Photography Hwang Byung-moon

韓国ファッションの未来を担う若手デザイナー5選

今注目の韓国ブランドを率いる5人のクリエイティブにインタビュー。

by Hong sukwoo; translated by Nozomi Otaki
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22 March 2022, 7:52am

Photography Hwang Byung-moon

ファッションとは単なるトレンドの移り変わりだというひともいれば、その日着ている服を指す場合もある。しかし、ごく限られた人びと、すなわち自らの体験や想像をみんなが欲しがるアイテムへと変身させるデザイナーにとって、ファッションは必要不可欠な自己表現の手段であり、生涯を懸けた仕事だ。

今回、私たちは韓国の次世代ファッションの最前線に立つデザイナーたちに目を向けた。これらの5つのブランドは、それぞれユニークなアイテムを生み出し、デザイナーの出身校に影響を与え、多くのファンを獲得し、そしてもちろん業界で大きな話題を呼んでいる。実験的なニットウェアや身体を守る殻、セラピーの役割を果たす服をデザインし、韓国ファッションの未来を形づくっている5人のデザイナーに話を聞いた。

a model wears a white fitted jacket with off-white detailing down the seams

CARNET ARCHIVE

ロンドン・カレッジ・オブ・ファッションで出会ったハリン・キムとカン・ヨンデは、テクニカルデザインへの愛を通して意気投合し、CARNET ARCHIVEとして一緒に服を作り始めた。ノートのコレクションを意味するブランド名は、このブランドの実験的な性質、制作中の作品を示唆している。2017年に活動を始めて以来、ふたりは膨大な量の研究に取り組んできた。

しかし、CARNET ARCHIVEは、単なるテクノロジーの遊び場に留まらない。ソウル生まれのカン・ヨンデは、特に人間存在の影の部分を掘り下げるアートや文学、例えばエリオット・スミスやハーモニー・コリンなどの作品、フランス人哲学者アルベール・カミュや日本の小説家の太宰治から影響を受けた。いっぽうハリン・キムは、「価値のある全ての物事への広大で純粋な興味」に突き動かされ、あらゆる方向からインスピレーションを受けるという。概念的な奥深さ、質、目的を中心とするブランド・アイデンティティは、ふたりが出会うずっと前に築かれ始めたに違いない。

好評を博した2019年春夏コレクション〈A Sculpted Sculptor〉に続き、シルエットや人間工学を介して大胆な実験を行なった2021年秋冬コレクション〈Paper Crustacean〉の公開によって、ブランドの人気は拡大し続けた。「ストリートウェアとグランジの要素を組み合わせる過程で、実験性と完璧さの間の微妙なバランスを慎重に検討しました」とデザイナーたちは説明する。

CARNET ARCHIVEは、現在〈Paper Crustacean〉の続編となる2022年秋冬コレクション(メンズウェアとウィメンズウェアの両方)の準備を進めている。衣服と人体の構造の研究として、このコレクションは〈殻〉としての服を提示する。「これはCARNET ARCHIVEの長期的なテーマのひとつです。つまり、外界から守ってくる社会的な皮膚としての服、誇張された体形、甲殻類や建築構造への言及です」

ふたりはファストファッションに反対し、今後もブランドの成長とともに探求を続ける予定である長期的な満足感やスローな価値観を推奨している。CARNET ARCHIVEにとって、制作プロセス、美学の発展、デジタルアーカイブの目的意識を共有することは、結果として生み出される服と同じくらい重要だ。それらは、業界を生き抜くための考え抜かれた先進的なアプローチを示している。「ランウェイでのコレクションの代わりに、インスタレーション、映像作品、3Dグラフィックスの概念をもとに、自由に実験しています」

a model wears a shiny ink-green leather jacket, black flares and bold green leather boots

ANCHOVI

中学時代に発見したオンラインのファッションコミュニティから、10代に熱中したマーク・ジェイコブスのドキュメンタリーまで、キム・クンヒョクは常にファッションに夢中だった。ソウルを拠点とする彼は、学校も仕事もファッションの道を選んだが、現実は自分が思い描いていた世界とかけ離れていることに気づき、自らのブランドANCHOVIを立ち上げることを決意する。ウィットに富んだディテールと斬新なキャンペーンで勢いを増しているこのメンズウェアブランドは、もうすぐ5thコレクションを公開する予定だ。

キム・クンヒョクは、服を作りながらブランドを運営することを「綱渡り」と呼び、商業的な実行可能性とデザインの両立もそれと同じだと語る。「毎シーズン、テーマを変えながら、リサーチで得た数多くのアイデアを表現していますが、誰にでも理解できるものを作るよう心がけています」と彼は説明する。クラシックで日常的なメンズウェアだが、このブランドがひと味違うのは、さまざまな要素が脱構築され、一風変わった素材が使われているところだ。 

