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フェミニストとしてのバービー:人気着せ替え人形の60年史

今年で誕生から60年。このあいだ、バービー人形はどう進化してきたのか。どのように女性のエンパワーメントの象徴となったのか。そして2019年現在、何を背負っているのか。『Barbie: 60 Years of Inspiration』を上梓した作家スーザン・シャピロにきいた。

by Alyson Zetta Williams; translated by Ai Nakayama
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25 July 2019, 10:39am

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フェミニスト作家のスーザン・シャピロの著作『Barbie: 60 Years of Inspiration』では、世界的に有名なバービー人形には、非現実的なプロポーションやピンクまみれの洋服への批判を超越するほどの重要性がある、と明言されている。バービーのライフスタイルは、3歳以上の女の子たちに、専業主婦以外の選択肢があることを示すことを意図されていた。それはバービー発売当時、すなわち1959年に生きる女性たちにとって、先進的なメッセージだった。

「バービーの物語は、生みの親であるルース・ハンドラーの人生と重なります。ハンドラーは女性が働いたり、起業するなどありえなかった時代に、毎日しっかりおしゃれをし、メイクをして出勤していました」とシャピロは述べる。「彼女が賢くなかったとか、いわゆる女性の務めを果たしていなかったわけではありません。単に彼女がそうすることを好んでいただけ。彼女は働く女性の先駆者だったんです」

i-Dはシャピロに、アイコニックなバービー人形がこの60年どのように進化してきたか、どのように女性のエンパワーメントの象徴となったのか、そして2019年現在、何を背負っているのかを尋ねた。

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──バービーとの出会いを教えてください。

女の子がお世話する人形といえばチャッティ・キャシー(しゃべる赤ちゃん人形)が一般的でしたが、そういう人形とは違い、バービーはファッションモデルとして仕事をし、自分用のアパートや車を所有する、イケてるティーンエイジャーでした。1960年代、中西部の昔ながらの大家族に生まれ、男兄弟と育った私の将来は、母のような専業主婦になるか、父のような医者になるかの二択。兄弟はみんな、父と同じ道を選びました。でも、世界にはそのふたつの道以外にもいろんな可能性がある、と教えてくれたのがバービーだったんです。そこからバービーに夢中になりました。

私は自立した彼女を真似て、両親にオレンジ色のカトラスをねだり、16歳のとき、それに乗って大学へ通いました。また、バービーでさまざまな職業をロールプレイングすることが、不安定なフリーランスの道を進むきっかけとなりました。

──バービーは反フェミニズムの象徴であり、女性の身体を必要以上に性的対象として提示していると批判されることも多いですが、これについてはどうお考えですか?

働く女性が男性の目を意識しておしゃれすると、〈バッドフェミニスト(悪いフェミニスト)〉とみなされていました。ロクサーヌ・ゲイが同名のエッセイ集で、フェミニズムが矛盾を内包する、と指摘する何十年も前のことです。その矛盾とは、フェミニストだけどピンク色が好きで、性差別的なラップミュージックが好きで、『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』より『ビバリー・ヒルズの妻たち』のほうが好きとかそういうこと。

いっぽう、フェミニズム活動家のグロリア・スタイネムはかつて自らを「反体制文化の実物大バービー人形」と称しました。彼女の写真でもっとも有名なのは、スクープをとるために潜入していたプレイボーイクラブのバニーガールの姿でしょう。彼女はバービーのように細くて、ストレートで、白人で、美人だったからこそ、ベティ・フリーダンやオードリー・ロードを超える、女性運動の象徴となった。でもグロリア・スタイネムとそのファンたちは、1965年に発売されたバービー人形と同時期に出版された『How To Lose Weight(やせる方法)』という自己啓発本が女性の自尊心を傷つける、と考えていました。

『Barbie』を書くさい、私はバービーをそれぞれの時代の潮流に当てはめて考えました。雑誌『コスモポリタン』の伝説の編集長、ヘレン・ガーリー・ブラウンのベストセラー書『シングル・ガール 独身女性の甘い生活』を、生意気にもなぞったような感じです。ルース・ハンドラーと同時代に生き、さらに彼女同様貧しい家庭に育ったブラウンは、賛否両論あれど、情熱とパワーを追求した先駆者的な女性のひとりです。自らのほっそりとした体躯、ファッション、職業に誇りをもち、初期のリップスティック・フェミニズムを体現しました。「仕事は愛する対象であり、ハッピーになれるお薬であり、自分や自分ができることを知るための手段であり、遊び場であり、家族」とブラウンは記しています。

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──あなたは本書の冒頭で、バービーの生みの親であるルース・ハンドラーは、幼い女の子の自尊心にとって「胸が大きいお人形と遊ぶこと」が重要と考えていた、と彼女の言葉を引用して指摘しています。それについて詳しく教えてください。また、女の子たちの心に、バービーのプロポーションはどのような影響を与えたでしょうか。

