ランジェリーの常識を覆す次世代のデザイナー3選
革新的なランジェリーで、アイデンティティ、セクシュアリティ、あらゆるサイズのノンバイナリーな体を讃える3人のデザイナーにインタビュー。
Photo courtesy of Freja Wesik and by Panna Donka
Victoria’s Secretから大昔のコルセットまで、下着、特にランジェリーというカテゴリーは、伝統的な美の基準を強化する役割を担ってきた。その多くが男性視点に偏っていたり、体形やサイズ展開が極めて限られていたり、ジェンダーの視点や多様なジェンダー表現を狭めている。
何世紀にもわたり、ランジェリーとそれを取り巻く利益優先の業界は、明らかに非現実的で、かえって着用者を遠ざけるような理想を押し付けてきた。
そのいっぽうで、ランジェリーの長年にわたる常識を覆し、現代における美しさやアイデンティティの意味を探っている次世代のランジェリーデザイナーがいる。
スウェーデンのフレヤ・ヴェシク、ニューヨークのブランド〈Ramp Tramp Tramp Stamp〉のニーヴ・ゲリア、ロンドンを拠点とするデザイナーのファビアン・キシュハスは、抑制ではなくエンパワーメントする新たな基盤を築き上げた。それは身につけるが自らの体、セクシュアリティ 、自分自身を祝福する手段となっている。


ファビアン・キシュハス(Fabian Kis-Juhasz)
ハンガリーで生まれたファビアンは、ロンドン・カレッジ・オブ・ファッション入学を機に18歳でロンドンに引っ越し、その後ロイヤル・カレッジ・オブ・アートへ進学。矯正下着から着想を得たアイテムを通して、特にトランスやノンバイナリーの体験にまつわる〈女性としてのアイデンティティ〉の現代における意味を探る。
──ランジェリーというカテゴリーに惹かれたきっかけは?
私のブランドはランジェリーだけを扱っているわけではないけれど、ランジェリーは私の活動に大きな影響を与えてる。ランジェリーは女性としてのアイデンティティの象徴で、ずっとそこに魅力を感じてきた。技術や歴史も興味深くて、多くのことを学べる。
でもそれ以上に、ランジェリーの文化的な意味はとても複雑で、まだ明らかになっていないことがたくさんある。そこに制作のための無限のアイデアが眠っているの。
──あなたにとってランジェリーを身につける目的とは?
下着の従来の目的は、女性の体を封じ込め、拘束することだった。それが下着の特徴のひとつなのは確かだけど、私が興味があるのは、〈女性らしい形〉とはどういうものか、それがいかに男性の目を楽しませるためにキュレーションされてきたのかを探ること。
──ファッション分野におけるランジェリーの規範にどのように挑んでいますか?
私の制作の根底にあるのは〈覆す〉こと。矯正下着には特定の目的があるけれど、本来の目的とは相反する視覚的な言語を通して、それを覆したい。私が目指すのは理想のシルエットをつくることではなく、パワフルなものをつくること。
──体はあなたの作品にどのような影響を与えていますか?
私はいつも下着と体の関係性や下着の役割について考えてる。ランジェリーや矯正下着は、一般的に何かを〈正す〉ものとされているけれど、その捉え方は好きじゃない。その理由には、トランスの体にまつわる考えが深く関わっている。私はいつも〈胸当て〉のアイデアに立ち返るようにしている。見る人の目を楽しませるのではなく、着る人がもっと自由になれるような胸当てをデザインしたい。


