The VICEChannels

      film Matthew Whitehouse 7 November, 2016

      映画『American Honey』のキャスティングを、アンドレア・アーノルド監督が語る

      秀逸なパフォーマンスで俳優たちが絶賛を浴びている映画『American Honey』。米アカデミー賞監督アンドレア・アーノルドが、ウォールマートやパナマ・ビーチでティーンをスカウトして回ったキャスティングの工程について語ってくれた。

      映画『American Honey』のキャスティングを、アンドレア・アーノルド監督が語る 映画『American Honey』のキャスティングを、アンドレア・アーノルド監督が語る 映画『American Honey』のキャスティングを、アンドレア・アーノルド監督が語る

      『American Honey』に関しては、すでに多くの記事が世に出回っている。アカデミー賞監督のアンドレア・アーノルドによるこの最新作は、家を逃れて、雑誌の定期購読勧誘でアメリカ中西部を旅するクルーに加わるティーンの物語だ。主役スターを演じた新人女優サーシャ・レーンの演技がとにかく絶賛を浴びている。オクラホマ州に生まれ育った思春期の女の子が、大人びた振る舞いのなかにも好奇心でいっぱいの素顔をのぞかせるその様は、女優がデビュー作でしか醸し出せない類のパフォーマンスだ。ギャングの元締ジェイク役にはシャイア・ラブーフ、雑誌定期購読勧誘クルーのボスで、心満たされないクリスタル役にはライリー・キーオを配したこの映画はアメリカという国と、そこにある虚像の夢を描いている。実際のロードトリップで撮影された映像には、人間と自然、野生と文明、そしてそこにたまに垣間見える魂のあり方が捉えられている。

      しかし、この映画を唯一無二の作品にまで押し上げているのは、なんといっても随所に見られる素晴らしいパフォーマンスの数々だろう。雑誌の定期購読を訪問販売すべくアメリカ中西部を行く15人の若者たちの演技が光っている。『New York Times』紙に掲載された記事『Long Days, Slim Rewards; For Youths, a Grim Tour on Magazine Crews』に着想を得て制作が始まったというこの映画、アーノルド監督はほとんどの配役に俳優ではない素人を起用。学校が春休み中のパナマ・ビーチやウォールマートの駐車場でリアルな若者たちをスカウトした。そこで出会ったのがレインをはじめとするキャストたちだった。放っておいてもキャスト同士が自ら作り上げたという密な関係性が、この映画の核をなしている。

      クルー全員の個性を描くということは、この映画製作においてどの程度重要だったのでしょうか?
      私にとって、それはとても重要でした。起用した全員がすごく好きなんです。ひとりの例外もなく、全員をです。脚本は主にスターとジェイクのあいだに生まれるストーリーに重点を置いたから、群像劇として書いたわけではなかったけれど、キャストの面々を見ていたら彼らをきちんと描かずにはいられなくなりました。全員を見てもらいたいと思ったのです。彼らには物語るべきストーリーがそれぞれにあると感じました。

      車で旅する彼らには家族のような関係性が生まれていますね。あのような関係性を作り出すにはどんな手法を用いたのでしょうか?
      彼らの好きなようにさせました。ジェイクとスターの関係を描くシーンはきちんと脚本に書かれていたけれど、映画に見るロードトリップは実際に私たちがした旅をそのまま収めたものです。オクラホマからノースダコタへと運転して、そこからサウスダコタへと入りました。1万マイルは走ったと思います。その道程は、本当にみんなで旅をしているようでした。車を停めるとキャストが出て行って好き勝手やりはじめる——私たちはその様子をバスから撮りました。外で好きに時間を過ごしている彼らにシーンをやらせて、それをフィルムに収めたりもしました。でもああいう撮影環境では、私がもともと書いていた脚本はほとんど意味を持ちません。出来上がった作品は、脚本からのシーンと即興でできあがったシーンが半々で構成されています。