幼い娘バーバラとその友だちが女性をかたどった紙の着せ替え人形で遊ぶ姿をみたルースは、「良妻賢母になるよう女児たちに教えこむベッツィ・ウェッツィ(Betsy Wetsy)、タイニー・ティアーズ(Tiny Tears)、チャッティ・キャシーのような赤ちゃん人形はもういらない、人形遊びは大人に憧れる女の子の夢でなければならない」と考えました。フロイト的精神分析マニアの私は、ルースがアーネスト・ディヒターの協力を得ていたことに興味を抱きました。ディヒターは購買のモチベーションを分析したウィーンの心理学者で、オープンカーの所有は性的満足の代用という説などを唱えた人物です。ディヒターは女児191人と母親45人にインタビューをし、「バービーは優しくてフレンドリーか、それとも虚栄心が強く、自己中心的で派手か」と質問しました。すると母親たちは、安っぽく下品だ、という理由でバービーを好まないことが明らかになりました。だからこそ私は好きなんですけどね。いっぽう、大半の女児たちが、脚が長く胸も大きくセクシーでゴージャスなバービーに憧れていることがわかりました。そして、ディヒターはバービーの胸をさらに大きくすることを提案したんです。

また私が魅力を覚えたのは、ルースが女友達と同棲し、十代の頃から働いていたワーキングウーマンだったということ。彼女は結婚後、専業主婦としての生活に退屈します。1960年代には黒人のバービーを作り、人種差別反対という政治的なメッセージを打ち出します。バービーは独身で、ケンはただのボーイフレンドであり、夫ではない、と彼女の姿勢は一貫していました。彼女はバービーにもさまざまなキャリアの選択肢を与え、現実の女性たちがまだ就くことのできない職業をバービーに体験させました。フェミニストたちはバービーのボディイメージばかりに注目しすぎていると私は思います。

──バービーの失敗作はありますか?

マテル社は人気がなかったバービーの友人ミッジを、赤ん坊がお腹の中にいるかたちで再販したんですが、十代の妊娠を奨励している、として親たちの反対に遭いました。結局発売中止になりましたが、eBayでは数千ドルで販売されています。

あと、身体が不自由で車椅子に座ったバービーも販売されましたが、車椅子がバービーのドリームハウスや、その中のエレベーターに入らない、ということもありました。

喋るバービーで騒動が起きたこともありました。背中の紐を引っぱると、「数学ってすごく難しい」とか「結婚式の計画を立てるのが楽しみ!」と話すバービーなんですが、BLO(Barbie Liberation Organization: バービー解放機構)と称する団体が、店に並べられたバービーを数百ドル分盗み出し、声のデータが収録されたボックスをG.I.ジョーの声のボックスと入れ替えたんです。つまりそのバービーは、「銃を撃て!」とか「ぶっ殺してやる」とかいうセリフを口にする羽目になった。実はこれ、『ザ・シンプソンズ』のパロディなんですよ。

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──バービーの歴史を紐解くことで、あなたが抱くバービーの印象は変わりましたか?

ルース・ハンドラーにより強く感銘を受けましたし、バービーは一貫してフェミニストだったんだ、といよいよ確信しました。

──バービーの容姿を理由に、ロールモデルとして否定することの危険性は?

かわいくなりたい、と思うことは、フェミニストであることのアンチテーゼではありません。私は熱烈なフェミニストですが、男性が好きだし結婚することにも賛成です。それは両立しないと世間では思われてますが、そんなことありません。実際、私がそうなんですから。フェミニストという言葉の意味をどんどん開拓していかないと。セクシーな身体であることと、フェミニストであることは両立します。すべての女性が同じアイデンティティじゃなきゃいけないわけじゃありません。

グロリア・スタイネムがバービーのような細い身体を奨励することに反対した理由はわかります。いっぽうで、彼女が女性運動の象徴として選ばれた理由もそこにある。若い女性たちは、フェミニストになるにはかわいくあること、ハイヒールを履くことを諦めないといけないのでは、と感じるとフェミニズムを放棄してしまう。フェミニストはビキニを着ちゃダメなんだ、と思わせてしまったら、賛同者が集まりません。今はそんなことを言っていたらダメなんです。

──バービーは今の時代、そしてこれからの時代においても私たちのロールモデルであり続けるでしょうか。

マテル社の賢明な決断により、バービーは復活を果たしたと思います。たとえば〈Shero(シーロー:She+Hero)〉シリーズ。モデルのアシュリー・グラハム、体操選手のガブリエル・ダグラス、映画監督のエイヴァ・デュヴァーネイなど、有名な女性たちをモデルにした人形のシリーズです。マテル社は彼女たちのような、現実に生きるすてきなロールモデルを人形にしているんです。つまりバービーは、自分の可能性を最大限に発揮し、好きなことを何でもできる女の子。また、つい最近『Time』誌の表紙に載っていたのをみましたが、背が高い、背が低い、カーヴィーな体型、という3種類のバービーが登場したのも面白いと思います。ビジネスで成功するには、常に自分を変えていく必要があると私は思ってます。特に女性はそう。年を重ねるにつれて、自分を改革しなきゃいけないんです。

バービーは見事な芸術作品だということを、ルース・ハンドラーはよく理解していたと思うんです。1体のバービーは3〜10ドルで購入できます。この手の届く値段設定こそが、米国人女性の92%がバービーを持っている理由のひとつ。またバービーのお洋服や家具は、世界のデザイナーの作品からインスパイアされたものです。女の子が夢中になるに決まってますよね。すてきですもの。

バービーのコレクターの存在も欠かせませんね。私のように、バービーと育ち、大人になってからバービーを蒐集しはじめたひとがたくさんいます。私はプレゼントとしても買いますし。3〜10ドルで買えるのに、大事に飾っておくことのできる美しいプレゼントです。懐かしさもありますしね。

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This article originally appeared on i-D US.

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