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「私には悪夢がある」現代社会に切りこむノー・ウェイヴのレジェンド:リディア・ランチ interview

ノー・ウェイヴのアイコンが、最新の著書『So Real It Hurts』、アンソニー・ボーデインとの関係、政治的混乱への反抗について語る。「この本は26の出版社から〈辛辣すぎる〉と断られた」

by E.R. Pulgar ; translated by Nozomi Otaki
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04 September 2019, 10:40am

Photo by Marcia Resnick. Getty Images.

終末に近づきつつある不穏な時代に、リディア・ランチが一石を投じる。Seven Stories Pressから出版された最新エッセイ集『So Real It Hurts』で、彼女はトランプ大統領、警察、自らが抱える不眠症、そして私たちを愚かで無気力なゾンビに変えようとしている社会の権力者たちに向けて、辛辣な言葉を綴っている。

1970年代、ロウアーイーストサイドの薄汚れたパンクシーンで頭角を現したリディアは、既存の概念を打ち破り、ノー・ウェイヴのレジェンドとなった。その大胆不敵さに定評のある彼女は、本著でも苛烈ながら痛快な毒に満ちたユーモアをもって、現代社会を鋭く描写、批評している。

シェフ/作家のアンソニー・ボーデインは、本著の見事な序文(彼の遺作となった)のなかで、リディアは「同じ部屋の醜さや痛みから、いちども目を背けたことがない」と述べている。

エッセイの内容は、『夢へのレクイエム』著者のヒューバート・セルビー・ジュニアへのインタビューから、彼女自身のひとり旅やギリシャ・ローマの酒池肉林にまつわる考察、彼女の抗議文〈I Have a Nightmare〉の書き起こしまで多岐にわたる。どのエッセイにも、リディアのユニークな主張、闘志あふれる視点がはっきりと表れている。この悲惨な時代のなかで、彼女は、持ち主と同様に饒舌で痛切なペンをとって米国と世界に目を向ける。

「私の言葉が暴力的すぎて読者の目が焼けるというなら、それでちっとも構わない」とナッシュビルにいるリディアは電話で言い放った。「今日は35℃もあって銃弾が汗で滑るから、正しい方向を狙えるかわからないし」

そんなリディアが、最新の著書、アンソニー・ボーデイン、ノー・ウェイヴ第一人者としての放浪生活、現代の堪え難い政治的混乱に抗いつつ快楽を見出す方法について語る。

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Photo by Marcia Resnick. Getty Images.

──この本のアイデアはどこから?

今の時代に関するエッセイ集を出さなければと思ったんです。みんながあのペンシルベニア大通り(※合衆国議会議事堂とホワイトハウスを結ぶ道)のバカ野郎に不安を感じている、そんな状況にジレンマを抱えずにはいられません。

──ちょうどそのことについてお聞きしたかったんです。〈I Have a Nightmare〉という作品について教えてください。

去年、THE LAST POETSのウマル・ビン・ハッサン(Umar Bin Hassan)と、この作品を朗読しました。これは「マーティン・ルーサー・キング・ジュニアは米国政府に暗殺された」という一文から始まります。「私には夢がある」というキング牧師の有名な言葉があるけれど、私にいわせれば、「私には悪夢がある。それはドナルド・トランプだ!」

それから、私が記事を書くまでに集めた、トランプがこれまでに犯してきた犯罪にまつわるすべての統計データを読みあげます。もちろん、彼の罪は今も増え続けています。トランプがついた嘘を時系列順に記録している『The Washington Post』の記事みたいに、この本の続きもFacebookでアップデートしていくべきかも。もう1万は超えてるはず。

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Photo by Janette Beckman. Getty Images.

──8月5日の時点で、1万2019個ですね。

彼の嘘はどんどん大げさになっていきますね。この本は26の出版社から「辛辣すぎる」と断られたんですが、もういい加減にして!っていう感じで。結局出版してくれることになったのは、アンジェラ・デイヴィスの著書も出しているSeven Stories Pressでした。どうして私の本を選んでくれたのか訊いたら、ほぼ全部の章で笑ったから、といわれて。彼らがきちんと理解してくれたことがわかったので、ここで出してもらうことにしたんです。

──この本のなかで、社会的な基準から考えると、議論を呼びかねない部分についてもお話しいただけないでしょうか。個人的には、母性についてのエッセイが印象に残りました。

