『チーム・ハリケーン』2年後:出演者たちが振り返る、デンマークの実験パンク映画
デンマークの気鋭監督アニカ・ベウによる、実験的なパンク映画『チーム・ハリケーン』が東京で再上映される。出演していた演技経験のない少女8人は、今どうしているのか? 本作が彼女たちの人生に与えた影響を本人たちにきいた。

デンマーク出身のアニカ・ベウ監督による長編デビュー作『チーム・ハリケーン』は、別々の悩みをもつ8人の少女たちのひと夏を描いた群像劇。そして、理想のパンク映画だ。ヴェネチア国際映画祭の批評家週間ではヴェローナ・フィルム・クラブ賞を授賞した本作は、2018年に日本でも公開され、一部から熱烈な支持を受けた。
そんな『チーム・ハリケーン』が、12月30日(月)に吉祥寺アップリンクにて開催される「 トーキョーノーザンライツフェスティバル〈レトロスペクティブ〉」にて再上映されることが決定。
それを記念し、当時SNS上で監督から見出され、演技経験のないまま本作に出演した6人にインタビューを敢行。『チーム・ハリケーン』が彼女たちの人生に与えた影響や、今考えていることをアレコレきいた。

マシルド・リンネ・ドハード・ジェンセン(Mathilde Linneau Daugaard Jensen)
ーー『チーム・ハリケーン』に出演してからどんな変化があった?
結構難しい質問ね。そこまで変化があったとは思わない。髪の色は青のままだし、かつての私のまま……顔にピアスは増えたけど、まあそんなとこ。
ーーあなたにとって『チーム・ハリケーン』とは?
この作品は世の中のタブーを打ち破ろうとしている。若者たちに「あなた自身でいることを恐れないで」というメッセージを発信したと思う。
ーーあなたの夢を教えて。
年を取ったら、捨て猫たちを保護する家がほしい。今この瞬間は漠然としてるけど。
ーー10年後、あなたはどうなってる?
正直、具体的なアイデアはない。未来のことを考えて気を重くしたくないから日々すべてに向き合って生きる。
ーーこの映画を観る人へコメントはある?
世の中の価値観に引きずり込まれないで! 社会の人々は無意識のうちにあなたを見定めてくる。自分が幸せを感じることをしてほしい。日本人のファッション感覚にはとっても刺激を受けてて感謝してる!

ザラ(Zara)
ーー『チーム・ハリケーン』に出演してからどんな変化があった?
今私は人生における大事な選択をしているんだって、時々自覚的になることがある。でも、その経験を経て大人になっていくんだと思う。私はアートを通して何かをしたいと思っている。THはそんな私の背中を押してくれた。
ーーあなたにとって『チーム・ハリケーン』とは?
THには私が悩みに悩んでいた頃のことが記録されている。でも、若者が自分たちの感情を共有できて、共に行動できる安息の場所でもある(ちょっと過激で、世間から見たら反抗的でもあるけど)。普通じゃ処理できない、私たちの抱えていることについて知識と理解を得られる場でもあった。
ーーあなたの夢を教えて。
今は明確な目標に向かっているというよりは、普通に幸せでいられたらいい。
また“冬眠”しないよう、徐々に成長していきたい。
ーー10年後、あなたはどうなってる?
なんとも言えない。考えたいとも思わない。大きな挫折感や絶望を抱えないためにも夢や目標を高くしすぎるのは良いことに思えない。 でも、恋をしていたいとはっきり言える。
ーーこの映画を観る人へコメントはある?
誰もがお互いに遠く離れた存在だということに気付いてほしい。私たちは何かしらの接点があるはず。だからこそ、いつも人とはお互いに尊重し合い、結果を急がず耳を傾けてあげてほしい。ポジティブで、人とこの地球に感じよくあってほしい。
サラ・モーリング(Sara Morling)
ーー『チーム・ハリケーン』に出演してからどんな変化があった?
高校をやっと卒業して最高な気分!今は1年半くらい経ってリラックスしてる状態。正に自由を謳歌していて、ストロベリースムージーも飲みまくってる。
ーーあなたにとって『チーム・ハリケーン』とは?
(THに参加して)最低な気分で落ち込むことを恥じなくなった。そう私たちは孤独じゃない!
ーーあなたの夢を教えて。
長く健康でいられることかな。洋服を仕立てられるようになって、原宿にショップを持つこと! 音楽制作も興味がある。
ーー10年後、あなたはどうなってる?
ある夏の日に野原で将来の旦那さんと座ってたい。その時はうさぎも一緒に。それはとってもピースな気分よね!
ーーこの映画を観る人へコメントはある?
(日本語で)ありがとうございます❤️❤️。映画を楽しんで!こんな”奇妙な”デンマーク映画でも観て、あなたがOKだったら嬉しい。物理的に離れた存在ではあるけど、社会に対する考え方とか私たちの頭の中はどこかで繋がっているはず。
追伸:日本はサンリオの発祥の地。こんな可愛いものを生み出してくれてとても感謝してる。”シナモロール”は現代のアイコン!

