ティム・ウォーカーとの対話

最新号でi-D UKは、イギリスが誇る写真家ティム・ウォーカーと手を組み、才能に溢れるロンドンの若きクリエイティブたちを讃えるシューティングを行った。ティムが今回の撮影を振り返り、ユースを撮りたかった理由、写真家としての責任、被写体に望む条件を語る。

by i-D Staff
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10 May 2017, 9:03am

ティム・ウォーカーの写真は、シュルレアルで幻想的なものから、温かい視線で現実を捉えたポートレイト作品まで多岐にわたる。しかし、それがどのような世界観の作品でも、そこには彼の比類なき才能を見てとることができる。生粋のイギリス人であるティム・ウォーカー。撮影で世界を飛び回っていないときは、彼のBethnal Greenスタジオで、彼が率いるチームと、彼が保護した愛犬スティッグとともに、紅茶を飲みながら次のプロジェクトについて語らっている。おとぎ話のようなその作品からは想像もつかないかもしれないが、写真家としての彼は「真実」という概念を探り続けている。宇宙船に乗った女性が、猟犬を引き連れて馬に乗った男たちとともに柵を飛び越えている写真や、エディ・キャンベルがライオンを連れて打ち捨てられた屋敷を歩きまわる写真、そして、フランス人形のようなブロンドの巻き髪にベビーブルー色のドレスを着た巨大な人形が鉄線を越えてリンジー・ウィクソンを追いかける写真——そうした、とかく幻想的な世界観で有名なティム。しかし、彼の原動力になっているのは、美と真実となのだという。ひとの数だけある個性と、わたしたちを形成する個人的経験の数々に強い興味があるというティムの撮影スタイルは、深みがあって重層的なものだ。彼が求めるのは常に明確で統制が取れているが、同時に情熱的でもある。1ページだけのポートレイトであろうと大規模なエディトリアルであろうと、ティムは愛と時間、そしてエネルギーをその作品へ存分に注ぎ込む。 

2016年末、ティムは「自らを解き放って、表現の自由と制約なきクリエイティビティが支配する制作環境を作ろうとしているロンドンの若きデザイナー、芸術家、ミュージシャンに刺激されている」と、編集部に連絡をくれた。i-Dもまた、スタッフ内で同じようなことを話し合っているところだった——「政治不安と未来の不透明な見通しが世界を包むなか、クリエイティビティこそがわたしたちに力を与え、団結させ、そして未来に突き進ませてくれるものじゃないだろうか?」と。そうしてティムとi-Dは今回のプロジェクトに着手した——現在のロンドンに息づく若き才能たちを、スナップに収めていったのだ。

このプロジェクトには満足していますか?
誇りに思っているよ。これは僕にとって特別な作品になった——このプロジェクトからは多くを学んだよ。写真家というものはいつでも学んでいかなきゃならない。学びのプロセスは続いていくべきものなんだ。ライターも同じだろう?あるヒトやモノについて調べて、それまでに知らなかったことを知ることができるなんて、本当に素晴らしいよ。

毎号、雑誌を作るのは学びですね。まったく異なる人生を歩んできたひとたちと出会うわけですから。
クリエイティブな人間が求めるのは、それに尽きると思うね。もっといろんな人と出会いたいということ。撮影でグレース・コディントンが、若さの重要性と、若い人々と時間をともにすることの大切さを語っていたよ。「孫くらいの世代の子たちと現場をともにしていても、彼らから学ぶことがある——いま世の中に起こっていることに参加するのが大切なのよね」って。それで、このプロジェクトをやりたいと思ったんだ。それが僕の動機——自分が"今"に触れるということ。

i-Dを立ち上げたテリー・ジョーンズは「若さは歳じゃない。心のありようだ」と言い、i-Dは16歳のためのものでも66歳のためのものでもあると言っています。
それは面白い考え方だね。今回の撮影は、僕にとって大きな学びだったし、啓がひらけるような体験でもあった。若さ溢れるクリエイティビティと常に関わっていることの大切さを学んだよ。

このプロジェクトの背景にあった思いについて教えてください。
次世代の若者たちがやっていることを探りたくて、i-Dに相談したんだ。ひとと出会い、いま起こっていることを知るという意味において、これは探求だった。次に欲しいものがアルゴリズムによって算出できてしまうこの世の中が心配だったし、それによってひとの個性や、個性を重視する視点が失われていくのも心配だった。僕が接点を持たないような若い世代では、もしかしたらクリエイティビティが攻撃されるような事態になっているのかもしれないってね。デジタルネイティブ世代に何が起こっているのかを実際にこの目で見て、理解したかったんだ。

