Advertisement

コスチューム・デザイナーが語る『侍女の物語』の衣装

背筋がゾクッとするような鋭い予見性に満ちた、マーガレット・アトウッドによる1985年の小説『侍女の物語』。その新たな映像化にあたり衣装デザインを担当したアン・クラブツリーは、ミソジニストの独裁者の思考回路で発想することを自分に課した。けれど女性たちの衣装には、連帯の意味を込め、かすかなジョークを滑り込ませたと言う。

by Alice Newell-Hanson; translated by Atsuko Nishiyama
|
27 February 2018, 11:02am

ane crabtree. image courtesy of hulu

ロサンゼルスを拠点とする衣装デザイナー、アン・クラブツリーは2017年3月21日にテキサス州上院議会で起きていることを目撃して、1時間ほど涙を止められなかった。女性のアクティビストたちのグループが沈黙のまま座り込んでいる。各地で成立しつつある中絶規制法案に対して、視覚に強烈に訴える抗議行動を展開したのだ。彼女たちはツイッター上でクラブツリーに相談を持ちかけ、その後『侍女の物語』のキャラクターたちが身につけるフード付きの赤いローブを、自分たちのバージョンにアレンジして着用した。1985年に発表されたマーガレット・アトウッドによるこの小説の世界は現在、驚異的なまでにリアリティを増してきている。クラブツリーは、Huluで製作・配信される『侍女の物語』のドラマの衣装デザインを担当しているのだ。

アトウッドはこれまで常に『侍女の物語』はサイエンス・フィクションではなく、スペキュレティブ(推測的・思索的な)・フィクションだと強調してきた。つまり、そこで描かれる原理主義的体制のアメリカは存在しうるということだ。Huluのドラマ版は、トランプ政権発足の約3ヶ月後から配信が始まった。中絶権を擁護する法や組織が存続の危機にさらされつつある現政権下で、小説に書かれた世界はこれまでになく痛烈に響く。『侍女の物語』の書籍の売り上げは、2016年11月の大統領選以降、200パーセントも跳ね上がった。

原作に忠実に、かつ鋭く同時代性を盛り込んだ全10話のドラマシリーズは、〈侍女〉としての任務を果たしていく主人公オブフレッド(エリザベス・モス)の姿を追う。侍女とは、不毛の地と化しつつある近未来のニューイングランドで、子どもを産むためにエリート家庭に派遣される繁殖力のある女性。神権政治の敷かれたギレアデ共和国で、衣服は社会階層の差異を示す印となる。例えば、侍女は赤を、男性の司令官は黒を、身分の高い妻たちは水色を身につけていることが、アトウッドによる原作の中で指定されている。衣服は限界まで厳しく統制され、体系化されている。クラブツリーが言うように、「その土地のすべての細部にまで、何か意味がある」

クラブツリーによると、今回のドラマ化にあたり彼女がすべきなのは、物語の中で起きる出来事に、心から信じられるようなリアリティを持たせること。「こうだったかもしれない」という説得力のある現実を新しく作り出すことには慣れている彼女(『ウエストワールド』でも衣装デザインを担当)だが、『侍女の物語』はまた全く違う挑戦のようだ。「とても影響力のある作品になることはわかっていたから」と彼女は語る。

——マーガレット・アトウッドはこのドラマのコンサルティング・プロデューサーでもありますね。衣装について、彼女と話し合いましたか?
実は、彼女に衣装のことは相談したくなかったんです。でも控室では一緒にすごくいい時間を過ごしました。というのも、彼女は第1話にカメオ出演しているので。〈赤いセンター(侍女たちが徴集される場所)〉の〈小母〉のひとりの役です。原作の中には、侍女たちのケープと〈翼〉について細かく説明された箇所があったので、かなりメモは取りました。ただ、私が独自に考える余裕と信頼も与えられていました。製作総指揮のブルース・ミラーに「コスチューム・ドラマを作るのはやめよう」と言われて、それがすごく嬉しかった。私もそういうものをやりたいとは思っていなかったので。いま現在、リアルに感じられるものを作らなければ、と思っていました。
最初は、翼(侍女たちの頭を覆う布)さえも止めようかと考えていました。信ぴょう性を持たせるのが難しいのではないかと思って。けれど、結局はマーガレットの書いたオリジナルに立ち帰り続けました。私たちはマーガレットが書いたことに敬意を払いつつ、劇中の社会ではそれが新たな「普通」になっていると視聴者に信じてもらえるような衣装にしたかったんです。

