パク・ジェボムが語る「MySpace騒動とクリエイティブ・フリーダム」

力作のバイリンガル・アルバムをドロップしたばかりのパク・ジェボム。R&Bへの回帰、反抗心、そしてかつて自身には許されなかった“自由な表現の場”を若手アーティストたちに与えることの重要性について、彼がi-Dだけに語ってくれた。

by Taylor Glasby
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16 January 2017, 2:57am

2009年9月、Kポップ・アイドルであり、2PMのリーダーとして絶大な人気を誇っていたパク・ジェボムは、失意のどん底へと突き落とされた。4年前、彼はMySpaceにて、練習生としての生活を綴っていた。弱音なども見られた彼のページは、彼の母国語である英語で綴られていたが、そんなたわいないブログの一部が4年の時を経た2009年に韓国語訳され、それが誤訳であることも確認せずにメディアがこれを大々的に取り上げた。誤訳によってその内容は「韓国とその国民を侮辱するもの」と解釈され、彼は一夜にして吊るし上げられることとなった。一時は彼に自殺を求めるオンライン署名まで立ち上げられたほどだ。深い後悔の念に苛まれながら、彼は故郷シアトルに帰った。そして所属していた事務所JYPからの解雇が追い討ちのように彼を襲った。しかし、ジェボムが簡単に燃え尽きることはなかった。

韓国での騒動は、誤訳が明らかになったことで収束を迎えた。そして数年後、ジェボムはファン待望の復帰を果たした。しかし、この一連の騒動はKポップの歴史に大きな傷を残した。メディアの未熟さによって韓国のエンターテインメント業界に根付く"奴隷契約"の存在が明らかになってしまったからだ。「ジェイ」の愛称で親しまれているジェイボムは、今や韓国でもっとも成功しているR&Bアーティストであり、ラッパーであり、プロデューサーであり、またレーベルのCEO、人材発掘、振付師、そして経験からもたらされる真の知性と教養を持った人物へと成長した。

ジェイは野性的だ。分野を問わずクリエイティブに活動し、話すもの考えるのも速い。何かを実現したいときには猪突猛進で、さらにはコメディアンとしての一面や、ヒップホップに特化したタレントショー『Show Me The Money』ではジャッジを務める敏腕プロデューサーとしての一面も見せるなど、とにかく何をやらせても完璧な仕事をこなす。そんなマルチタレントの印象は、やはり彼の音楽にもっとも顕著に表れている。往年のR&Bへの愛が滲み出る「Joah」や「Solo」、そして最新シングルの「Drive」など、ジェイのロマンチックな一面が引き出されたトラックも魅力だが、「You Know」や「Aquaman」など思わせぶりで魅惑的なジェイも、2015年のヒップホップ・アルバム『Worldwide』やシングル「Mommae」で見せたBボーイのジェイも、甲乙つけがたい魅力がある。

アルバム『Worldwide』を発表した後、彼は一時的な休暇を経て、ソロ4作目となる『Everything You Wanted』を作り上げた。スムーズなR&Bに、聴くものの体を疼かせるような独特の声が重なるジェイお得意のサウンドが広がるアルバムだが、「Only One」や「Alone Tonight」などそれまでにジェイが見せたことのない内省的でダークな世界観のトラックも見られ、全19曲のこのアルバムは聴きごたえある力作となっている。『Everything You Wanted』の発売を控えたジェイは、すぐにファンや批評家たちが彼の最新作を論じはじめるであろうことも承知のはずだが、いたって平然としている。「電話で評判をスタッフに訊いたりはするだろうけど、明日はビデオの撮影だし、それまでに振り付けを覚えなきゃ」と彼はこともなげに話す。

作品のリリースで不安に襲われたりすることは?
アルバムのリリースで心配になったりはしたことないね。好評なところを想像したりはするけど、好評じゃなかったとしても、自分で気に入ってリリースしてるわけだからがっかりもしない。自分の作品に満足していれば、それいいんだ。作品を発表するたびにアーティストとして成長すること、そしてそれをリスナーに気づいてもらうことが大切だと思ってるよ。