ANCHOVIはランウェイショーのために服を作るというより、何よりもまずファッションファンを優先しているが、キム・クンヒョクはずっと伝統的なファッションウィークのフォーマットに憧れを抱いてきた。「今はブランドの発展のために、オフラインとオンラインの両方でプレゼンテーションを行なっています」と彼は説明し、最終的な目標は、ANCHOVIのパリ・ファッションウィーク進出だと語った。現在の彼は、ミゲル・デ・セルバンテス著『ドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャ』を主な着想源とするANCHOVI 2022年秋冬コレクションの準備を進めながら、多忙な毎日を送っている。しかし、世界へと目を向けながらも、ブランドの主な着想源は祖国であり続けている。「今、韓国文化は世界に多大な影響を与えています」と彼はいう。「ソウルで活動するデザイナーとして、僕たちはこの国の文化やトレンドを作品に敏感に取り入れることで、世界に影響を与えることを目指しています」

a model poses in an abstract hairy knitwear look with bold graphic sleeves

UPNOON

高校時代からの友人のジャン・ジスとキム・デヒは、セントラル・セント・マーチンズでファッションデザインを学んでいたとき、ミャンマー生まれのクラスメイト、インザリ・モーに出会った。今はソウルに戻り、3人でニットウェア、プリント、革新的なシルエットを特徴とするブランドUPNOONを運営している。「人びとが視覚的に楽しめるブランドをつくりたかった」と3人は語る。「着るひとだけでなく作り手である私たちにとっても楽しいものを、というアイデアのもとに実験を行なっています」

ソウル近郊の京畿道(キョンギド)、一山(イルサン)で育ったジスは、インスタレーションアートや古代東アジアの伝統的な絵画と陶器を愛していた。いっぽう、デヒはスケッチや映像の撮影を通して、ファッションに興味を持つようになる。母親もデザイナーのモーは、ロンドンに引っ越す前、日本で5年間ヘアメイクを学んでいた。幅広い審美眼、経験、スキルをUPNOONへと持ち込んだ3人は、このブランドを「気の合う友人同士のプロジェクトの延長線」と表現する。しかし、UPNOONはそれ以上に大きく成長した。

2022年春夏コレクションは、彼女たちが直面した世界的なパンデミック下の生活を反対の視点から捉え、もしひとりの時間が歓迎するべきものだったら、デザイナーが何にも邪魔されることなく究極のファッションを思い描ける時間を与えられたら、というテーマで制作された。「私たちが提示したかったのは、ニットウェアとプリント両方の特徴を捉えた、興味深いテキスタイルのコレクションです」とモーは語り、適切な工場を見つけ、試作品を作るプロセスは決して簡単ではなかったと打ち明けた。その結果完成したコレクション──ノースリーブドレス、折衷主義的なニットウェア、渦巻き模様のプリント──からは、想像力を存分に発揮する〈発明家〉の物語が伝わってくる。

3人によれば、ブランドの第一目標は「強力なファン層を築き、誰かのインスピレーション源になること」だという。それは毎回のコレクションだけでなく、可能な限りサステイナブルな取り組みを通して目指していることだ。もちろん、そこには資金や技術的な問題も関わってくるが、UPNOONが求めるのは迅速な解決策ではなく、一歩ずつ進めていく長期的な実験だ。例えば、2022年春夏コレクションのチェックドレスは、生地の質感を際立たせながらも廃棄される布を最小限に抑えてデザインされた。「型紙はほぼ長方形で、裁断もできるだけ環境に優しい方法を心がけました」と彼女たちは説明する。

デヒによれば、3人で次のコレクションに取り掛かりながら、長い時間をかけて話し合い、個人的な体験や秘密のミューズを共有しているという。「誰に着てほしいかを何度か話し合いました」。古い絵画の歴史上の人物から友人、外出先で出くわしたひとまで、「デザインの段階で小さなミューズがずっと登場している」そうだ。実験的な要素を組み合わせながら、そのミューズを心に留めておくことで、UPNOONは独自の世界を創り上げた。

