「共感を求めるばかりでなく、疑問を感じることも大事」水川あさみと永野芽郁がプラダ財団支援によって企画されたRole Play展で感じたこと。

日頃から“役を演じる”ことを生業とする水川あさみと、永野芽郁が考えるアイデンティティの在り方とは。そんな問いを投げ掛ける舞台となったのは、3月よりプラダ 青山店にて開催が始まっている『Role Play(ロール プレイ)』という展覧会。特別ゲストに写真家鈴木親を迎え、エキシビションを案内してもらった。ミラノのOsservatorio Fondazione Pradaでも開催されている展覧会を、二人の女優が興味深く作品と向き合う様子をお届けする。

by Sota Nagashima; photos by Wakaba Noda
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27 April 2022, 8:15am

理想の自分と本来の自分を比べたりすることは、現代を生きる誰しもが身に覚えのある経験なのではないだろうか。大学教授や作家、時にはテレビ司会者など多岐に渡って活動しているメリッサ・ハリスがキュレーターを務める本展覧会のタイトルは、「Role Play」。役を演じることや分身の創造、自己の拡散などを切り口として、個人の本質や表向きの人格の追求とその理解に迫る。

そんな本プロジェクトの会場は、プラダ 青山店の建物の中でも普段お客さんは立ち入ることのできない5Fのフロア。クリエイティブエージェンシーのRandom Studioが展示デザインを担当し、床や壁などの空間が深い青色で統一され、それぞれのアーティストたちの作品だけ幻想的に浮かび上がっている。その会場へと続くエレベーターに乗り込む水川あさみと永野芽郁の二人。実は展覧会はそのエレベーターの中から既にスタートしていた。

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Mei Nagano (L) and Mizukawa Asami (R) at the Role Play Exhibition at Prada Aoyama.

鈴木親(以下鈴木)「エレベーターの音楽どうでしたか?」

水川あさみ(以下水川)「不思議な音楽でしたね。なんとも言えない気持ちになりました」

永野芽郁(以下永野)「なんか不思議な世界に連れていかれる感じがありました」

鈴木「(音楽自体が)ベアトリーチェ・マルキっていう作家さんの作品なんですけど、この音楽作っているのは、彼女の中の別の人格のケイティって人が曲を作っていて。他の作品だと違う名前の作家の名前で、例えば犬を擬人化した作品だったりとか、それにも名前が付いているんですよ」

水川「多重(人格)ということですか?」 

鈴木「色々なキャラクターで、様々な人格の人が作品を作る。流れている曲も、そのケイティがチャットで喧嘩した内容を音楽にしているんです。

水川「そういうことなんだ。でも、ちょっと怒ってるようにも聴こえる。文句を言っているような感じにも聞こえなくはないなと思いました」

鈴木「そうなんです。現代美術って、作品に対して自分はこうだって言っているわけではないので、観る側がどう捉えるかっていうのも作品の1個なんです。だから、そこを楽しむために、もうどんどん気付いたことを話しながら進めていきましょう」

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Asami Mizukawa and Juno Calypso's "A Clone of Your Own", 2017.

そういって、まず鈴木が案内したのはショーケースの中に様々な格好をした女性のポートレートがズラリと並ぶ「OMIAI♡」という題名の作品。

永野「何人かいますね。三姉妹?」

永野が複数人の女性がいると考えたそのポートレートに写るのは、実はこの作品の作家本人である澤田知子ただ一人。

鈴木「自分で色々な役割を演じるっていうテーマがあって。どういう気分で澤田さんがこれを作っているかという本人のインタビューがあって。「演じてない」って、言っていたんですよ。この人になるとかじゃなくて、自分のままで外側だけ変えたら周りの人が違う様に見てくれる。だから、大きいテーマで、『変わらない内面と、簡単に変わる外見』とおっしゃっていました。演じることや、誰かになるみたいなことを一切してないっていう作品なんですよ」。