      キャストたちは出会ってすぐに仲良くなったのでしょうか?
      すぐに仲良くなっていましたよ。アメリカ全土から来て、お互いをまったく知らない状態から撮影は始まって——なかには飛行機に乗ったことがなかった子もいたんですけどね。あるホテルでみんなが顔を合わせたんだけれど、あのときは誰もが興奮していました。その場にある種の結束が生まれたのです——みんなで一緒に旅をするんだ、という意識が結束を生んだのだと思います。楽しい時間も退屈な時間もともに経験して、お互いを思いやりながらやっていく——ああいう経験をすれば、そこには特別な結束感が生まれるものです。それは撮影初日からすでにありました。ホテルに到着した彼らは、すぐにみんなでホテルの外に出て遊んでいました。一緒に歩いて食べ物を買いに行ったり、ガソリンスタンドにタバコを買いに行ったり。ホテルに到着してすぐですよ。

      劇中で、人間関係の結束に音楽が重要な役割を果たしていますね。撮影前から使用を決めていた曲はありますか?
      特定の曲というよりも、いろんな曲のミックスですね。ザ・レヴォネッツの「Recharge & Revolt」は私が選びました。あの曲、大好きなんです。それとリアーナ。「We Found Love」にはとても「今」の時代感を感じます。ジューシーJの「Bounce It」もわたしのチョイスで、シャイアの曲として使いました。E-40の「Choices (Yup)」は、クルーから提案されました。旅のあいだ、あの曲はわたしたちのテーマソングになっていたんです。パーティをするたびにあの曲をかけていました。かかるとみんなが踊り出して、歌詞も全員覚えていますよ。ラウリィ(Raury)の「God's Whisper」は、ネット上で見つけて以来ずっと私の耳から離れなかった曲。撮影が進むなか、私はどんどん脚本を書き換えていきました。スター役を演じる予定だった子が撮影開始3週間前に出演を辞退したことをきっかけに、脚本の変更をはじめました。サーシャを起用したけれど、当初の女の子とサーシャはずいぶんと違っていたので。シャイアも、当初の脚本で書いていたジェイクとは少し違う人物になっていっていたから書き換えました。書き終わったとき、私たちはサウスダコタにある先住民特区のパインリッジにいて、脚本の最後のシーンを書こうと私はひとりで少し離れたモーテルにこもっていたのです。そこでラウリィの曲が頭の中に繰り返し流れてきて。撮影も大詰めで、あの「僕は『お願いだ』なんて跪いて一生を終えたりしない」という歌詞も相まって、あの曲は私にとって特別な意味を持って響きました。

      雑誌定期購読勧誘クルーの役として起用された15人のうち、11人は演技の経験すらない子たちだったそうですが、スカウトの段階では出会う若者たちに探し求めていた確固たるものがあったのでしょうか?
      私たちはいろんな場所でスカウトをしました。映画撮影をする前、私はすでにひとりでよくロードトリップをしていたんです。アメリカをもっとよく知りたかったし、人々が訪れる場所を見ておきたかった。アメリカ人がどんなところで育つのかをこの目で見ておきたかったのです。だから断続的に2年ほどをかけて、アメリカ全土をひとりで旅して回ったのです。テキサス州ヒューストンでは、ホームレスのシェルターを訪れて、映画に最適な若者がいないか探しました。そのシェルターの職員が「こういう若者たちを、アメリカは『ゴミ』としてしか見ていないんです」と言っていました。それは強烈な印象として私の心に残りました。「彼らはゴミなんかじゃない」ということを世界に知らしめたいと強く思ったんです。キャスティングの段階で訪れた場所の多くは、貧困とドラッグが蔓延していて、映画に出てきた子たちと同年代のキッズがドラッグ中毒になっていました。だから、キャスティングでは、少しでも光が見えるような、まだ可能性というものが失われていない子を探しました。人間には大きな可能性が秘められていると私は信じています。過酷な人生を歩んでいれば、燃え尽きそうになってしまうこともあるでしょう。だからこそ、劇中のキッズには希望を体現してほしかったのです。

