スタジオジブリが世界に愛される理由

勇敢な女性キャラクター、奇妙で素晴らしい森の精霊たち。次回作『レッドタートル』の公開前にスタジオジブリ作品の魅力を振り返る。

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maj 6 2016, 6:00pm

2014年、宮崎駿監督が引退を表明した時、スタジオジブリに未来はないと囁かれた。しかし、その11日後、ジブリ最後の作品かと思われた『思い出のマーニー』が公開された。イギリスでも6月10日からの公開が決まっている。さらに、オランダの映画監督、マイケル・デュドク・ドゥ・ヴィット(Michael Dodok de Wit)がスタジオジブリの共同創始者である高畑勲をアーティスティックプロデューサーとして迎えて、新作アニメ作品を製作しているとも発表された。『The Red Turtle(レッドタートル ある島の物語)』と題されたこの映画はカンヌ国際映画祭でプレミア上映される予定で、デュドク・ドゥ・ヴィット監督はジブリと正式に提携関係を結ぶとも発表された。ジブリに未来はあったのだ。彼らは30年にわたって数々の名作を生み出してきたが、『千と千尋の神隠し』(2003)は世界で3億ドルの興行収入を記録し、同年の米アカデミー賞長編アニメーション映画賞を受賞、日本映画として最も大きな成功を収めた作品となった。『もののけ姫』(1997)は、『タイタニック』がその記録を破るまでの間、日本の映画史において最も成功した作品として君臨していた。最も興行収入をあげた日本映画トップ15のうち、8本がジブリ作品であることに加え、『思い出のマーニー』や『レッドタートル』公開にまつわる現在の世界の歓迎ぶりを考えると、世界のジブリ人気はいまだ健在だ。しかし、ジブリの何がそこまでオリジナルで、世界中の人々に訴えかけるのだろうか?

まず多くのジブリ作品に共通して見られるのが、女性主人公だ。ハリウッドの大手アニメーションスタジオが今も抜け出せずにいる、時代遅れのステレオタイプからは大きくかけ離れている。『もののけ姫』は、無防備な乙女を描くのではなく、"何かに依存しなければ生きていけないプリンセス"を描いている点でユニークだ。"山犬の姫"のサンは、自分が育った森を破壊から守るために人間と戦う野生のヒロインだ。山犬に育てられたサンは、短気で攻撃的で、活発的だが、複雑な心理構造や慈悲の心も垣間見ることができる、アニメ史上でも際立ったキャラクターのひとりである。エボシ御前もまた複雑な人物だ。彼女は典型的な悪役の要素をすべてもつ一方で、人身売買から地元女性たちを救い、ハンセン病患者たちをかくまうなどの一面も見せる。

より明白に女性をたたえた作品もある。『おもひでぽろぽろ』(1991)の主人公は、東京に暮らす若い独身のタエ子。家族から絶えず勧められるお見合いに辟易したタエ子は、それを断って、自分らしく生きるのだと心に決める。これらジブリ作品に登場する女性キャラクターたちは、社会で暗黙のうちに求められるジェンダーの役割を打ち破ってもいる。専業主婦を描くのではなく、スタジオジブリは複雑な女性の構造や男勝りな面を描き、女性主人公を作り出すのだ。『紅の豚』(1992)のフィオは、飛行機の設計士を祖父に持ち、その家業を継いだ17歳の女の子だが、当然のように彼女はその年齢とジェンダーを理由に周囲から訝しがられる。しかし彼女は周囲からの尊敬を集め、次第に能力も認められるようになる。興味深いことに、フィオの色恋沙汰はいっさい描かれない。これは映画業界の常識を覆す女性の描き方だ。ディズニーが甘ったるく描くヒロイン像を見慣れてしまっている私たちに、スタジオジブリ作品は解毒作用をもたらしてくれる—それがジブリ人気の理由のひとつなのかもしれない。ジブリは私たちに、才能も中身もある女性の理想的なロールモデルを描いて見せてくれているのだ。

ファンタジー性もジブリ作品の魅力として見逃せない。大きな成功を収めているジブリ作品はどれも奇想天外で、登場するキャラクターも悪霊から欲深い老人、魔法使いの小人、仏教カルトまでと幅広い。神話や精神世界をちらつかせつつも、道徳的なメッセージが人間味あふれるタッチで伝わるのがジブリ作品だ。例えば『もののけ姫』は、人類による環境資源破壊を浮き彫りにする物語で、また『千と千尋の神隠し』が実は児童買春をテーマとした作品なのではないかという説もインターネット上では議論されている。お決まりのラブストーリーや安っぽいロマンチックコメディに溢れるアニメーション映画業界にあって、スタジオジブリが作り出す独特の世界観は、アニメにも深いテーマと考察を求める世界の映画ファンからも共鳴を得ている。子供を対象にしているからと軽んじられがちなアニメーション−−子供を主人公にしたジブリ作品は海外のファンたちからは「キュートすぎる」と失望されることもあるが、それら作品もまた、実際には反戦や環境テロなどの問題を扱うものも多い。感動作『魔女の宅急便』(1989)は、黒猫ジジをしたがえ、生まれ持った能力を開花させるべく苦悩する若い魔女の成長を描いている。主人公のキキは年老いたパン屋のオーナーと出会い、空を飛ぶ能力を生かして宅配サービスを始め、成功を収めるが、空を飛ぶ能力を失ってしまう。作風こそ軽快だが、キキが悩みから深い抑うつ状態へと落ち込む姿も描かれている。『魔女の宅急便』は、アニメーション映画史で初めて思春期と精神疾患の関係を描いた作品と言えるだろう。

アニメ映画業界がいまだに一部の特別な観客を対象としていると考える人々が少なくないなか、スタジオジブリは、作り方次第でアニメ映画は世界中の人々に感動を与えることができる媒体になりうることを証明している。ジブリの成功が、創始者である高畑勲と宮崎駿の先進的な世界観によるところが大きいのは間違いないだろう。一筋縄ではいかない女性心理構造の奥深さを描く彼らの作品は、女性という性を典型でしか描かない映画業界において突出している。ジブリのヒロインたちは多様性に富み、それぞれが力強い。時に絶望し、身内からのプレッシャーや社会の偏見に苦しみながらも、ジブリの女性たちはそれぞれのやり方でその苦難を克服していく。作品に込められた道徳的メッセージに導かれるようにして、私たちは何度も観返し、そこでメンタルヘルスや平和主義、人間の強欲が環境に与える影響など、現代社会が抱える問題について考えさせられるのだ。『レッドタートル』は単なる共作かもしれないが、公開を前にした世界中の熱狂は、スタジオジブリが世に残してきたものの重要性を示している。宮崎駿が去った後のジブリは二度と昔のような栄光を得ることがないだろうという見方は、間違いではないのかもしれない。しかし、今後もジブリが世界的ヒット作を生み続けるであろうことも、また間違いないだろう。

Credits


Text Jacob Hall
Translation Shinsuke Kuriyama at WORDSBERG Inc.