——マーガレットは何を着たんですか? 〈小母〉たちの衣装はどうやって決めましたか?
壁にカラーチャートを貼って、いつも参照していました。司令官は黒づくめです。侍女たちを統制する〈保護者〉がいて、その隣に並ぶのが〈小母〉たち。私は〈小母〉たちにミリタリーカラーを着せたいと初めから思っていました。妻たち(水色)や侍女たち(赤)と区別できるように。でも同時に、アースカラーであることも重要でした。特に、第一次世界大戦中の軍服に使われたような色。ヒトラーのことも考えました。マーガレット・アトウッドは以前、ギレアデ共和国とヒトラーのドイツはパラレルだ、と言及していました。憎悪すべき存在ですが、この作品のインスピレーションでもあります。彼には芸術分野のバックグラウンドがあって、美術を学んでいました。けれど、人を描くのは上手くなかった。私はこの話を参照して、劇中の世界を作り出した司令官のキャラクターにヒトラーの要素を入れようと思いました。この世界のすべては彼が決めたこと、色別に分けた制服も彼の考えたものです。だから私は彼をミューズに、衣装を作りだしていきました。
〈小母〉たちの衣装をデザインしているとき、服の内側に鞭をしまっておく小さなポケットも隠しました。彼女たちはそれをシュッと取り出し、侍女たちを恐れさせることができます。その他にもたくさんの小さな秘密を加えて、女優たちがちゃんと衣装を使えるようにしました。ただ形のないケープだけの世界を作るのは嫌だったんです。

——侍女たちのケープはフーディー(フード付きのパーカー)を思わせますね。私はそのおかげで、彼女たちの服装にリアリティを感じました。
フーディーはいまや政治的な意思を表明するものでもあります。トレイボン・マーティン事件以降は、特にそう(訳注:2012年2月、フロリダ州サンフォードでアフリカン・アメリカンの少年トレイボン・マーティンが、ヒスパニック系と白人の混血で自警団員のジョージ・ジマーマンに射殺された事件。十分な取り調べや逮捕もなく正当防衛として処理されたことから警察による判断が人種差別的であると抗議の声が上がり、全米に広がった。その際、事件当時マーティンが着用していたフーディーを身につけることが抗議の象徴となった)。フードそのものがとてもドラマチックでもあります。小説を映画化した作品(『フランス軍中尉の女』)の中で、フードを被ったメリル・ストリープがカメラに向かって振り向くシーンがあります。あのドラマチックな雰囲気が欲しかったんです。フーディーは現代的なスポーツウェアでもあり、スター・ウォーズ的な、未来の遊牧民を思わせる服装でもあります。フードは周囲の人間を遮断することもでき、顔を縁取ったり、雨から守ってくれる役目も果たす。デザインとして優れているので、衣装としてもリアルに感じられると思います。

——侍女たちの履いている茶色の分厚いストッキングについても聞きたかったんです。作品中で目に入るのはたった数秒ですが、強く印象に残ったので……。
気に入りましたか? それとも嫌い?

——いかにも体制側が侍女たちに着させるであろう、機能的で、意図的に性的な要素を排除した下着、というふうに見えました。
あのひどい茶色のストッキングね。すごく気に障るアイテム。最初、私たちは「侍女たちは頭からつま先まで赤を着なければ」と言っていました。でもそれだと、いかにも衣装、という感じになってしまう。私が持っているすごく古いブーツで、スパット(靴にかぶせる覆い)がついているタイプの物があって、ミリタリーっぽくもあるし、ユニセックスでもある。それで「これをやってみたらどうかな?」と思いました。女性たちは〈赤いセンター〉に到着した途端に、ブーツの靴紐を引き抜かれてしまいます。首吊り自殺などに使わないように。監獄と同じです。スパットやブーツカバーを身につけなくてはいけないのはもっと悪い状況でしょう。女性たちは、捕らえられるや否や、いかなる自由も剥奪される。本当に過酷です。首を吊るために靴紐を使えるかもしれない、と考えることさえ許されない。私たちは靴下を醜い茶色にすることに決めました。あの色を出すために、何度も染めて染めて……。どんな肌の色にも似合わない色、それがポイントです。

