若者はなぜ〈普通〉を嫌がるのか? 『アメリカン・アニマルズ』監督が語る、ポスト・トランプ時代とSNSの重圧

実際に起こった学生による強盗事件を革新的な手法で描いた映画『アメリカン・アニマルズ』。バート・レイトン監督が、〈普通〉を嫌がるSNS世代、『万引き家族』、現代にリアリティが求められる理由を語る。

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17 May 2019, 5:15am

2004年にケンタッキー州トランシルヴァニア大学の図書館で学生4人が起こした強盗事件を映画化した『アメリカン・アニマルズ』は冒頭で「これは真実に基づく物語ではない」と警告した後、一転、「真実の物語である」と宣告する。それは〈実話に基づく〉典型的なハリウッド映画へのアンチテーゼの声明である。

〈実話に基づく〉という但し書きは、かつては物語に信憑性を与えるものだったが、いまやそれは美談や悲劇の誇張のために、マーケティングの手段として消費されている。これまでドキュメンタリーを手がけてきた監督のバート・レイトンは、真実と事実の境界線を探るべく、型破りなアプローチを採用した。

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© AI Film LLC/Channel Four Television Corporation/American Animal Pictures Limited 2018

平凡な生活に幻滅したウォーレン(エヴァン・ピーターズ)とスペンサー(『聖なる鹿殺し』のバリー・コーガン)を中心にした大学生4人組が、希少本として知られるジョン・ジェームス・オーデュボンの画集『アメリカの鳥類』を盗み出すドラマを進行させるのと並行して、事件を起こした張本人へのインタビューを敢行し、そのふたつのパートを隔てることなく融合させたのである。

「確かにハリウッド映画に対する皮肉でもあります。実話に基づいた映画は多く作られていて、よくエンドクレジットで実際の人物の写真が出てきますが、ちょっと違うと感じることがある。描かれているストーリーがどこまで実話で、どこまでフィクションなのか疑問に思うことがあるのです。この映画は誇張もしてないし、作り話でもない。常に実話だということを観客に思い出してほしかった。実生活に起こり得ることで、誰もが体験し得るかもしれない。だからドキュメンタリーの要素も挿入したのです」

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© AI Film LLC/Channel Four Television Corporation/American Animal Pictures Limited 2018

このハイブリッドなストーリーテリングの原点は、英国でドキュメンタリー史上歴代最高収益を記録したレイトンの前作『The Imposter』にある。23歳のアルジェリア系フランス人のフレデリック・ボーディンが、3年間行方不明になっているテキサスの少年を装い、彼の家族と約5ヶ月間ともに暮らした1997年の事件を扱ったこの作品でも、レイトンはなりすまし犯自身にその詳細を告白させた。同時に、彼あるいは少年の家族が語る回想とフィルムノワール風に再現したドラマとを巧妙に組み合わせることで、ドラマとドキュメンタリー、過去と現在をシームレスに織り交ぜていた。

「『アメリカン・アニマルズ』は、『The Imposter』を反転させたバージョンだと言えます。『The Imposter』はドキュメンタリーでフィクションの部分がある。ドキュメンタリー自体が物語を動かしています。一方、本作の場合はその逆で、ドラマのなかにドキュメンタリーの要素が入っている。それによって、観客により深く物語やキャラクターとつながってほしかったのです」

特徴的なのは、どちらも信頼できない語り手が独白する物語の再現になっていることだ。本作に挿入されるインタビューでは、4人の意見が一致しない箇所があり、物語は彼らの記憶によって時に語り直される。レイトンは『The Imposter』に続き、記憶の主観性や自己欺瞞を主題として扱っているのだ。

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© AI Film LLC/Channel Four Television Corporation/American Animal Pictures Limited 2018

またインタビューを組み込んだ構成自体は、『アイ、トーニャ 史上最大のスキャンダル』と近いと言える。しかし俳優があたかも虚構の取材を受けているかのように演じていた『アイ、トーニャ』では現実からある種の抽象化が行われているのに対して、本作では本人と彼らを演じる俳優にその役割を共有させ、場面によっては彼らを交わらせることで、現実と虚構をより曖昧にさせている。複数の真実の可能性を維持することが試みられているのである。

「劇中でも何が真実か明確に示してはいません。観客にいかにストーリーがフィクション化していくのかを感じてもらうために、あえて4人のつじつまの合わない供述をそのまま取り入れました。『アメリカン・アニマルズ』のインタビュー部分には脚本はありませんが、『アイ、トーニャ』の場合は、役者がその場面を演じています。好きな映画ではありますが、ひとつの物語だけで、様々な視点がない。なぜあの部分を作品に含めたのか、観客を物語により強く引き込む効果が果たしてどこまであるのかはわかりません」