Everything You Wanted』には「The Truth Is」や「Solo」「2nd Thots」「All I Wanna Do」「Me Like Yuh」そして「Aquaman」など、昔の曲も含まれていますね。どういった経緯でそれらをアルバムに含むに至ったのでしょうか?
シングルとして聴くのと、アルバム全体を聴くのでは違った響きを持つからだよ。アルバムの一部として機能するかどうかで判断したんだ。例えば「Solo」はこのアルバムにぴったりの曲だからね。今は、どの曲をアルバムに入れるかの権限は、俺にしかない。事務所もレーベルもないからね。だから俺が気に入った曲を入れられるんだ。

Worldwide』でヒップホップを打ち出した後、今回のアルバムではRBに回帰していますね。RBがやはりあなたの真髄なのでしょうか?
どうかな……音楽をはじめてまだ5年足らずで、アーティストとしても人間としても日々学んでいるんだ。去年は、「韓国語でもラップができる」「良いヒップホップのアルバムを作れる」と証明したいという衝動を強く感じていた。今年は、英語で音楽を作りたかったんだ。でもすでに完成していた韓国語のトラックがあったから、「どうしよう」かと——そこで思いついたのが、バイリンガル・アルバムだった。音楽ファンが好きなものと、俺が好きなものを探りながら作っているんだ。次のプロジェクトではまた全く違う世界観のものになると思うよ。次のアルバム制作に入るのが楽しみだね。

あなたは作品で対極のパーソナリティを打ち出していますが、どちらがより本当のあなたに近いのでしょうか?
普段は普通の男だよ。さっきShake Shackのバーガーを食べたから、これから腹筋100回やらなきゃ、とかね。でも、仕事ではつねに反抗的で、ひとに「これをやれ」って言われるとどうしてもその理由が理解できなくて——例えば、「なんでKポップでは"ファック"とか、いわゆる"汚い言葉"を使っちゃいけないんだ?」とか、「なんで際どい格好の女の子をビデオに出しちゃいけないんだ?」とか思ってしまう。「ただのビデオだぜ?」って。日常生活では普通だけど、社会で従来の考え方を押し付けられたりすると、そういう暗黙の了解みたいなものに反抗したくなる。

あなたが立ち上げたレーベルAOMGからは、Gray(グレイ)やLoco(ロコ)などのヒップホップ・アーティストたちが成功を収めていますが、新人を発掘するときは何を求めていますか?
全体的なものだね。音楽、彼らの興味関心や情熱、パフォーマンス、イメージ、そして人間としての資質まで、すべて。レーベルとして一緒に活動をしていくにあたって、長く続く関係を築くにはそういったすべてが重要になってくるからね。どれだけ才能溢れるラッパーでも、人間としてクズだったらそんなやつとは仕事をしたくないし、そいつもAOMG以外のレーベルをあたればいい。

クリエイティブな環境以外に、AOMGがアーティストに提供しているものは?
自由だね!レーベルが何をしたいかではなく、それぞれのアーティストが心に持っているものを作品にして世に送り出していきたいんだ。アーティストにはそれぞれヴィジョンがあって、心に描いてるものなんだ。音楽を作っていても、それが思い描いたものじゃないからという理由で辛い思いをしているアーティストはたくさんいる。うちのアーティストには成功してもらいたい。俺以上の成功を収めてもらえればと思ってる。良い条件の契約を用意してあげたいし、彼らの家族にもハッピーになってもらいたい。アーティストたちを金稼ぎの道具とは見ていない。俺にとっては兄弟愛のようなものなんだ。