2022年に入り、3人の働き方は少しずつ変わりつつある。自動編み機を購入したことで、より多様なデザインにアプローチできるようになった。さらに、「普通のニットウェアには見られない、さまざまな実験的な織り方や表現を取り入れたコレクション」である〈UPNOON Lab〉をローンチした。将来的には、クリエイターが自由にコラボレーションできるコレクティブかプラットフォームを立ち上げて恩返しがしたいという。3人の最終的な目標は、世界中の人びとが集まって一緒に実験し、UPNOON自身が伝えてきたようなストーリーを語ってもらうことだ。

a model wears a pleated colourful GOOMHEO top with a traditional korean helmet

GOOMHEO

自身の名前を冠するブランドを立ち上げるずっと前、10代のグムホの夢は通訳になることだった。「そのあと偶然、世界中のファッションスクールのドキュメンタリーを観て、何かに取り憑かれたようにポートフォリオの準備を始めたんです」と彼女は回想する。セントラル・セント・マーチンズでの数年は飛ぶように過ぎ去り、彼女はファッションのとりこになった。「コレクションの制作が本当に楽しかった」と彼女はいう。「それが完成する頃に修士課程に志願し、自分のブランドを持とうと決意しました」

それ以降、彼女は〈Fashion East〉の支援を受けて、GOOMHEOの4つのコレクションを発表してきた。ブランドの核となる価値観は、実験性とカオスを融合し、それを際立たせるような、非現実的で大胆で斬新なマスキュリニティのヴィジョンだ。プリーツ素材、デジタルグラフィック、人間の身体の曲線をとらえる繊細なドレープなどは、一見ちぐはぐな要素に思えるが、すぐに調和を生み出す。カテゴリーとしてはメンズウェアだが、誇張されたフリルなどの女性的なタッチが散見され、人びとが自己表現するための服を作りたい、というグムホの使命を示している。

生まれたばかりのブランドを率いるデザイナーとして、彼女はFashion Eastの支援を受けた1年から多くのことを学んだという。「服作りについてだけではありません」と彼女は語る。「スタイリストと協同する方法や撮影の準備、コラボレーションの進め方などは、学校では教わらなかった分野でした」。そのなかで、多くのひとに助けられた。毎シーズンを一緒に振り返り、来シーズンの準備を進めること自体が、大きなモチベーションになったという。「大変ではなかったと言えば嘘になります。デザインの進行からコレクション制作、広報、撮影、マネジメントまで全てに携わらなければならなかったので」と彼女は打ち明ける。「ストレスで疲れ切ってしまったこともありましたが、そのたびに10年後の自分を思い描くようにしていました」

GOOMHEOをさらに発展させながら、彼女は多様で才能豊かな韓国のファッションシーンの成長の後押しがしたいと語る。長期的な目標のひとつは、現時点ではどの韓国人も成し遂げたことのない、大手ファッションブランドのアーティスティックディレクターへの就任を果たすことだという。そう語るグムホの声は、彼女ならきっとやり遂げられる、という確信に満ちていた。

a group of models wear colourful layered looks by the korean designer sung ju

SUNG JU

ソウルで活動するイ・ソンジュにとって、服のデザインは非常にパーソナルな行為だ。創作をセラピーとみなし、つらい体験を振り返りながら、作品を通して過去を受け入れ、向き合っていく。2020年はじめに公開されたSUNG JUのデビューコレクション〈Relation〉は、蓄積された記憶とそれにまつわるものを着想源としている。このテーマは、彼のキャリアとともに進化し続けている。例えば、名前の発音が名産地と同じせいで幼少期にからかわれたという韓国の黄色い瓜チャメは、あるコレクションのバッグのモチーフとなった。

SUNG JUの美学は、ストリートウェアから彫刻、建築、韓国の伝統舞踊まで、あらゆるものを着想源としている。ソウルの新旧の文化の融合が、豊かな色彩、フリル、大胆なシルエットで表現された。2ndコレクション〈Conflict〉は、個人的な衝動と抑制の対立を表現し、1930年代から1940年代にかけて流行したズートスーツを力強く再解釈した。前述のスーツや変形ボンバージャケット、立体的なオブジェクトやプリーツがあしらわれたTシャツに見られるような、ちぐはぐな形と色合いは、互いに相反する要素だが、ある種の一体感も生み出している。

「ファッションブランドを始めるのは大して難しくない、というひともいるかもしれません」とイ・ソンジュはいう。「でも、本当に難しいのは、それを発展させ続けることです。僕が見逃したり、なおざりにしてしまっている部分もありますが、その欠けている部分を補うために努力しています」。ソンジュの最終的な目標は明らかだ。それは自分の物語を共有しながら、服を着る人びとの生活に斬新で楽しい何かをもたらすことだ。2022年2月、ニューヨーク・ファッションウィークで2度目となるフィジカルショーの発表を控えているソンジュは、着々とその夢の実現に近づいている。


Credits


Creative Direction Songin
Photography Hwang Byung-moon
Styling Yoon Ji-hyun
Make-up Han Ju-young
Hair Park Giihee
Models Choi Hyun-joon, EZ, Na Jaeyoung, Jung Hyunjae, Lee Minji at Gost Agency

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