OFF-WHITE™ Photography Flo Kohl

ユートピアを夢想したとして: PFW MENS 20SS

MENS 20SSには様々な自然へのトリビュートがあった。〈FUMITO GANRYU〉や〈Phipps〉のランドスケープにオマージュを捧げたプリント。ヴァージル・アブローが〈OFF-WHITE™〉で創り出したカーネーションの群生。これは白昼夢? それとも現実的な近い未来? その答えは自分の想像力の中に。

by Tatsuya Yamaguchi; photos by Flo Kohl, and Kira Bunse
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07 August 2019, 9:11am

OFF-WHITE™ Photography Flo Kohl

フェティッシュなラテックス素材とコットンや麻の天然素材をミックスした独特なテクスチャを表現した〈Arthur Avellano〉や〈Eytys〉のランウェイに現れたモデルの頬には、日焼け跡のような赤いチークがかけられていた。太陽の光を浴びた生き生きとした健康的な人物像と同時に、人体を襲う異常な熱射への危惧をうっすらと感じとってしまうのは、この時、パリを襲っていた酷暑のせいだ。

6月中旬、あらゆるマスメディアは、各国の気象当局が気温上昇の警告を呼びかけた。南仏では45.7℃の過去最高気温を記録。ヨーロッパ地域に限らず、無策にこの夏を過ごしてしまうことは、命に関わる事態と同じことを意味していた。

温暖化による環境破壊や食糧危機、直接的な人体への影響……。パリにいて、グレタ・トゥーンべリが伝えんとしている気候変動問題がいかに深刻か、身にしみて突きつけられた人は少なくない。多くのデザイナーの心中にそれぞれの視点から地球の未来が描かれるなか、今季のコレクションが私たちに語りかけてくるものとは何だったのだろうか?

例えば、果実を連想させるパステルカラーやバイオレッドオレンジ、大地や大空を思わせるアースカラー。熱帯地域に自生する植物にトロピカルな柄、ありのままの自然風景をとらえた写実的なランドスケープ(光景)のプリントや刺繍。そう、共通言語としてのサマームードがたしかに数多くのブランドのコレクションに散在していた。〈Hed Mayner〉にいたっては、ナチュラルファブリックやタイダイ染めに覆われ、ヘッドピースには藁を携えていた。

凛然とした大自然とは対極にある、監視社会化が加速するネット社会では、悪性の失言は許されず、文化の盗用や表現のパクリが瞬く間に指摘される時代だ。6月の香港のデモ参加者の中には、監視や追跡などを逃れるため大手SNSの使用を徹底的に控え、自動消去機能がついたTelegramなどのメッセージアプリを使っているという話も聴いた。

クリエーションに直結するこうした環境もまた、現実的かつ前向きな議論が求められているのは間違いないのだけれど、もしあなたがそのような状況にいささかストレスを感じているとしたら、〈Loewe〉の「白昼夢のような情景」に心を委ねてみたり、〈Jacquemus〉のラベンダー畑——皮肉なことに世界有数のインスタ映えスポット——で個性を取り戻すなんてことも最高なひと時になるだろう。

“21世紀にふさわしい服”を思索する〈FUMITO GANRYU〉が“自然風景にエスケープ”することを選んだように、硬直した人為的な環境から肉体的・精神的なものへの逃避というアイデアは、おそらく、現代人にとってもっともラグジュアリーなことのひとつだ。

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Fumito Ganryu Spring / Summer 2020 Photography Kira Bunse
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Fumito Ganryu Spring / Summer 2020 Photography Kira Bunse
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Fumito Ganryu Spring / Summer 2020 Photography Kira Bunse

森林、空、海、あるいは宇宙といったランドスケープが、着物スリーブのビッグコートやシャツといったアップデートし続けるシグネチャーアイテムにプリントされていた。トップスには空、ボトムスには水面の波紋。人の眼に映る現実、もしくは、望むべき世界の光景に見立てたセットアップを見ていると、失われつつある自然に丸龍文人自身の関心が向かっているのは明白だった。

より良い未来のあり方を考えることは急務なのだ。業界の垣根などはとうに超えて、サスティナブルな社会を志向することを切望され、社会的変化の先に訪れる未来の生活感覚を示すようなクリエーションはもちろん歓迎される。リサイクル技術を応用するブランドにも枚挙にいとまがない。〈LVMHプライズ〉のショートリストに名を連ねる新鋭の〈Phipps〉は、自然や宇宙をモチーフにしたグラフィックを、プラスチックからリサイクルした独創的なサスティナブル・ファブリックにのせている。すべては必然なのだ。

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OFF-WHITE™ Spring Mens 2020 Photography Flo Kohl

〈OFF-WHITE™〉のランウェイには、小鳥のさえずりや虫の声が響く中、純白のカーネーションの生け花が敷き詰められ、その中にコラボレーターである〈Futura〉のトレードマーク、“ポイントマン”のオブジェが鎮座していた。スプレーペイントによるオーガンザのドレスやコート、スパンコール付きのタイダイ柄、パッチワークされたデカダンなニット、ジャケットスタイルに防菌服とも見て取れるルックが登場し、タイトルは“plastic”だった。環境汚染物質の代表格とされながら、リサイクル技術の進歩によって素材としての価値転換を迎えているものでもある。

水質汚染問題と人々のライフスタイルの関係を建築分野からアプローチ(+POOL)したり、〈OFF-WHITE™〉の店舗やカニエ・ウェストの舞台を手がけたことでも知られる建築家のドン・ピン・ウォン。今年1月、南アフリカで行われたデザイン・カンファレンスで、彼がヴァージル・アブローに15分間のスカイプインタビューをしながら「ネイチャー・シティ」と名付けた未来都市のスケッチを即席で描いたのは記憶に新しい。そこには、超高層摩天楼の間に、犬を散歩するための森林公園や風力発電プラントなどが張り巡らされていた。

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A store for Off-White that gives a jungle back to Hong Kong. via http://familynewyork.com

人々の暮らし、技術的進歩の最大限の活用、そして自然の共生なくして彼らの未来的ビジョンはありえないのだ。ファッションのあるべき姿のひとつは、まだ見ぬ新しい風景、言うなればユートピアを夢想した先にあるのかもしれない。

アイロニカルな自然賛歌。悲観して肩を落とすのではなく、ポジティブなマインドで未来を夢想し、実現していきたい。そんなアティチュードが、今季のパリに脈々と流れていたような気がしてならない。


Credits

Photography Flo Kohl, Kira Bunse
Text Tatsuya Yamaguchi

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