i-Dでは、不安定な情勢に歯止めが効かなくなっているようにすら見える今という時代、アートこそがわたしたちを団結し、最終的には未来に導いてくれるんじゃないかと話していたので、あなたのアイデアには強く共鳴するところがありました。世界が政治的混乱をきたしている今、なぜクリエイティビティが重要になるのだと思いますか?
政治的混乱はいつの時代にでもクリエイティビティを助長するもの。いまはコンピューターが絶対的なものとして存在していて、僕たちは日々それに頼って生きている。もう歯止めが効かなくなってきていると思うんだ。政治は狂っていて、そこには歪曲された情報がたくさん出回っている。何かを疑問に抱けばGoogleで調べられるけど、そこで見つかる"答え"のほとんどは未編集の状態で、深みや信頼性にも欠けるものばかり。他方、アートとクリエイティビティには究極の真実がある——人生や人類の歴史についての真実がね。イギリスの詩人ジョン・キーツはかつて、「Beauty is truth, truth beauty(美こそは真実であり、真実とは美である)」と書いていた。真のアートでは、誰も自分の本当の気持ちを捻じ曲げたり、偽ったりなどできない。世界が不可解な方向に向かっているときに真実を求め、もっとも基本的な美の表現を求めるのは、人間としてとても自然なこと。今後5年から10年のあいだにも、きっと意味深いアートがたくさん生まれるはず。そんな空気を感じるよ。

そうでなってほしいですね。あなたが今回撮影した人たちは、政治や世界情勢にどの程度影響を受けていましたか?
全体の9割が、政治意識を持っていたね。こうした情勢では、みんなが政治的になっている。それは、僕たちが目覚めはじめている、真実(トゥルース)の重要性をようやく認識し出しているってことだから、とても良いことだと思う。

写真家として、被写体になる人たちに対しても、発表していく作品に対しても、責任を感じますか?
写真家としての責任は絶大だと思っているよ。i-Dの『女性の視点(The Female Gaze)』号で、コリエ・ショアもそれについて語っていたよね。作り手であるということ、そして著作やアート作品がひとりの個人の視点であるということを語っていたはず。いま僕たちがしなければならないのは、異なる視点を持ったさまざまな作り手を世に送り出して、メディアでの彼らの描かれ方に責任を持っていくということだと思う。

写真を撮りはじめた頃から今までに目撃したもっとも大きな変化は?
自分が何者かということに関して、人々がよりオープンに、より誠実になっていったということ。さまざまなジェンダーや性的趣向を受け入れていく姿勢は、僕が写真を撮りはじめた頃にはなかった気風だよ。セクシュアリティに関してひとが話すなんて皆無だったからね。それが今では、人々が自らのセクシュアリティを臆することなく探ったりできるほど日常的なものになっている。これも"真実"に立ちもどろうとする動きなんだと思う。今回のプロジェクトを進めながら気づいたのは、いまの若い人たちがいかにオープンな心を持っているかっていうこと。個々のアイデンティティを自覚し、ほかの誰とも違う自分をよく理解している。自分たちがもつ力を感覚的に理解していて、彼らを押さえつける障壁もない。いまは物ごとが良い方向に向かっている実感があるよ。写真家というのは、カメラを向けた先にいる被写体があってこそ良いものが撮れるもの——ロンドンは、多様性と才能に溢れた街だなと思う。

それこそが、写真家としてのあなたの特別な点だと思います。あなたはただ現場に現れて人物を被写体として撮るのではなく、時間をかけて彼らと話し、彼らを深く知ることで、被写体を捉える写真家です。これまでも常にそのようなスタンスで写真を撮ってきたのですか?
うん。被写体を表面的に撮るなんてできないよ。目の前の人物と心でつながって、理解しないことには、そのひとの一番おもしろい部分を撮り逃してしまうからね。ずっとそうやって写真を撮ってきたんだ。被写体となるひととしゃべって、そこに心のつながりを感じなきゃならない——撮影が始まる前の10分間、紅茶を飲みながら話すだけでもいいんだ。ひとによっては10秒でつながりを感じる場合もあるし、それより長くかかる相手もいる。でも、誰にでも特別な経験というのがあって、誰もが何かを世界に伝えたいと願っているものだと僕は思う。先日、アリス・ゴダードとキャスティングについて話していたとき、彼女が、「この世に存在する誰もが、写真に捉えられるべきものを何かしら持っている」と言っていたんだ。ひとりの例外もなく、全員がだよ。僕も心からそう思う。あの言葉は、いまや僕の信念ともなっているよ。

