Urara lying on a bed, 2016, Okinawa. © Chloé Jafé

ヤクザの女性たちの謎多き人生の記録

クロエ・ジャフェのフォトシリーズ〈命預けます〉は、ヤクザの女性たちの謎に包まれた生活のベールを取り払った。

by Alex Merola
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18 May 2022, 3:00am

Urara lying on a bed, 2016, Okinawa. © Chloé Jafé

ヤクザの世界に足を踏み入れるには、必ず招待状が必要だ。私たちのほとんどは、映画でしかその世界を垣間見ることができない。任侠映画には、ヤクザは高潔な武士道の後継者として登場するいっぽう、実録映画では、欲望のままに生きる恐ろしい街の暴漢として描かれる。彼らは秘密を厳守するため、ヤクザを追うフォトドキュメンタリーシリーズは、倉田精二が東京の地下ネットワークに肉迫した伝説の作品『FLASH UP』(1980年)以外、ほとんど見られない。男たちの非道な仕事の周囲にいる妻、娘、女中、女主人の記録は、ほぼ存在しないに等しい。

天藤湘子の『極道な月』(2012年)を読み、部外者を拒む彼らの内情を解き明かしたいという決意に突き動かされたフランス人フォトグラファー、クロエ・ジャフェは、見事それをやり遂げた。「中に入ること自体が、長く厳しい道でした」とクロエは語る。彼女の〈命預けます(I give you my life)〉は、ヤクザの女性たちの謎めいた生活を追う前代未聞のフォトシリーズだ。「何が真実で何がただの幻想なのか、見当もつきませんでした」。失恋をきっかけに東京を訪れたクロエは、まず撮影したい被写体に近づくために日本語の勉強を最優先した。「とても難しかったです。日本では誰も〈ノー〉と言わないし、沈黙にもさまざまな意味があるので」

chloe jafé tattooed yakuza woman looking over her shoulder, with watercolour painting over her face
JUN, 2016, OSAKA © CHLOÉ JAFÉ

しかし、クロエは〈イエス〉の危険性にも気づいていた。「私がトラブルに巻き込まれたり、プロジェクトを進めるうえでうっかり彼らに加担してしまうことを恐れて、私を避ける友人もいました」と彼女は回想する。彼女は東京の歓楽街を隈なく調査した。彼女の夜は大量の焼酎で幕を閉じることが多かったというが、極秘の情報や危機一髪の出来事、行き詰まりを感じたことはよく覚えている。2014年3月、クロエは日記にこう記した。「ヤクザに会えたと思ったけど、私とイチャつきたいだけのただのチンピラだった。すごく頭に来る。このままで本当に探してる女性たちに会えるのかな……?」

その後、クロエは日本の男性を喜ばせるために必要な振る舞いや態度を学ぶため、東京のバーでホステスの仕事を始めた。「そこでわかったのは、女性たちには人生で何かを決める自由がほとんどないということです」とクロエはいう。「だから男性を通す必要があることに気づきました」

a tattooed yakuza woman looking to her left in black-and-white with a pink streak outlining her body
YUKI AT THE SANJA MATSURI, 2016, TOKYO © CHLOÉ JAFÉ

クロエが祭りで親分に会ったのは、その2年後のことだった。彼はクロエにビールをおごり、ふたりは約束を取り付けた。クロエはこの出会いが「ラッキー」だったと語るが、彼女がその後取った行動は非常に無謀なものだった。クロエいわく「最初の旅」が始まると、彼女は辛抱強く、他人を喜ばせ、おしとやかに振る舞わなければならなかった。

クロエは徐々に組の内側に入ることを許され、最終的に組長の妻である姐さんに会う。西欧のマフィアとは違い、ヤクザの妻たちは犯罪活動に関わることはできない。金銭管理、揉め事の解決、精神面でのサポートなど、女性は組の運営において重要な役割を担っているが、積極的に関与したり正式な組員になることは禁止されている。「日本の裏社会には国全体と同じくらい、家父長制が根強く残っています」とクロエは説明する。「それを受け入れなければ、結婚できないんです」

Chloe Jafe portrait of a yakuza woman tattooed on her knees in black and white
YUKO, 2016, SAITAMA © CHLOÉ JAFÉ

