ジョエル・スターンフェルド:「80年代アメリカの貧困と富裕」

ジョエル・スターンフェルドの『American Prospects』が、15年の時を経てロンドンで改めて公開される。70年代から80年代にかけてのアメリカに富と貧困を捉え、シュールなコントラストを浮き彫りにする写真展だ。

by Felix Petty
|
07 February 2017, 3:08am

Kansas City, Kansas, May 1983

アメリカでは、国が危機や変化、困難のただ中にあるとき、写真家たちが広い国内を巡り、そこに広がる風景や出会う人々を写真に収める傾向がある。選挙が終わり、トランプが権力を持った今、アメリカは岐路に立たされている。いや、すでに道を選び、分岐点を通り過ぎた状態にあるといったほうが正確かもしれない。その暗い道の先に待ち受けている未来がどのようなものなのか、それが起こるのをただ待っている——それが今のアメリカなのかもしれない。こんな時には、過去を振り返ることで未来への歩の進め方を考えてみるのも面白いのかもしれない。

衝突の模様が初めて写真にドキュメントされた南北戦争や、不屈の精神で破産や貧困を生き抜く人々の姿をウォーカー・エヴァンスが力強くまっすぐに捉えた世界大恐慌のアメリカ——そしてその対極にある、ウィリアム・エッグルストンの捉えたシュールで豊かなアメリカの日常や、ロバート・フランクが全土を旅してほとんど社会学的ともいえる手法で記録し、アウトサイダーの視点から見たアメリカを映し出した世界観など、アメリカには実に多様な面がある。また、21世紀に入ってからは、現実世界から遠く離れた場所で自由を見つけ、自然に戯れる被写体を捉えるライアン・マッギンレーも登場した。ジョエル・スターンフェルドが10余年の歳月をかけて完成させたシリーズ『American Prospects』はそうしたすべてを持ち合わせている。

Look: 現代アメリカの肖像

Agoura, California, February 1988  

1978年、スターンフェルドは、ロバート・フランクがそうしたように、全土を縦断してアメリカを捉えようと旅に出た。しかし、彼のヴィジョンは独特だ。彼が大判カメラを用いて撮った写真は、ディテールと、やわらかく活き活きとした色彩、そしてドラマチックな構図に溢れている。それらの写真は広大な草原や山脈、郊外や都市を写した風景写真だが、しかし並列することによってそれらはアメリカの肖像となる。現在の政治情勢にあって、これは改めて見る価値のあるポートレイト作品だ。

スターンフェルドが見つけたアメリカには、新しい世界と古い世界のあいだに葛藤し、富と貧困のあいだで暴力的なまでに揺れる社会が浮かび上がる。変化する世界を生き、時に失意におちいる社会をそこに捉えているのだ。スターンフェルドのアメリカは、脱工業化によって生まれた貧困のアメリカであり、集中化した富のアメリカであり、隔離された田舎のアメリカであり、郊外という理想のアメリカだ。そこに写る人々が中心的存在として写されていることは少ない。しかし、構図として絶妙な役割を果たしているだけのように見えて、実はそれらの人々こそが逆説的にスターンフェルド写真の感情的な核をなしている。

USS Alabama, Mobile, Alabama, September 1980 

そこには、ロバート・フランクが残したようなストリート・スナップ写真はない。しかし、そこに写るアメリカの建造物や風景、住人たちが、アメリカという国の体現するショッキングな対比をドラマチックに浮き彫りにする。富裕層と貧困層、無味無臭なフェイクさ、そして粗野な現実——巧みな細工に滲み出てしまう本質。

スターンフェルドの写真は、不確かな未来を前にして揺れるアメリカの姿を捉えている。壊れゆき、衰退し、燃え尽きようとしているアメリカの隣に、新品同然手入れの行き届いた新しいアメリカが並べられているのだ。その混ざり合い方もまた、アメリカの不平等を浮き彫りにしている。

Wet 'n Wild Aquatic Theme Park, Orlando, Florida, September 1980  

『American Prospects』は、フォトジャーナリズムやレポートの生真面目な記録ではない。平坦でデヴィッド・リンチ的な色彩は、残酷な現実をソフトに見せる一方で、見る者を不安で落ち着かない気分にさせる。スターンフェルドがそこに捉えたアメリカには、どこかシュールレアルさがある。そんな要素が共存することで、スターンフェルドの写真には力が生まれている。

1枚の写真には、静かな車道に真新しいフェラーリがとまり、その横にアフガンハウンド、そのまた向こうに紫色の花が敷き詰められたような芝生の丘が見られる。もうひとつの作品では、荒廃した工業地帯が雪に覆われている。キャンプ場に暮らす若いホームレスの男を捉えた写真の隣には、アラバマ州の港に停泊している巨大な戦艦の横で釣りをしている男を捉えた写真が展示されている。そして、水辺の公園でレジャーを楽しむアメリカ人たちが捉えられた写真の隣には、緑色の古い車のボンネットにジャーニーのバンドTを着て座るティーンを捉えた典型的な80s調の写真が掲げられている。

Exhausted Renegade Elephant, Woodland, Washington, June 1979  

スターンフェルドのもっとも有名な作品は、おそらく彼が撮った中でももっともシュールな作品だろう。『Exhausted Renegade Elephant』は、スターンフェルド作品のシュールさを存分に発揮している(「疲れ切った裏切り者の象」というこのタイトルを超える案が他にあるだろうか)。ワシントン州のとある田舎道で水攻めに遭い倒れている象を、近所の地元民や警察官が取り囲んでいる写真だ。この写真は、信条というものを問う作品だ。また、スターンフェルド作品としてももうひとつ有名なのが、カボチャの直売店の写真。道の駅のような直売店の外に打ち砕かれたカボチャが散乱し、その向こうに火事の家が見える。目を凝らすと、そこには直売店でカボチャを物色している消防隊員が写っている。

アメリカとは、なんと変わった場所なのだろうか。

『Joel Sternfeld, Color Photographs 1977 -1988』は、ロンドンのギャラリーBeetles + Huxleyにて2月18日まで展示。

McLean, Virginia, December 1978 

Rustic Canyon, Santa Monica, California, May 1979 

Red Rock State Campground (Boy), Gallup, New Mexico, September 1982 

Grafton, West Virginia, February, 1983 

Ketchum, Idaho, October 1980 

Credits


Text Felix Petty
Photography © Joel Sternfeld, courtesy Luhring Augustine and Beetles + Huxley
Translation Shinsuke Kuriyama at WORDSBERG Inc.

Tagged:
photo-journalism
Joel Sternfeld
beetles + huxley
american prospects