SMTM』といったショーは、毎年「アンダーグラウンドのシーンをぶち壊した」「ヒップホップはエッジを失った」など、同じような議論を巻き起こしていますが、これに関してのあなたの意見を聞かせてください。
ヒップホップは飽和状態になりつつあって、音楽も退屈になりつつあるんだよね。これだけたくさんのラッパーとショーが生まれれば、狭い韓国の音楽業界だからアーティストたちは否が応でもお互いの影響を受けることになる。だからこそ、「この飽和状態に押し流されてしまわないよう、より良いものを」という気になるのも確かなんだ。常に新しい一面を見せることで、ひとびとが俺に飽きてしまわないようにしたりね。未来についてよく考えるよ。今はヒップホップがトレンドだけど、2年後にはまったく違うものが流行っているかもしれない。そうした時に俺みたいなやつはどうすればいいんだろう、ってね。数年で消えるようなアーティストにはなりたくないし、だからこそAOMGを成長させていきたいと考えてるんだ。韓国だけじゃなく、世界に目を向けた未来を考えてるよ。

シアトルに帰ったときの自分に、いま言葉をかけてあげられるとしたら?
難しい質問だね。後悔はない。良いことも悪いことも、すべてがあったから今の自分があるんだと考えて胃るからね。ひとつ変えられるとしたら、5歳のときに母の言いつけでピアノを習ってたんだけど、俺はそれが嫌いでね。辞めたいって言ったときのことを鮮明に覚えてるんだけど、母は「大きくなったときに後悔するわよ」って言ったんだ。「絶対後悔しない」って言い返したけど、今じゃ激しく後悔してる。ここまでずっとピアノを続けていたら、今ごろもっと良いアーティストになってただろうと思うとね。

今からでも遅くないのでは?
数年前にまた習おうとしたんだけど、全然集中できなかったんだ。ADHD(多動性障害)なのかな。いろんなことに気を取られちゃうんだ。

韓国音楽業界で過酷な現実を強いられるアーティストは少なくなく、多くは精神状態への影響も見られます。あなたもそこまでの精神状態になったことがあるのでしょうか?
いや、酒を飲んでやりすごすからね、俺は。MySpeceの一件があってから所属事務所の解雇に到るまで、実際にそんな現実が起こっていたときでさえも、「人生の次の段階へ進むきっかけなんだ」と考えるようにしてたんだ。「韓国での歌手生命が絶たれたとしても、人生が終わるわけじゃない」ってね。辛い時期になるのは目に見えてたけど、ポジティブであり続けた。それに、あんな経験をした後に何を恐れる必要がある?金にも名声にも未練はない。なくても生きていける。今は、やりたいことをやれるこの環境と、アーティストたちにチャンスを作ってあげられることをありがたく感じていて、それが生き甲斐になってるんだ。

常に人から"たかられる"というのは名声につきものですが、あなたはそれにどう対処していますか?
「知り合いにあいつの友達がいるよ」って言いたかったり、利用して金儲けにつなげたかったりね。でもGドラゴンやジャスティン・ビーバーに比べたら、俺の状況なんてまだまだ楽なもんだよ。文句が言えるような立場じゃないよね。でも文句を言っちゃうときもあるかな——「疲れてんだ」とかね。でも結局は、俺がやってることはすべて自分が決めたことだからね。誰のせいにもできない。チャンスに恵まれてきたと自覚してるし、多くのひとにきちんと生活をさせられるだけのお金を払えている、この状況を本当にありがたく思ってるんだ。

その理解が、あなたのひたむきさに繋がっているのでしょうか?
もちろんそうだね。そして俺にとってもっとも喜ばすのが難しいのは、ほかの誰でもない自分自身だからね。ほかの誰かが「ジェイ、お前が最高だ」なんて言ってくれても、俺は「いや、そんなことないだろ」って思う。ひたむきさを忘れたら、いつか人気に陰りが出始めたとき、行き場をなくす。

あなたは、歌詞に生活や人生の一部分だけを要素として使うのが好きだと発言していますが、完全な実体験を歌詞にすることは今後もないのでしょうか?
作品によるね。今はアーティストとして、自分を完全にさらけ出すのには抵抗があるんだ。自分に自信がなかったりもするし、秘密があることで、人間らしい生活を保っている面もあるんだよ。でも今後、アルバムを8枚9枚出した後は歌詞の題材も尽きちゃうかもしれないよね。その時は、「これが俺だ」ってすべてさらけ出すかもわからないよ。

Credits


Text Taylor Glasby
Translation Shinsuke Kuriyama at WORDSBERG Inc.