被写体に関して、条件のようなものはあるのでしょうか?
ないね。写真家は、人を選ばず写真を撮れるようでないといけないよ。8歳であろうが80歳であろうが、その人の個性を見出さなきゃならない。アリスが言うように、誰もが何か特別なものを持っている——でもファッションはそれを忘れがちだと思う。すべてが計算し尽くされていて、"美しい"部分だけを寄せ集めたような見た目のモデルばかり起用され、万人が納得せざるをえないものができあがるんだよね。ファッションが商業化しすぎると、人がもつ違いやおもしろさ、個性といった、かつてファッションが讃えてきたものが急速に失われてしまう。有名なモデルや女優と現場をともにすると、よく、なにか魔法でも見せられているみたいに感じるときがある。たしかに、カメラの前で素晴らしいパフォーマンスをみせる才能の持ち主はいるんだ。だけど、それまで写真を撮られたことない人や、あまり自分を出さないシャイな人、自分には写真に撮られる価値がないと考えているような人は、プロの被写体と同じだけ多く物語るものだと僕は思うんだ。

今回のプロジェクトを通してあなたが一貫して使っていた言葉に、「stay weird, stay different(変人のままでいい。ひととは違う自分でいてくれ)」というものがあります。なぜそのような考えを?
今回のプロジェクトで僕のカメラの前に立ってくれたひとたちは、みんな変わっていて、個性豊かだった。道を歩いているときやレストランに行ったときに、ただiPhoneを見つめているだけでその外にある世界から自らを完全に遮断している若者を見ることがあるだろう?そこには喜びも生命も感じない——いつも、「何をやってるんだ!目を覚ませ!」って言いたくなるんだ。今回のプロジェクトでは、ロンドンの若いデザイナーやミュージシャン、モデル、アーティストたちとたくさん会って、とても刺激を受けたよ。「そのままでいてくれ。ひととは違う、そのままの自分で——その違いは美しく、とても価値あるものなんだから」と彼らにわかってもらいたかった。他人との違いこそが、僕たちがもつ最大の武器なんだからね。

お金中心に回る現代においては、特にそうですね。
一人ひとりがもつ独自性こそが、無機質で企業社会的なアルゴリズムの虚空に立ち向かうための唯一の武器になると思う。かつてないほど、それが重要になってきていると思えるよ。僕が言っていた「Stay weird, stay different.」っていうフレーズは、映画『イミテーション・ゲーム』の脚本家グレアム・ムーアが2015年のアカデミー賞授賞式で言った言葉なんだ。彼が受賞スピーチでこれを言うと、途端にインターネットで拡散された。Tシャツだったり、いろんなものにその言葉が使われていたよ。この才能溢れる若き脚本家がその言葉に重要性を感じていた事実——そのことが、その後に起こることを予見していたようにさえ思えるよね。個性の重要性が危機にさらされるという未来をね。

今回のプロジェクトで、あなたにとってのハイライトは?
イブラヒム・カマラ(Ibrahim Kamara)、キャンベル・アディ(Campbell Addy)、キング・オウス(King Owusu)、ハリー・エヴァンス(Harry Evans)を撮ったのがとても印象的だった。イブラヒムは生まれついてのスタイリストで、とても才能がある。キャンベルはとても落ち着いたオーラをもっている、とても優しい男だね。写真家としての彼をこれから応援していきたいと思う。彼らを見ていると、「世界は大丈夫だ」と思えたよ。こんな若者たちがいるなら、きっと大丈夫だって。彼らには偽りがない。BBZの女の子たちは、僕の写真集を学校でよく見ていたって言ってくれた。さっきも出た責任の話になるけど、「あの子たちが学校に通っていたときに、僕は何かしらの形で大切なものを彼女たちにもたらすことができただろうか?」と責任を感じるね。写真家として未熟だった自分の行ないが、因果応報で今になって僕に返ってきたように思う。10代後半から20代前半の若者たちと接する機会を与えてもらって、彼らが僕の作品を見て育ったと言ってくれるとき、僕は「君たちはあの写真集からポジティブなものを感じ取ってくれたのだろうか。少しでも君たちの助けになれたのだろうか」ってことばかり考えていた。

ファッション界で20年以上のキャリアを誇るあなたから、若きクリエイティブたちに、何かアドバイスをお願いします。
真実が大切ということ。重要な表現行為というのは、ひとの内側から湧いてくるものでなければならない。ひとに言われてできるものではないんだよ。鏡の前に立って、自分と対峙する——自分が何者なのかをよく知ること。自分自身を知っていれば、自分から逃れられなくなる。その人から湧き出てくるメッセージは、絶対に他人に響くものになるんだ。心のうちから生まれるものは、ほかのひとの心を動かす力をもっている。だから、こう自分に問いかけるんだ——「なにがわたしを突き動かすのだろう?」って。本当に好きなことにしか、ひとは献身なんてできないんだから。

Credits


Text Holly Shackleton
Translation Shinsuke Kuriyama at WORDSBERG Inc.

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