Ramp Tramp Tramp Stamp ニーヴ・ガレア(Niamh Galea)
パーソンズ美術大学芸術修士過程に在籍するオーストラリア人デザイナー、ニーヴ・ガレアは、ランジェリーブランド〈Ramp Tramp Tramp Stamp〉のデザイナー。斬新な方法で体を包み込み、多様なサイズやジェンダーにに対応している彼女のアイテムは、自分の体や自分自身を見つめ直すきっかけを与えてくれる。
──ランジェリーのデザインを始めたきっかけは?
最初にランジェリーをつくったのは2017年、生まれて初めて失恋したとき。自分はセクシーじゃない、誰にも愛されない、と感じていたから、自分に性的魅力と愛を与えてあげたかった。今はランジェリーをデザインするのが大好きになった。
──あなたにとってランジェリーを身につける目的とは?
ランジェリーにはいろんな目的がある。自分と自分の体の秘密の対話にもなるし、勇気を与えてくれたり、自分を抱きしめ、認めてくれるものでもある。私の活動の主な目的は、世間で誰かを辱めるために使われている、容姿に関する中傷を見つめ直すこと。
私たちは長いあいだ、ランジェリーをつけるべき人や自分の体を誇りに思うべき人、自分がセクシーだと思える人を、社会によって決められてきた。自分のアイデンティティに〈当てはまらない〉ランジェリーを敢えて身につけることは、自分の体や自分自身を取り戻すための斬新で勇気づけられる手段だと思う。
──ファッション分野におけるランジェリーの規範にどのように挑んでいますか?
2018年、あるテレビ番組で衣装デザインのアシスタントをしていたとき、上司に呼ばれて、私がブラをしていないとプロデューサーたちの「気が散る」から、翌日からブラをしてくるように指示された。
この体験は明らかに人権侵害だし、ものすごくショックだった。私はEカップだけど、18歳からほとんどブラはつけてなかったし、つけるつもりもなかった。その日はすぐに、どうすれば従来のブラとしての機能はまったくないブラをつけられるか考えた。そこから、このアシンメトリーでちぐはぐなデザインが生まれた。
ランジェリーの規範が、私のあらゆるデザインプロセスの着想源になってる。どうすれば規範に挑み、自分を含めてその規範に当てはまらない人びとに着てもらえるか、ランジェリーをいろんな角度から眺めて考える。
──体はあなたの作品にどのような影響を与えていますか?
ランジェリーは肌の上に直接身につけるものだから、体はランジェリーにとって不可欠な存在で、そのふたつには切っても切れない関係がある。私の制作の核となっているのは、さまざまなサイズやジェンダーに対応するという意味で、柔軟にフィットすること。ファッションが大好きなのに、ずっとその世界から疎外されてきたサイズ18の女性として、伸び縮みして多様な体にフィットするアイテムづくりに積極的に取り組んでいる。
ランジェリーは、自分が恥ずかしいと思っているパーツを支えたりゆがめたりすることで、そのパーツと新たな関係を築くツールにもなる。今までまったく意識していなかった部分を強調する超セクシーなランジェリーで体を包むことで、自分の体を深刻に捉えるのではなく、もっと愛情を持ち、楽しめるようになってほしい。みんな自分が超セクシーだってことを忘れないで。大切なのは、自分が心からそう信じること!


フレヤ・ヴェシク(Freja Wesik)
スウェーデンの〈Swedish School of Textiles〉を卒業したフレヤは、Abs-Corset(腹筋コルセット)をはじめ、遊び心あふれるユーモラスなランジェリーを制作。パーソナルなデザインを通して、自らの体を探りながらアイデンティティを表現している。
──ランジェリーというカテゴリーに惹かれたきっかけは?
体、形、服が着る人の延長線上にあるという考え方が好き。それから細部にこだわって制作したり、手縫いや手縫いのアイテムも。私は自分の体を愛しているけれど、社会にカテゴライズされることで、自分自身が体から切り離されているように感じていた。ランジェリーをデザインすることで自分の体を探り、自分を表現している。
──あなたにとってランジェリーとは?
服を着るときは、まず支えのためにスポーツブラをつけて、その上にお気に入りのかわいいランジェリーをつけることが多い。誰にも見てもらえないのは悲しいけど。スポーツブラをつけていたってセクシーにはなれると思う。私にとって、下着は機能的なアイテムで、ランジェリーはみんなに見せびらかしたいアクセサリー。
──ファッションアイテムとしてのランジェリーの規範にどのように挑んでいますか?
ユーモアを通して伝統的なステレオタイプに隠されているものを探り、それをパワーを取り戻す手段にしてる。そういうユーモアを最も良く表しているのが、Abs-Corset。滑稽だけど真面目で、セクシーで、不思議なアイテム。
──Abs-Corsetのコンセプトを教えてください。
私の作品はいつもパーソナルで、実体験に基づいていることが多い。たいていは楽しむためにつくっているけど。私が思うコルセットとは、デコルテを強調し、ウェストを目立たせるためのもの。でも、このコルセットにはお腹の部分に詰め物をしてシルエットを作り変えた。着眼点をデコルテから腹筋に変えることで、見た目だけでなく下着を着る目的も変化させている。
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