水川「面白いですね。私は普段お芝居をする時、自分ではない誰かになるという意識でやっているので」

鈴木「僕が映画を観ていたりしても思うのは、役柄の説明が無くても服装だったりでなんとなくどんな人か分かったり、外的要因というのは情報としてかなり大きいですよね」

水川「かなり大きいです。服を着たり、メイクをしたりというのは役を演じる上でも切り替えになるし、すごく大事なことだなと思いますね」

内面は変えずに外見だけ変える。普段の役者をやっている時の感覚とはまた違った表現をした作品を興味津々に眺めていた。そして、次に向かったのはハルカ・サカグチとグリセルダ・サン・マルティンのユニットによる「Typecast Project」という作品。役者たちがハリウッドなどの映画業界で求められる役柄と、自身が本当はやりたい役柄のイメージが違う様を比較する様に映し出されるというもの。それによって、アメリカのエンターテインメントや映画業界における多様性の欠如を風刺している。

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Bogosi Sekhukhuni, "Consciousness Engine 2: absentblackfatherbot", 2014.

鈴木「例えばアジア人だったら箸使うだろとか、僕たちが当たり前だと思ってることが実は当たり前じゃないということに作品を見てると気付くんです。お二人はやりたかった役と普段与えられる役の差みたいなものはあったりするんですか?」

水川「そうですね。私たちのパブリックイメージみたいなものとかって、どうしても(テレビなどに)出てる人間にはあったりすると思うんです。そことは真逆な役柄をやりたいなという風には思いながらお芝居はしていますね」

永野「やっぱりどうしても学生で授業を受けて、恋愛してみたいな物語が多かったので。職業に就いてバリバリ働いている女性像に憧れはあったんですけど。だんだん歳を重ねて落ち着いている役も増えてきたので、なんかこうやって変わっていくんだなという面白みはあります」

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Mei Nagano and Juno Calypso's "Die Now, Play Later", 2018.

水川「私は今38歳なんですけど、ちょうど一番演じる役が少なくなる時期な気がします。例えばキャリアウーマンとしてバリバリ活躍していて結婚するかしないかで悩んでいる役か、お母さんの役かとか、このぐらいの年齢って割り当てられる役が決まっちゃっていて少ないと思います。今の時期は、そういう葛藤はあったりしますね」

役者として作品に親近感を感じながら、一同は写真家ジュノ・カリプソの作品の前へ。一見するとポップなピンク色の部屋だが、冷戦時代に大富豪が核シェルターとしてラスベガスの地下8mに建設した家で撮影されたものだ。

鈴木「ジュノ・カリプソさんっていう、イギリス人の女性作家なんですけど、ファッションとかも撮られてる方で。その人が一人でそこの場所に行って3日間自分をセルフィーした写真なんです。だから、あっちの作品とかだと、夜みたいになってるじゃないですか? シェルターの中で、夜とかそういう窓を作ったりしているんです。

永野「可愛いけど、なんか怖い」

鈴木「なんか怖いという違和感は合っていると思います。だって、核シェルターってことだから、恐怖から作っているものじゃないですか」

水川「だからこんな家の中明るいんですかね」

鈴木「タイトルは100万年の中で何をするのかという作品で、女性はメイクしたりパックしたり体型を維持したり、ずっと美しくないといけないという価値観に晒されている。だから、この永遠の家と言える場所でほぼルーティーンの様に美を追求する様に過ごす女性が写されているんだと思います」

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Chikashi Suzuki with Bogosi Sekhukhuni's "Consciousness Engine 2: absentblackfatherbot", 2014.

そして、最後に向かったのはボゴシ・セククニという南アフリカのアーティストによるビデオインスタレーション作品。疎遠になってしまった父親との関係を、アバターを作り会話させることでシュミレートしている作品だ。喋っている内容は、実際にSNSでやり取りしたチャットの内容だという。

鈴木「永野さんの年代だと、最初からメール(というコミュニケーションの手段)がありましたよね?」

永野「はい、メールありました」

鈴木「僕の年代とかだと、学生の頃は直接会って会話するか、電話しかなくて。その後、Eメールが出て来て、今もうちょっとこう、チャット的なもっとパッパと、変わるやつになってるじゃないですか。LINEだったりとか、WhatsAppとか。ここ20年とかで一気にコミュニケーションって変わったんですよね」

