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カミングアウトを超えた青春クィア映画5選

ブルックリンのビーチから南アフリカの村、ヨークシャーの牧場、ロシアのベッドルームまで、世界のLGBTQ+映画が描くユースの葛藤。

by Emily Manning
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30 August 2017, 4:30am

still from 'beach rats,' courtesy of provincetown film festival

This article was originally published by i-D US.

マサチューセッツ州プロヴィンスタウンは、アメリカでもっとも古くクィアのコミュニティが作られた土地であり、またアートの先進都市となった最初の土地でもある。戯曲家のテネシー・ウィリアムズ、作家のノーマン・メイラー、戯曲家のトニー・クシュナー、写真家のナン・ゴールディン、女優のクッキー・ミューラー、映画監督のジョン・ウォーターズなどが、キャリアを確立したのちに安住の地として選んだのもプロヴィンスタウンだった。だからというわけでもないかもしれないが、プロヴィンスタウン国際映画祭には、毎年LGBTQ+映画が多く出展される。しかし、第19回となる今年のプロヴィンスタウン国際映画祭では、例年を上回る数の作品にクィアの視点が盛り込まれていた。

今回の映画祭には、トランスジェンダーのための人権活動家マーシャ・P・ジョンソンを追った『The Death and Life of Marsha P. Johnson』や、映画監督ペドロ・アドモドバルのミューズであり画家フリーダ・カーロの心をも掴んだ孤高のメキシコ人ミュージシャン、チャベーラ・バルガスを扱った『Chavela』などのドキュメンタリー作品が出展されている。また、エイズにより多くの命が失われた80年代後期のニューヨークで、スザンヌ・バーチらがエイズ/HIV治療研究への寄付金を募るために立ち上げた伝説のイベント<Love Ball>の記録を探り、クリエイティビティを通してLGBTQ+の解放を大きく後押しした勇敢な人々を見せてくれる『Susanne Bartsche: On Top』も重要なドキュメンタリーだろう。物語形式の映画作品には、イスラム教徒のパキスタン人女性と、メキシコ系アメリカ人女性の間に生まれるロマンスを描いた『Signature Move』、アラン・カミングが、エイズを発症した後に若い男性と出会い、関係を築く姿を描いた『After Louie』などがある。そして、今回出展されたほとんどのクィア映画が、若者を描いている点も興味深い。ここでは、特に際立った5作を紹介する。

『ビーチ・ラッツ/Beach Rats』
エリザ・ヒットマン(Eliza Hittman)は、自身2作目となる監督作品『Beach Rats』で、2017年サンダンス映画祭監督賞を受賞した。19歳のフランキー(演じているのは、現在大注目を集めているイギリス人俳優ハリス・ディキンソン)は、母、妹、そして病床にある父と4人で、ブルックリン南部の海岸沿いに暮らしている。この静かに息苦しい家庭環境から逃れるように、フランキーは、同じく目的を見出せぬままに生きる仲間たちと、コニー・アイランドのブロードウォークや、リキッド式タバコ屋、ハンドボールのコートにたむろするようになる。フランキーにとって、女の子の気を惹くなどたやすいこと——しかし彼は、夜になると出会い系サイトを徘徊し、ときには、過去にも"からんだ"ことのあるクィア男性たちとビデオチャットを楽しむ(ヘテロセクシュアル男性とはからまない)。しかし、自分の性的趣向について考えることはしない。彼が生きる世界において、そういった性の欲望をオープンにし、かつ偏見からも免れることは不可能なのだ。『Beach Rats』が、たとえば『ムーンライト』のように観るものの琴線に触れるようなことはない。しかし、世の男性が自らに課す制限について、いくつかの重要な疑問を浮き彫りにしてくれる。そして、ヴィム・ヴェンダースやアニエス・ヴァルダといった名匠たちの撮影監督を務めてきたエレーヌ・ルヴァールによるシネマトグラフィは、スーパー16で美しい視覚的ストーリーを物語っている。

『God's Own Country』
監督フランシス・リーは、今年のサンダンス映画祭において、この映画でイギリス版『ブロークバック・マウンテン』と絶賛を浴び、ワールド・シネマ監督賞を受賞した。ドキュメンタリー調のこの映画は、脳卒中の後遺症に苦しむ父に代わって家族の生活を支えようと牧羊場を継ぐ、大人しく朴訥とした若者を中心に描かれる。労働の厳しさと、ヨークシャーの片田舎に暮らす孤独感で、25歳のジョニーの心は凍てついている。しかしそこへ、羊の出産期を迎えた牧場にルーマニアからの短期労働者ギオルゲが現れる。ジョニーとギオルゲは羊たちを囲いながら山へと入っていく。生まれたばかりの子羊を扱う際に、優しさがいかに大切か——ギオルゲは、ジョニーに説く。映像は、ヨークシャーの大自然の美しさと厳しさを捉えており、そこにジョニーの心の葛藤が浮き彫りになる。

