生と死の境界線:アーティスト・武村今日子 interview

私たちが当たり前と思い込んでいる常識にメスを入れるアーティスト・武村今日子。世界最大の写真コンテスト〈2018年度ソニーワールドフォトグラフィーアワード〉受賞作やベルリンでの気づき、「オリジナル」 観について語る。

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apr 19 2018, 11:16am

水槽の中の魚は生きているのか、はたまた死んでいるのか。ベルリン在住アーティスト・武村今日子の『Cabinet of Life(生と死の境界線)』が、世界最大の写真コンテスト『2018年度ソニーワールドフォトグラフィーアワード』を見事受賞した。4月20日から5月6日まで、ロンドンのサマセットハウスで展示されるという快挙だ。セントラル・セント・マーチンズ卒業後すぐにベルリンへ移住し、海外メディアから注目を集める武村今日子とは、一体何者なのか。「知的好奇心が強い。生命の不思議や、当たり前の中に隠れたものの本質を照らし出すことが活動の軸なんです」。日々生まれる素直な問いとまっすぐ向き合い続ける彼女に、受賞作から子ども時代までのストーリーを訊いた。

──受賞作「Cabinet of Life」は、どうやって発想を得たのですか?
15世紀以降ヨーロッパで古今東西の珍品を収めた部屋『Cabinet of Curiosities(驚異の部屋)』との出会いがきっかけです。自然の神秘を鑑賞する目的に加え、ヴァニタス(生の儚さ)やメメント・モリといった哲学的テーマを含むこの部屋を知ってコンセプトが固まりました。今作のテーマは「生きてるってどういうこと?死ぬってどういうこと?」。クオリティとしての死は水槽の中にあっても、目では確認できない。いつか容れ物である肉体を残して魂が去っていく。この魚たちは未来の私たち自身の姿でもあるんです。

──今作ではコンセプト、アートディレクションを担当、撮影はロンドンでされたそうですね。
イギリス人フォトグラファーNick Dunneと一緒にスタジオで撮影しました。ライティングや配置など、15世紀の静物画を参考にアートディレクションしています。目が濁らないように、魚を調達したその日のうちに撮影したり、ピシャッと水面を波打たせたりして、まるで水槽の中の魚が生と死を行き来している状態を表現したんです。受賞作品はアラスカメヌケですが、私は動きのあるソードフィッシュがお気に入り。これ全部食べられる魚なんですよ。

──今回が日本初インタビューですが、既にロンドン、スペインなど海外メディアから注目されてますよね。『Cabinet of Life』は海を越えてメキシコ版『VICE』に掲載されたとか。
スペインが特に多いですね。メキシコは死に対して独特な価値観、豊かな土壌を持っています。そんな生と死に身近な国だからこそ、感じ取ってもらえたのかも。

──たしかに今作は“生と死”が大きなテーマですね。
死は誰にでも訪れるのに、誰にも説明できない。生きている状態しか知らない私たちは、死の向こう側がわからない。そう考えると、生きてるってそれだけですごいと思ったんです。そもそも宇宙から見ると、生きていないものの方が多いじゃないですか。生命体が唯一発見されている地球も、広い宇宙から見るとポツンとした塵。一生かかっても答えの得られない問いを持って生きていけることが面白いなあと思って。生きてるだけで幸せでラッキーだと思うし、何より楽しいですね。

──いつから“生と死”について考えるようになったんですか?
ベルリンに来てからです。人が人らしく、生き物らしいペース生きているなあと思って。あと、自然も多いですし。これまで自然に興味なかったんですが、いまでは1人で森へ行くのも好きですね。自然や場所から受ける磁場にも影響されたのかな。ちなみにロンドン時代は“食”について考えていました。

──ベルリンへの移住が影響したんですね。写真、アニメーションでのアウトプットのこだわりを教えてください。
グロテスクさや面白さを見せたい。造形や見た目だけを切り取るときは写真で、プロセスや現象など時間軸を表現するときはアニメーションですね。アニメーションは何かに命を吹き込む疑似体験ができて楽しいですよ。

──「当たり前の中に隠れたものの本質を照らし出す」というコンセプトも興味深いです。
日常で当たり前となっている常識や凝り固まった視点で見られているものを見直して、これってよく考えたら面白くない?変じゃない?と生まれた疑問を考察、視覚化することが好きなんです。だからといって、作品にメッセージ性を持たせることや政治的、批判的なことはやりたくないですね。作品だけを見せて、どう感じるかは見る人次第。アーティスト個人の意見を込めずに、常に客観的な視点を保つようにしています。

──子どもの頃はどんな子でしたか?
生き物に興味があって、図鑑が好きでした。魚、恐竜、動物、一通り図鑑をもらって読み漁って、今でも正式名称を覚えてます。例えば、一見蛾に見えても、本当はジャノメチョウっていう蝶だとか。あと、週2ペースで水族館へ行っていましたね。切断しても死なず2匹に増えるプラナリアを知ってから、水族館なのに魚ではなくプラナリアを探していた時期もありましたよ。

──子どもの頃から一貫した探究心ですね。最後に、武村さんの考える「オリジナル」とは?
人と比べないこと。オリジナル感を出そうとすると周りを意識し始めて、つまらなくなると思うんです。周りを気にせず、自分がワクワクする、これ面白いというものに取り組むことが大事ですね。

@kyokacola