Photography Mitchell Sams:

創造的なレジスタンスで世界に火を放つ:リック・オウエンス 19SS

すべてを焼き尽くせ。

by Steve Salter; translated by Nozomi Otaki
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09 October 2018, 11:13am

Photography Mitchell Sams:

Rick Owens2019年春夏コレクションのショー会場となったパレ・ド・トーキョーでは、噴水は水を抜かれ、薪が組み上げられていた。リックが再解釈したタトリン・タワーだ。サバイバルウェアに身を包んだ力強い女性たちが周りを取り囲むと、タワーは炎に包まれた。今年6月に披露されたメンズライン同様、〈バベル〉と題された本コレクションは、聖書から着想を得ている。しかし、クリスティン・ブラジー・フォード教授とブレット・カバノー氏が上院司法委員会公聴会で証言台に立った、まさにその日に開催されたこのショーは、〈This Is Fine〉ミーム(炎のなかで犬が「This is Fine(大丈夫)」と自分に言い聞かせるK・C・グリーンのコミックが元ネタ)を詩的に表現したように思えて仕方がない。この世界では、すでにあらゆる場所が炎に包まれている。お茶をすする犬とは違い、リック・オウエンスは「この世界は大丈夫じゃない」と声を上げた。このコレクションは、彼の怒りが打ち鳴らす警鐘なのだ。

リック・オーエンスがつくりあげたのは、単なるファッションブランドではなく、部族、家族、ひとつの世界だ。その世界の住民は変幻自在で、私たちの空想のもっとも暗い片隅に身を潜める、現世を超越した空想家だ。聖書や歴史的なモチーフ、社会政治問題が散りばめられた本コレクションは、衣服を超え、今の世界をひも解く視点を示している。一瞬たりとも見逃せないだけでなく、破壊、抵抗、力強さ、創造力を体感できるショーだった。

リック自身、カバノー氏とフォード教授の公聴会とショーが重なるとは思いもしなかっただろうが、この世界には、現在、まるでスローモーションの衝突事故のように、目を逸らせない出来事が溢れている。トランプ大統領、英国のEU離脱、プーチン大統領、ミャンマーなど、私たちの怒りは尽きることがない。ありがたいことに、リックは、どのデザイナーよりも見事に怒りを表現してみせた。ショーの観客は、メスカル(メキシコの蒸留酒)のミニボトル、ペットボトルの水、サンバイザー、見方によってはファイアーファンにも尻叩き棒にもなるモノなど、現代を生き抜くための必需品が入ったトートバッグを受け取り、世界が炎に包まれるのを見守った。

リックはバベルの塔の逸話を、希望、野心、絶望、破滅、崩壊が繰り返される物語として解釈した。彼はそこに自身の歴史と世界の歴史の両方を見出したのだ。私は今、野心と絶望のはざまにいる。これを読んでいるあなたは、このサイクルのどこにいるのだろう? 天に手を伸ばした人間の傲慢さに怒った神が塔を崩壊させたように、リックはタワーを燃え上がらせ、むき出しの木材で組み立てられたユートピアの白昼夢のなかで、混乱と構造、混沌と構成主義の対比を表現した。コレクションの内容は立体的なスポーツウェアから、原型をとどめていない日常的なアイテムへと移り変わっていき、ブランドを象徴するつぎはぎのアイテム、現実離れしたかたち、幾何学的なボディスのようなピース、シルクのフリンジつきのミニドレスがランウェイを飾った。

このコレクションをかたちづくる意識がもっとも強く表れているのは、足場のようなヘッドピースと炎が演出する、カッティングの施された鎧のようなルックだ。薄汚れた国旗からつくったようなピース、ねじれたデニムのショートパンツなど、アメリカンドリームの象徴を巧みに用いたアイテムも、不穏な雰囲気を醸し出していた。不正、失望、怒りが服として具現化していたのだ。

力強いフィナーレのあと、ひとりの抗議者が会場の片隅で立ち上がり、腹に殴り書きされた「trans activism is misogyny(トランスジェンダーの人権運動はミソジニーだ)」というメッセージを見せ、退場させられた。私たちが知る限りでは、今回の女性は殴られていない。この出来事は、さらに追い討ちをかけるかのように、私たちの怒りは決して尽きないということを気づかせてくれた。私たちを暗闇から連れ出そうとしているのか、ただすべてを焼き尽くしたいだけなのか、リックの正確な意図はわからないが、どんな人でも受け入れてもらえるパワフルな〈リック・オウエンス・トライブ〉に、私たちも加わろう。絶望、破滅、崩壊のあとには希望が待っている。ありがとう、リック・オウエンス。

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This article originally appeared on i-D UK.

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