水川「ちょうどその変わってる世代に私もたぶんいる」

鈴木「そうですよね。だから、このボゴシ・セククニはコミュニケーションと消費や、テクノロジーと消費とかそういうことに対して問題提起している作家さんで。親子なのにチャットで喋った内容がアバターで最後喋ってるとなると、コミュニケーションってどこに行くんだろうと思いますよね」

水川「そういうものが進んで、本当に会わなくていいようになったらどうする? 自分はもう寝てるみたいなさ」

鈴木「それで脳みそだけ繋がっていたり」

水川「やだ!! 怖い。でも、映画とかではあり得る話」

永野「そうなってもちゃんと会ってくださいね。もしそんな世の中になっても、頑張って起きて会ってください」

水川「頑張って起きるとかじゃない(笑)」

鈴木「社会がそうなっちゃったらね(笑)。でも、現代美術ってそういう違和感みたいな、便利になり過ぎて何も気付かずにそっちに行かないように戻してくれる側面もある。

水川「確かに。疑問を持ったりね」

鈴木「立ち止まるということと、色々な人と意見を交わすということがすごく大事だと思います」

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3人は展示会場を後にし、この日感じたことを振り返る。

永野「現代アートというものを初めてちゃんと見たんですよ。それこそ携帯の中で画像として見たことはあったけど、ちゃんと実物を見たのが初めてだったので。こういう説明をしてもらいながら見れると、見え方って変わってくるんだなっていうのは、面白かったですね。なんだか普段の時間とはまた違う、ゆっくりと色々な知識を得ながら進める時間があって、すごく充実した時間を過ごさせて頂いたなと思いました」

鈴木「もしかすると初見と2回目見たりとかで印象がどんどん変わるから、もう1回理解が深まったりとか、ああやって言ってたけど、私は違うなって思うことがあったり。それが美術の楽しみみたいなところだと思います」

水川「私たち演じる人、役者をやっていると自分というものは置き去りになるというか、演じることの方が大事だったりして、その役に寄り添うことの方がどうしても時間が長くなりがちですけど、こういう展示を見ることによって自分がどう思うとか、自分が何を感じるかってことを引き戻してくれる。凝り固まってたなって思う部分が解けるような感覚がして良い時間でしたね。またその初めて見るっていう芽郁ちゃんと見るっていうこともすごく楽しかったです」

鈴木「なんか直接の会話もできてっていうのが良いですよね」

水川「そうですね。あと、疑問に思うこととか違和感を覚えることって、この今生きている世の中でちょっと少なくなっている気がするんですよね。割と共感を求めることの方が多い。自分も作品をやっていて、共感してもらえるものを作ろうということにポイントが行きがちなんですけど、違和感や疑問に感じるというのは人間が生きていく上ですごく大事なことの様な気がしました」


Role Play
プラダ 青山店
東京都港区南青山5-2-6
展覧会開催時間:午前11時~午後8時
開催期間:2022年3月11日から6月20日まで

STARRING
Asami Mizukawa  
Mei Nagano
Chikashi Suzuki

i-D Japan
Editorial Director  Kazumi Asamura-Hayashi
Creative Producer  Emi Arai
Project Manager  Margarett Cortez

CREDITS
Director Nobuyuki “Bob” Miyake (Gazebo Film)

Director of Photography  Chris Rudz
2nd Camera  Vinod Vijayasankaran
Gaffer  Yosuke Shimada
Sound  Yusuke Mogi
Video Editor  Akira Kamitaki

Photography Wakaba Noda (TRON management)
Photography assistance Riho Narumi
Text Sota Nagashima

Styling (Asami Mizukawa, Mei Nagano) Miho Okabe
Styling assistance Momoka Yamaguchi
HMU (Asami Mizukawa) Tamae Okano (Storm)
HMU assistance Yoko Miyamoto
HMU (Mei Nagano) Eriko Ishida
HMU assistance Chikako Sugano
Grooming (Chikashi Suzuki) AMANO

Assistant Director   Yusuke Hatai 
Production Manager   Ayano Nakagawa

Music Courtesy of Audio Network

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