンジを手がけるなど、裏方としての活動に徹する。小袋が再び表舞台で注目を浴びることとなったきっかけは、宇多田ヒカル『Fantôme』の収録曲「ともだち with 小袋成彬」に客演したことだろう。彼のヴォーカルに惚れ込んだ宇多田は、小袋のデビュー作『分離派の夏』でプロデューサーを務めることになる。彼女が本作に与えた影響は大きい。「彼女は自分で作詞作曲編曲をやる人ですから、歌詞が変われば編曲も変り、全てが連動しているという感覚を持っています。そういった人から歌詞やアレンジメントなど、様々な方面からのアドバイスをもらえたのは大きかったです」

DENIM JACKET MARNI, TOP MODEL'S OWN, GLASSES STYLIST'S OWN.

小袋自身が手がけた歌詞は、韻を丁寧に踏みつつ、日本語として美しく響くようなものになっている。「僕が何か物語を歌うときは、それが音楽的なものである必要があるんですよ。韻を踏むと旋律やリズムがより感じられるので、より音楽として機能することがあるんです」。彼の言う物語がどこから来るのかを尋ねてみると次のような答えが返ってきた。「歌詞を書き始める前に、小説っぽいものを書くんですよ。それはもう小説として成り立っていて、そこで頭を一度整理するんです。そしてその物語が音楽である理由をそこから抽出していきます。短いときは1000字、多いときで3000字くらいです」。そのように小説として描いた世界を音楽化することが、小袋のソロ活動の根源にあるものだという。そうだとすれば、彼の文学的資質のルーツはどこにあるのだろうか。「日本文学の影響は大きいです。川端康成の『山の音』が大好きで、あの世界観を音楽化したようなアルバムを作れたらいいなと思ってました。海外文学だとヘルマン・ヘッセが好きですね。彼らが僕のフェイバリットです」

DENIM JACKET AND PANTS MARNI, TOP MODEL'S OWN, GLASSES STYLIST'S OWN.

音楽的な側面から『分離派の夏』を考えてみると、クラシック~現代音楽の要素が本作に大々的に導入されていることは重要なポイントだ。しかし小袋自身は楽典的な素養はないらしく、弦のアレンジはTokyo Recordingsの共同主宰者であり、現在はYaffleとしての活動も展開している小島裕規の力を借りている。「僕自身は感覚的な響きで作曲してます。主旋律が頭の中にあるので、それに則るように小島くんに譜面を書いてもらいました」。彼の楽典的な素養のなさが、本作にオリジナリティあふれる効果をもたらすこともある。「Summer Reminds Me」がそれだ。「最後の弦のスタッカートみたいなところ、あれは楽典的にはダメなんですけど、僕はやってしまっていて」。小袋はそのことをどう捉えればいいか小島に相談した。「君が作っているのはクラシックじゃなくてポップスなんだし、それが君の響きならそれでいいじゃんと言ってくれて。これはある意味、伝統みたいなものが壊されてアップデートされた瞬間だ思いました」。弦のインスピレーションはどこから得たのだろうか。「直線的に上昇する弦の使い方はクセナキスの影響があります。Radioheadが『A Moon Shaped Pool』でやっていたような弦の使い方も勉強になりました」。通常のR&Bではあまり耳にすることのない実験的な弦の響きの背後には、連綿と受け継がれてきた現代音楽の知性があった。

『分離派の夏』には現代ジャズを代表するドラマー、クリス・デイヴが「E.Primavesi」に参加しているが、このことに象徴されるように本作では多彩なリズムアプローチが試されている。リズムの基盤を作る際、通常ならノーマルなドラムセットの構成で打ち込むところを、小袋は自身の手癖が出ないようにキックだけで打ち込んだ。そこにはリズム/ビートを既視感のないないものにしたいという想いがあったようだ。小袋自身がエレキギターを弾いている点も、彼の音楽を特別なものにしている。「僕はピアノもほんの少しだけ弾けますけど、基本的にはギターの方が得意なんですよ。転調が半音下がるか半音上がるかっていうギターっぽいコード進行が多くて、そうすると不思議なコード進行になるんですよね」。また、『分離派の夏』の楽曲は先行曲「Lonely One feat.宇多田ヒカル」に代表されるように、ドラスティックな展開を見せることが多いことも大きな特徴だ。これは彼の性格が「ハマりやすくて飽きやすいとか、切り替えが早いとか、あんまりのんびりしてない」ことが理由だという。

『分離派の夏』における「分離派」の意味を尋ねたところ、その意味を明示するのは避けつつも、彼独自の意味が込められていると教えてくれた。「影響を受けてはいますが、アートにおける分離派の呼称をそのまま使ったものではないです。精神医学でいうDissociation(解離)の影響もあったり、そういった多義性を踏まえたうえで僕の中で定義をしています」。このデビュー作は、宇多田ヒカルや小島裕規をはじめ、客演している音楽家やヴォイスを提供している友人など、彼が築き上げてきた様々な人脈や蓄積が活かされている。「僕が胸を張って自慢できるのは人の縁に恵まれていることで、それは心から感謝しています。本作で歌われた物語も、僕自身の体験や今まで生きてきて見聞きしてきた他人のエピソードを振り返って、そこに脚色がついて、フィクションなのかノンフィクションなのかわからないものになっています」

Credit


Text Kohei Yagi.
Photography Kisshomaru Shimamura.
Styling Shohei Kashima.
Hair Hiroyuki Ohmori at VANITES.
Styling assistance Erika Hara.
Hair assistance Miyuu Takeuchi.