イジャ・ペネロペ・ロープストーフ(Ida Penelope Roepstorff)
ーー『チーム・ハリケーン』に出演してからどんな変化があった?
胃もたれするような人間関係を抜け出して、最高の友達を見つけた。自信がついて、これからもやってけそうな気がしてる。そして愛する人を見つけた。心がとても満たされた状態。
ーーあなたにとって『チーム・ハリケーン』とは?
映画の撮影中はとってとても辛い時期で、おそらく酷い鬱だった。『チーム・ハリケーン』では自分の反骨精神をむき出しにした。この作品は私の生活に直結したものだったから。今になってこそ言えるのは『チーム・ハリケーン』は私を形成するとても重要なものになっていたってこと。あの経験が今の私を作ってると誇りを持って言える。
ーーあなたの夢を教えて。
お金の心配をせずにアート制作ができるようになること。あとは長い脚と大きな頭を持つデカい犬を2頭飼うこと。とっても簡素だけど幸せな生活を送る。家には制作スタジオと犬が走れるような大きな庭は必要。世界平和が果たせれば少しドープな気分かな。夜はいつも彼氏に後ろから抱きしめてほしいな。私の友達は皆幸せであってほしい。
ーー10年後、あなたはどうなってる?
運がいいことに、美大を卒業した私は更に研ぎ澄まされて、興味のある学問を研究しに大学に通い続けることになりそう。生活は安定してきたと思う。周りには愛が溢れているし。大きな犬2匹とデカいスタジオを手に入れて、ヤバいアートがつくれたら完璧ね。
ーーこの映画を観る人へコメントはある?
この世に「負け」という概念は存在しない。

ミア・マイ・エリス・ペンダーセン(Mia My Elise Pedersen)
ーー『チーム・ハリケーン』に出演してからどんな変化があった?
THは青年時代の私の身の置き所や視点をより明確にしてくれた。あのチーム以前は、自分の激しい感情をどうしたらいいのか、周りの人とどう接していいか悩んでいた。THはその内面について語ることをある意味では強いる環境だった。すべては突然さらけ出されたから。私たちの思っていることや今までの経験をすべて放出する行為は怖い感じもしたけど、心は救われた。
私は10代の頃に自殺願望があって自傷を繰り返してた。THが教えてくれたのは、独りじゃないことと、私のどうしようもない感情を全部受け入れてくれたということ。あの哀しくて悲惨なときに! THに壊れた何かを修復してもらったと言うつもりはないけど、自身の再生と自分を愛するようになるための旅に出発できるよう背中を押してくれたとも言える。
学校に戻る決心もついたし、無事卒業できた。絶対無理だと思っていたことのひとつだったけど。
ーーあなたにとって『チーム・ハリケーン』とは?
THは現代の若者たちに突然の暴風雨のごとく問いかけているような気がする。「私は何者か」「私はどう生きるべきか」「なぜこんな風に感じるのか」「なぜ世の中のすべては私を傷つけるのか」「人々は私に何を期待するのか」。これはベタ塗りの色彩と爆音のサウンドトラックで綴るあなたたちが過ごした青年時代の象徴でもあるの。
ーーあなたの夢を教えて。
私は自身と愛する人たちの幸福を願う。あとは世界中を旅して美味しいものを食べ尽くす!!
ーー10年後、あなたはどうなってる?
私は32歳になる……すっかり大人! 願わくば結婚して2人の子供を育てたい。病院か薬局で薬剤師として働きたいかな。その頃には日本にも行きたい。
ーーこの映画を観る人へコメントはある?
THに興味を持ってくれてどうもありがとう! 私たちの”小さな”物語が映画になって世界中で上映されてこのように評価を受けてとても光栄です。

アイラ(Ira)
ーー『チーム・ハリケーン』に出演してからどんな変化があった?
撮影に入ったのは3-5年前だった。このあいだに個人的にも多くのことが起こった。みんなにとってもそうであるように私もこの時期に一気に成長した。
ーーあなたにとって『チーム・ハリケーン』とは?
THへの参加は誇りのひとつ。映画撮影の”秘儀”を学んだような気もする。とっても楽しい経験だったし、たくさんの素晴らしい人にも会えた。
ーーあなたの夢を教えて。
ギリシャ神話のような人生を送りたい。裸でぽっちゃりした小さい天使たちにぶどうを与えられてワインの中に浮かんでいるような。
ーー10年後、あなたはどうなってる?
10年経ったら28歳になる。20代は思いっきりはしゃいで過ごしたい。将来についてはあまり道筋を立てすぎないようにする。18で思っていた通りにいかないのが人生だと思うし、それって悪いことじゃないはず。
ーーこの映画を観る人へコメントはある?
映画を楽しんで!
『チーム・ハリケーン』は吉祥寺アップリンクにて開催される「 トーキョーノーザンライツフェスティバル〈レトロスペクティブ〉」にて12月30日(月)12:00-に再上映。
彩衣(Ms. Machine)
「北欧は幸福な国だと語られがちだが私達(もしくは教室の隅にいたあの子)が経験してきた同じような悩みや葛藤を抱え独白するシーンでは悲しみでこの世が終わるんじゃないかと思い泣きじゃくった夜を思い出し、重ね合わせ、スクリーンの前でこっそり涙した」
UMMMI.
「『幸せでいるっていうのはクソ難しい。朝ベッドから出るのも、毎日のこと、例えばシャワー浴びたり爪を切ったりっていうのもクソ難しい。本当はこんなにしんどいものであってはならないのに、でも実際クソしんどいの!』これはチームハリケーンに出てくる一番大好きなセリフ。アタシも本当に毎日そう思ってもがきながら生きてるよ。これを書いているのは午後3時、まだ布団のなか、ベッドのそばには昨夜飲んでいた半分残ってるビールの空き缶、シャワー浴びてません。でもたまにはそれでいいんだよ、ぐちゃぐちゃな顔で泣きじゃくったりだらしなくていいんだよ。(そしてこんな世界で、世界のあらゆることに疑問を持ちながら生きる繊細すぎるアタシたちに一体なにができるというんだろう?)そんな映画です。自分が大人であることをまだ信じられていない人たち、明日なにをすればいいかわからない人たち、遠い国で、アタシたちと同じく悩めるティーンたちの生き様をぜひ観てください」