『セブンティーン/Seventeen』
今年初旬、i-Dは、オーストリアの若手監督モニヤ・アルト(Monja Art)にインタビューし、デビュー作『Seventeen』について訊いている。この映画は、オーストリアの片田舎で夏を待ち焦がれ、高校最後の日々をなんとなくやり過ごしている17歳のパウラの物語だ。彼女はシャルロッテに恋心を抱いているが、シャルロッテにはミカエルという彼氏が。シャルロッテの心はパウラとミカエルのあいだで揺れ、一方のパウラは、もうひとりの女の子リリから言い寄られて揺れる。アルトはi-Dの取材に対し、この映画がカミングアウトの物語ではないと話している。90年代のオーストリアに育ったアルトはかつて、この映画の登場人物たちと同じように同性に惹かれ、まだその流動性を自然なものと感じていたという。『Seventeen』はそういった欲望や夢想、期待といったものを自らの内で処理し、難しい現実と向き合うことを描いている。「思春期特有の気分の揺れに興味があった。若い頃はすべてが可能なように感じられる一方で、些細なことでどん底に突き落とされたような気分にもなる。Facebookで誰かひとりが"イイね!"を押してくれなかっただけで、何日も憂鬱な気分で過ごすことになる。そういった感情の振り幅の大きさは、思春期に特有なものだと思う」とアルトは話す。「そして青春時代は、本人がその只中にいながらにしてロマンチックなものとして捉えることができる、特殊な時期——時間を巻き戻すことはできない、もう2度とこの瞬間は戻ってこないと痛感しながら生きている時期」

『The Wound』
監督ジョン・トレンゴーヴ(John Trengove)は初監督作品となる『The Wound』で、新しい青春の物語を綴りあげた。南アフリカのコサ族に伝わる、肉体的にも精神的にも多くを求められる通過儀礼を追った映画だ。10代の少年たちが両親の元を離れ、南アフリカ東ケープ州の山奥で割礼の儀式に参加する。傷が治癒するまでのあいだ、彼らは隔離され、断食を強いられる。主人公は都会に生きる"ヤワ"な男。裕福な父は、儀礼に毎年駆り出される工場職員ゾラーニを雇い、「息子を大人の男に仕立て上げてくれ」と金を渡す。主人公もゾラーニも、ともにセクシュアリティを隠しているゲイで、それをお互いに気づいてはいるものの、それが結束を生むことはない。『The Wound』は南アフリカの現実においてほとんど語られることのない側面を、美しいワイドスクリーンのシネマトグラフィによって照らし出す。南アフリカに根付く経済的階級と同性愛のタブー視、そして"男性であること"のさまざまな意味をものがたりながら、コサ族に受け継がれる独特な伝統の内情を見せてくれる。

Still from Little Potato, courtesy of Provincetown Film Festival

『Little Potato』
シアトル出身のウェス・ハーリー(Wes Hurley)が作った自伝的短編映画。ハーリーはこの作品で、SXSW映画祭にて短編ドキュメンタリー賞を受賞した。20万円弱という低予算で製作されたこの映画は、4年前にハーリーが『ハフィントンポスト』で発表したエッセイをもとに作られた。『Little Potato』は、大陸を横断しながら10代を過ごしたハーリーの半生を描いている。ソビエト時代のロシアに育ったハーリーは、物心ついたころから自身をゲイと認識していた。しかし、同性愛に対する文化的風潮が彼の人生に苦難と危険をもたらす。「友達も大人たちも、『pediks(元は「小児愛者」を指すロシア語で、主にクィアなひとびとの呼称となっている)は連続殺人犯よりも凶悪で、それを自認する人間はこっぴどい死に方をする』と口々に言っていた」とハーリーは書いている。オープンな心を持った母は、息子がありのままに生きられる環境を求め、アメリカへの移住を企てる。アメリカ男性との結婚に応募し、晴れてハーリーとともに太平洋岸北西部へと渡った母だったが、新たな夫の予期せぬ抑圧に直面することとなる。この短編映画は、生きることを肯定した素晴らしい作品となっている。

Credits


Text Emily Manning
Translation Shinsuke Kuriyama at WORDSBERG Inc.

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