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      culture Sharon Thiruchelvam 23 August, 2016

      グライムと土着文化の衝突

      現代のカルチャーを通して未来の伝統を予感させるショートフィルムが完成した。

      グライムと土着文化の衝突 グライムと土着文化の衝突 グライムと土着文化の衝突

      映像作家のクリス・リード(Chris Read)と、彼の友人でありフォトグラファーであるジェイムズ・ピアソン・ハウズ(James Pearson Howes)。彼らは2014年、イギリス国内の美術館運営や美術関連事業を行っているテート(Tate)からの依頼を受け、テートが同年に開催したショー『British Folk Art』のため、イギリス各地のフォークロア(古くから伝わる風習・伝承)に関するドキュメンタリー映画を制作した。できあがった幻想的なショートフィルムは、行列をなす狩りから彫像を燃やす儀式まで、イギリス全土で撮影された映像を集め、土着のフォークロアがいまだに反社会的、超現実的なかたちで残っていることを明らかにした。そして、最新プロジェクトである『Silence Is Broken』のなかで彼らは、現代の民俗性を仮想の未来的儀式として見事に描いてみせた。

      Silence Is Broken』は、無骨で原初的な雰囲気がただよう沿岸から始まり、その場所で終焉をむかえる。草原に風が吹きぬけ、太平洋の波が寄せては返すなか、黒装束に身を包んだ様々な人種の男たちが顔を黒くペイントして木製の御輿を運ぶ。異彩を放つグライムアーティスト、トリム(Trim)が紡ぎ出すサウンドに合わせるように、彼らは草原を抜ける。そして御輿を海辺の洞窟へと運び入れ、儀式のように火をつける。炎が洞窟の壁に影を躍らせるなか、男たちはトリムの言葉に揺り動かされ、眩いばかりのクライマックスに達する。

      「土着の儀式は古臭いものと思われがちで、若い活気を感じるものとは思われていない」とジェイムズはいう。ジェイムズが2014年に発表した本『British Folk Trilogy』は、それまで陰で受け継がれてきたフォークロア文化に光を当て、リアム・ホッジズ(Liam Hodges)を始めとする多くの作り手たちに多大な文化的刺激を与えた。

      「これは土着文化の再解釈なんだ」とクリスは続ける。「クリエイターやアーティストたちに土着文化のモチーフを与えて、服や音楽、彫像の各々再解釈してもらい、オリジナルで新しいものを作り出してもらったのが今回の作品というわけ」

      この作品で彼らが映像に捉えようとしたのは、儀式に不可欠な"行進"と詩的なストーリー性、そして歌だった。そこで、音楽が重要なブリッジとなったのは自然な流れだった。クリスとジェイムズは、今の音楽界で土着の音楽を作り出しているミュージシャンは誰かと考えた。そこで思いついたのがトリムだった。

      グライム界の先駆者のひとりであるトリムは、豊富な経験があるだけでなく、様々なモチーフや神話を取り混ぜることができる唯一無二のアーティストだ。また、イーストロンドンで生まれたグライムほど土着スタイルを体現する音楽スタイルも他にない。「シーンが生まれたばかりの頃、グライムのアーティストはたくさん撮った」とジェイムズは言う。「トリムのことはよく知っていたよ。作詞の才能もある、とても知的なアーティストだからこのコンセプトにぴったりだと思ったんだ」。プロデューサー/ミュージシャンのベル・タワーズ(Bell Towers)が書いた重苦しいサウンドトラックに、団結と主張の力を歌うトリムの力強い声が重なる——「煙が切れ真実が語られるときひとはようやく私たちのことを思うだろう/分裂すれば私たちに希望はない——ひとつになるのだ/またひとつ沈黙が破られた」

      歴史は特定の人間に帰属する、そして土着の伝統は変えられないのだという認識が、今でもイギリスの民俗性を呪い続けている。文化が尽きようとすれば、伝統は進化を見せる。黒装束は不吉なものと捉えられがちだが、芸術の儀式において、それは受胎や過ぎ去った時間、神秘への信仰心を象徴している。ケントに存在したある民族が残した記録には、森の精霊たちに仕える下僕である彼らが黒装束に身を包んで生活していたと記されている。

      フォークロアは、元来、反逆的で反政府的、反資本主義的な生き方と強く結びついている。ヘンリー7世が統治していた頃のイギリスでは、顔にペイントを施すことは重罪とされていた。密猟者たちが政府機関から顔を隠すため、まず行ったのが顔のペイントだったからだ。また、今回のプロジェクトのベースには、19世紀のラッダイト運動に参加した労働者たちの歌があった。工業の機械化で職を失った腕の良い職人たちは、失意のうちに次々と機械を壊していった。この運動に参加した職人たちが歌った歌である。

      イギリスの奇特さと未来のフォークロアは、いま大きな岐路に立たされている。「変化を恐れるあまり、イギリスの誇るべき多面的社会は分裂の危機にある。だからこそ、様々なバックグラウンドを持った人々が団結し、これからも新たな"今"を創造し続け、新たな伝統を築いていくことで、"皆の未来"を築くことが重要なのだ」とクリスは説明する。

      しかし、解き放たれる瞬間こそが儀式の最も重要な部分でもある。「もちろんこういった儀式や風習の多くが、ただ酔って大騒ぎをするための口実であることもたしか」とジェイムズは言う。「だけど、作品には焦点からずれたものを持ち込みたくなかったんだ」

      イギリスがEUの一部として留まるのか、それとも離脱するのかが決まる今、トリムの詩はより一層の意味を持って私たちの胸に響く——分裂すれば私たちに希望はない。私たちはひとつであるべきなのだ。

      chrisread.tv
      jamespearsonhowes.com

      Credits

      Text Sharon Thiruchelvam
      Photography James Pearson-Howes and Luke Farly
      Translation Shinsuke Kuriyama at WORDSBERG Inc.

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      Topics:culture, chris read, james pearson-howes, fashion, liam hodges, christopher shannon

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