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© AI Film LLC/Channel Four Television Corporation/American Animal Pictures Limited 2018

「複数の人の証言を集めたら、それぞれの意見は違ってきます。記憶は信用できないものであり、常に流動的でいくらでも書き換えられてしまう。特にウォーレンの話を聞いていると、もしかしたら彼はこの4人のキャストを使って自分のなかで映画を作り上げていっていたのではないか、という感覚も出てくるかもしれません。またエリックは、「俺たち版の『ファイト・クラブ』みたいだ」と語っていました。彼らは自分たちだけの特別な秘密を持つことによって、他人と自分たちを区別し、優位に立てるものだと考えた。しかし彼ら全体がファンタジーの世界に入り込み、中毒のような状態で抜け出せなくなったから、自分自身を失い、あのような誤った判断を招いてしまったのだと思います」

大学生の4人は『レザボア・ドッグス』を真似て互いをコードネームで呼び合い、『華麗なる賭け』や『オーシャンズ11』を参考にして強盗の計画を立てる。彼らは、雪片のように個性的であることに執着しているが、指針を持っていない。ただ何かを達成して世に名前を刻みたいという欲望に支配されているのだ。彼らには、周囲の人間よりも自分の方が賢く偉大で特別な存在に違いないと思い込む「スペシャル・スノーフレーク・シンドローム」や「有害な男らしさ」が見受けられる。

「そのテーマが核にあります。現代の風潮には何か特別な人間にならなければならない、記憶に残る功績を成し遂げるべきだというプレッシャーがある。SNSの登場によって、有名人がより身近な存在になり、彼らのようになれるという妄想を抱いてしまう社会でもある。親からの非現実的な期待もあります。足跡を残さず、「普通」の人間になってしまうと、「ルーザー」になるという認識が広まっている(この「ルーザー」はトランプがよく使う言葉ですね)。いまの風潮を探究した強盗映画にしたかったのです」

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© AI Film LLC/Channel Four Television Corporation/American Animal Pictures Limited 2018

『The Imposter』のボーディンも『アメリカン・アニマルズ』の4人もほかの誰かになりたいと考えているように見える。そのためなら彼らは手段を選ばない。イギリス人であるレイトンが描いた本作は、他人を犠牲にして自己実現を求めるアメリカンドリームの物語として見ることもできるだろう。

「誰もがアメリカの文化には影響を受けていると思います。ただ、アメリカンドリームの基準が変わってきている。彼らの親の世代にとって、成功は努力によって手に入れられるものでした。かつては努力をすれば、いい家もいい車もいい人生も手に入れられたし、子どもの大学費も支払うことができた。しかし、いまは大金持ちになることや名声を得ることが成功になっている。ニューアメリカンドリームと言えると思います。だけど、それを達成するのは難しい」

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© AI Film LLC/Channel Four Television Corporation/American Animal Pictures Limited 2018

「それはイギリスでも同じです。「普通」ではつまらないという感覚に変わってきている。それが平均だからほとんどの人がそうであるはずなのに、みんな上を目指したくなる。本作の4人のように知名度ばかりを求めてしまうと、自分のステータスがどこにあるかを常に気にしてしまうので、いまを生きることができなくなる。自分のためではなく、Instagramのいいねのために生きるようになるんです。ダニエル・ジョンストンは、〈映画のなかで生きられたらどれだけ楽しいだろう〉という風に歌いましたが、まさに彼らはそうですよね」

また『アメリカン・アニマルズ』が現代映画のひとつの潮流とも重なることも興味深い。近年、クリント・イーストウッド『15時17分、パリ行き』やクロエ・ジャオ『ザ・ライダー』、あるいはショーン・ベイカー『タンジェリン』など、当事者がドラマに加わることでフィクションと現実のスペクトラムを超える映画が増えつつある。

「『ザ・ライダー』はすばらしく革新的な作品だと思います。でももしあの映画のなかの彼らが本物の人物だと知らなかったら、自分の解釈が違っていたかもしれない。ポスト・トランプ時代のいまは、真実が置いてけぼりになっているから、人々はより強く真実を求めていると思う。特にアメリカではスーパーヒーローものが多く、ほかの作品を観たい人は映画のなかにもよりリアリズムを求めていると感じます。最近、『万引き家族』を観ましたが、私たちの身近に感じられて感情移入できる作品で、とてもリアルに感じました。特にドキュメンタリーやノンフィクションの要素がなくても、リアルに見せることはいくらでも可能なのだと思います。例えば、そのひとつの方法がキャスティングです。スター俳優をキャスティングしたら、これは映画の世界だと観客は感じて、そのあいだに距離が生まれてしまう。だからどう作り描くのか、監督の選択が重要になってくると思います」

アメリカン・アニマルズ
新宿武蔵野館/ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開中