シリーズのタイトルが示すとおり、〈命預けます〉は自立と忠誠の複雑な相互関係を象徴している。なかには、女性の従属がはっきりと見て取れる写真もある。彼女たちは影に身を潜め、頭を下げ、食事を運ぶ。しかし、犯罪学者のリエ・アルケマイドが『Outsiders Amongst Outsiders』(クロエが参照した論文)で指摘するように、妻たちは夫が禁じた作法をあえて反映したり模倣する行動を取ることも多いという。ヤクザという窮屈な組織の中で自尊心を大げさに表現することで、彼女たちは影のパラレルワールド、いわば〈サブ・サブカルチャー〉を生きている。

刺青に焦点を当てた写真で、クロエの作品ほどシスターフッドが明確に表れた写真はないだろう。写真に写る女性たちは裸体や繊細な刺青が施された身体を誇らしげに見せ、フォトグラファーと被写体の親密さや協力関係が感じられる。しかしそこには、クロエが一定の距離を保っていたことがわかる、ある種の曖昧さも存在する。「日本ではタトゥーはいまだにタブー視されています」とクロエはいう。「タトゥーを入れた途端、社会の主流から外れてしまう。だからそれを見せるには勇気が必要です。タトゥーは非常にスピリチュアルなもので、外に見せるべきではないんです」

chloe jafe yakuza photo of two lovers in bed
LOVERS EMBRACING, 2016, TOKYO © CHLOÉ JAFÉ

「私はひとりの女性として、他の女性を理解しようとしただけです」とクロエは続ける。「私にとっては(被写体との)会話がとても重要なので、女性たちに自分の刺青について手紙を書いてもらいました」。その手紙は、2020年に発売された、クロエのこだわりに満ちた自費出版の写真集に掲載されている。「彼に命を預け、愛し続ける覚悟はできている」と愛する男性の名前を首に入れたアンナは語る。別のジュンという女性は、「40歳のときに一緒にいた男性が刺青を入れていて、刺青のない自分の裸を見て、自分が無防備に思えた」という。さらに、離婚後に刺青を入れたユウコという女性もいる。「自分に近づいてくる男たちを遠ざけたかった……(中略)残りの人生を女性として自立して生きるために」

それから数年、クロエのシリーズは思いがけない方法で進化を続けている。現在、このシリーズの新たなプリントが、写真フェスティバル〈Fotografia Europea〉の一環として、イタリア、レッジョ・エミリアのChiostri di San Pietroに展示されている。作品には絵の具でペイントが施され、人物の輪郭に半貴石が埋め込まれているものもある。「私の制作において、介入することはとても大切な要素です」とクロエはいう。「白黒写真に色を組み合わせることで、そこに別次元の現実が加わりました。でも同時に、観客に疑問を提起する余地も残したかった」

yakuza boss photograph by chloe jafe
THE RECRUITS GREET ONE OF THE BOSSES AFTER A REUNION, 2016, TOCHIGI © CHLOÉ JAFÉ

〈命預けます〉は、アウトサイダーが内部に入り込む物語である以上に、レンズの向こう側とこちら側の両方に立つ女性の献身的な愛を提示する作品だ。フォトグラファーと被写体、人生とアートの境界線を壊すクロエの手腕こそが、彼女を他とは一線を画するドキュメントフォトグラファーたらしめている。フェミニストとしての確固たる責任を決して見失うことなく、特殊な社会集団の中で生活した若い女性として、クロエは被写体にふさわしい方法で撮影するために作品に自らを捧げた。「写真は嘘をつきますが、私はできるだけ誠実でありたい」とクロエは明言する。「それには、自分自身が被写体になることも含まれます。被写体は結局のところ、私の人生とは切り離せない存在です。写真とは本来、〈内側〉と〈外側〉を行き来する扉になるもの。でも、私の境界線はとても曖昧です」

chloe jafe photo of yakuza recruits on the beach, with a watercolour background
YOUNG RECRUITS LOOKING AFTER CHILDREN ON THE BEACH AT THE CELEBRATION OF "UMI NO HI”, THE DAY OF THE SEA, 2014, CHIBA © CHLOÉ JAFÉ
chloe jafe photo of yakuza couple naked in black and white
WITH TAKA, 2019, OSAKA © CHLOÉ JAFÉ


命預けます(I give you my life)〉は、Fotografia Europeaの一環として、イタリア、レッジョ・エミリアのChiostri di San Pietroで6月12日まで展示される。

Credits


Photography Chloé Jafé

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