——アーミッシュのドレスもインスピレーションのひとつだと言っていましたね。私はこの衣装から、ピューリタンやアメリカに移住した最初の世代の人々のことも連想しました。
すべて正解です。私はリサーチにはかなり貪欲。いちばん好きな作業です。自分の周りをイメージで取り囲むのですが、これはチーム全体の助けにもなります。壁には1900年代から1990年代までのいろいろな画像を貼りました。各年代のいちばん初めに、いちばん無駄のない、純粋なラインが見られるんです。それから、デンマークのあるカルト集団についてもリサーチしました。アトウッドの原作にあるような男女のドレスコードを想起させられて。映画の衣装もいくつか参照しました。ブルース・ミラーはケーリー・グラントが好きなので、司令官の服装にはケーリー・グラント的な要素を取り入れたんです。マックス・ミンゲラが演じたニックというキャラクターは運転手で、コンパクトなジャケットを着ています。少しだけミリタリー的に見えるアイテムですが、『波止場』のマーロン・ブランドのスチルが元になっています。それだけではなくて、Yohji YamamotoやCOMME des GARÇONSへのオマージュも少し。デザイナーたちによる制服の要素の取り入れ方を参考にしました。あとは初期のPradaもそうですね。それから、宗教色の濃い文化の中で女性が肌を覆う服装にも注目しました。日本の海女さんたちが頭にかぶっているものまで調べたんですよ。

——画面上に現れていない、お気に入りのディテールなどはありますか?
すぐに思い浮かぶものが3つあります。私は沖縄系なので、衣装の中に密かにその要素を入れたいと思っていました。司令官の軍服は、アメリカの軍隊に似たものにはしたくなかった。ギレアデ共和国の軍隊の制服だからです。それで、神道的なルーツを持つ縄の縁取りを入れました。マシュー・バーニーからの影響もありますね。
それから、私は制作中、なぜか毎日夜中の3時33分に目が覚めていました。それで、すべての衣装に数字の3を忍ばせることにしました。私以外の誰も気づかないようなものです。

男性が女性を抑圧するためにデザインされた衣装を作っていて、とても気分が落ち込んでしまうこともありました。なんとかそれに打ち勝つ方法は、女性たちのために視覚的なジョークや、「ファックユー」という態度を織り込むことでした。〈小母〉たちのジャケットとワンピースの組み合わせは、実は逆さにしたヴァギナのように見えるんです。彼女たちが下を向いたときだけ。いつもその角度から〈小母〉たちに接する侍女たちの視点からは、そう見える。他の人も気づくかはわかりませんが、私にとってはそうなんです。14歳のとき、誰かが私にジュディ・シカゴのインスタレーション『ザ・ディナー・パーティー』のことを教えてくれました。彼女はお皿の上に、女性器をほのめかすような形状の作品を置いていた。私はそれを衣装に取り入れてみたんです。

——『ウエストワールド』の衣装をデザインしたときも、やはり男性デザイナーの思考回路に自分を置いてやってみた、ということでしょうか?
そうです。男性としてデザインしました。その男性というのはアンソニー・ホプキンスが演じたキャラクターのロバート・フォード博士。面白いですよ。『侍女の物語』では、私は自分の中の教会のルーツを使いました。私の家族はバプティスト派ではありませんでしたが、子供の頃はミサの侍者(補佐役)をしていました。儀式が好きだったんです。それで、宗教的なリーダーの立場に立って、ちょっと考えてみようと思って。エゴが大きすぎるあまり、既存のものをすべてぶち壊し、まったく新しい世界を作ろうとする。どんな種類の頭脳の持ち主がそんなことをするのかと考えると、創造的な人間には違いないですよね。考え方自体はいかにめちゃくちゃなひどいものであったとしても。
衣装デザインをするときには、そんな人間の頭に入り込む必要がありました。「この女たちには魅かれたくない」「自分より大きな力を持たせてなるものか」「山の頂に立って見下ろし、自分に従う種族たちを眺めたい」などと考える、全体主義的なミソジニストの見方をしなければいけませんでした。そこからの唯一の逃げ道は、抑圧される側にわずかな自由を与えることだけだったんです。

'The Handmaid's Tale' will be available to stream on Hulu on April 26.

Credits


Text Alice Newell-Hanson
Images courtesy of Hulu

This article originally appeared on i-D US.

Tagged:
Margaret Atwood
Television
Alice Newell-Hanson
handmaid's tale
ane crabtree