      貧困を描く上で、アメリカとイギリスで大きく違う点は?
      まず、健康保険の体制が違います。イギリスの国民保険サービスは素晴らしいです。アメリカでは、貧困層への病気治療や歯の治療が断たれてしまっています。今回の映画のキャストには歯の状態がひどい子たちが何人かいて、撮影中に何度か彼らを歯医者へ連れていかなければならなかったんですが、聞けば「治療費が高すぎて歯医者に行かせてもらえない」と彼らはいう。そういうことには驚きました。薬もそう。ある小さな町——ダイナーと葬儀屋と1ドルショップが1軒ずつしかないような小さな町に、薬局だけは2軒あったりするんだけれど、そのうち1軒を訪れたら、裏では6-7人の薬剤師が忙しそうに薬を作っていて。「なんの薬を作っているの?」と訊くと、店主は「若者たちのための抗うつ剤と、高齢者のための痛み止めだよ」と答えました。アメリカにはそんな町が数多く存在しているのです。そういう町は、かつて産業が栄えていた地域がほとんど。でも産業が廃れた後、住人は仕事にあぶれています。ひとには、未来に繋がるような仕事が必要です。だけど産業が絶えた今、そんな町ではファストフード店の仕事だけが唯一、若者に与えられるチャンスだと聞きます。かつては工場や鉱山で栄えていた町の話です。

      イギリス人であるあなたがアメリカの資本主義にメスを入れるということに、不安は感じますか?
      私たちが暮らすこの国だって資本主義国家です。だから、アメリカの資本主義体制を外国のものとは感じませんでした。撮影時、エーリヒ・フロムの『愛するということ』を読んでいたのですが、そのなかで彼は「資本主義と愛は相容れない。なぜなら、"与える"のが愛の本質であるのに対し、"奪う"のが資本主義の本質だから」と書いていました。

      登場人物たちは、愛の可能性を強く感じさせますね。どのキャラクターも、徹底した悪とも完全な善とも描かれていません。
      人間は誰も完全な悪とも善ともなりえない生き物ですから。私はそう信じています。どんなに極悪非道なことをするひとでも、きっと過去には逃れられなかった悲しみがあったりする。人間としての優しさというのは、誰のなかにも息づいているものだと思います。

      サーシャは最後の最後に起用されたわけですが、あなたが彼女に見たキャラクターへの適性とはなんだったのでしょうか?
      言葉で説明するのが難しい質問です。まず、たくさんの人がいるなかで、彼女には目を惹かれました。ヴィジュアル的に、そして同時にヴィジュアルじゃないものによって惹かれたのです。あの夜、彼女が泊まっていたホテルに行って、他のキャストたちを交えてホテルの廊下で即興演技をしてもらいました。サーシャは素晴らしくて、とにかくオープンだった。臆病な一面もありながら、そこに生まれる可能性に飛びつけるだけの好奇心も持ち合わせていたのです。
      ウォールマートのカート置き場で、映画では犬を連れた少女シャンティ演じるレイレイ(Rae Rae)にサーシャを紹介したときのことを思い出します。レイレイはトゥワーキング(お尻を振る独特のダンス)が好きなんですよ。春休みで浮かれていたみんながウォールマートの駐車場でトゥワーキングを始めて。レイレイは停めてあった車のボンネットに乗って踊り出して、それを見ていたサーシャに私は「ほら、あなたもレイレイと一緒に踊ってきなさいよ」とけしかけたんです。そうしたらサーシャは車に飛び乗ってレイレイと踊って——そこで決めたんです。「この子だ」って。

      Credits

      Text Matthew Whitehouse
      Translation Shinsuke Kuriyama at WORDSBERG Inc.

      Connect to i-D’s world! Like us on Facebook, follow us on Twitter and Instagram.

      Topics:film, culture, interviews, american honey, andrea arnold

      comments powered by Disqus

      Today on i-D

      Load More

      featured on i-D

      More Features