この国の社会はとんでもなくバカげていて、旧態依然としていて、時代遅れ。みんなが子どもをもつのも、いまだに人種差別や貧困が存在することも、受刑率が上がり続けているのもおかしいと思う。これは全部、あのホワイトハウスのバカが広めていること。

でもこの本にあるのは怒りだけじゃない。ユーモアだってたくさんあります。怒ってるようにみえるかもしれないけど、私は自分の言葉で語っているだけ。私はどこかに爆弾を仕掛けるわけでも、誰かを殺したり、奴隷にしたり、国境で捕まえて檻に入れているわけでもない。ただ話しているだけです。それなのに問題視され、私に敵意が向けられる。

でも、言葉だけでどうやってこの問題を誇張しろっていうの、と訊きたい。 私がどれだけ怒っているかを表現できるほど強烈な言葉なんて存在しません。それでも私は自分をコントロールして、笑ったり楽しい気分になることもできます。基本的に快楽主義者なので。快楽主義こそが、唯一の反抗の手段なんです。私が爆弾、銃弾、銃剣を選んでいないのは、正直奇跡だと思う。自らの怒りを、言葉や論理、概念、解決策ではなく、とても暴力的な手段で訴える男たちは腐るほどいるから。

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Photo by Ebet Roberts/Redferns. Getty Images.

──特に多いのは白人男性ですね。

私がいってるのは個々の白人男性ではなく、精神的にも倫理的にも破綻した、口から語るあらゆる言葉で略奪や暴行を働く、権力の座にある白人男性です。この国にはそういう行為が蔓延していて、過去に比べたら最悪とはいえないにしても、誰かがそれを先導しているせいで、私たちはその弊害を目の当たりにしている。

このホワイトハウスのクソ野郎が広めていることは、米国のあるべき理想の姿とはなんの関係もありません。今のこの国は、嘘と偽善のうえに成り立っている。この国が万人の自由に基づいてつくられたなんて、いえるわけがありません。この国をつくったのは、狂信的になる自由を求めた狂信的な信者で、先住民を殺し、孤立させたひとたちです。合衆国建国の父? ただの奴隷所有者ですよ。移民の女性と2回も結婚しておいて、自由を求める他国のひとびとを認めない大統領も同じです。

──この本のなかの〈The Spirit of Philosophical Vitriol〉は、何度も読み返しています。虐待的で性差別的なイスタンブールの特権階級の男性の形勢が逆転するというストーリーで、この作品もあなた自身の孤独に切りこんでいます。ひとりの世界へと潜りこむことで、安らぎを見出すことができるんでしょうか?

私はフィクションは書きません。でも、これは起きる〈べきだった〉ことに少しだけ脚色した物語です。ふたりのバカな白人が性的な成功体験を自慢しているのを聞いて、彼らの形勢を逆転させて、搾取を記録しようと考えたんです。ありえたかもしれない、起こるべき話。相応の報いですよ。

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Photo by Marcia Resnick. Getty Images.

──あなたが放浪していたという部分も本当の話ですか?

もちろん。だって私はノマドだから!

──パンクについてもお聞きしたいと思います。ヒューバート・セルビー・ジュニアへのインタビュー、そして作家ハーバート・ハンケの詩的な人物評は、どのように実現したんでしょう? あなたはノー・ウェイヴの中心人物として、〈パンクのなかのパンク〉とみなされていました。ビート・ジェネレーションからマルコム・マクラーレン、THE SEX PISTOLSまで、既存の概念を打ち破ってきた同時代の仲間たちについて教えてください。

ハーバート・ハンクは最初のビート・ジェネレーションでした。(ウィリアム・)バロウズや(アレン・)ギンズバーグは、彼から全部盗んだんです。ハーバートは〈負け犬〉でした。私自身はビート・ジェネレーションのファンではないけれど、ヒューバート・セルビー・ジュニアやヘンリー・ミラー、それから人生、トラウマとセックス、米国の愚かさについて書いている作家たちのファンでした。

セルビーは死後もほとんど知られていません。みんなが知っているのは『夢へのレクイエム』だけ。彼は現実を書いていました。貧困に苦しんだ彼は、米国商船の隊員に加わり、結核を患い、肺を失い、何年も入院したあと、7年かけて第一作にして名作『ブルックリン最終出口』を書きあげました。こういう作家たちがもっと話題になるべきです。彼らは、特にハンクは、真実を語っていました。彼は間違いなく、どんなパンクよりもパンクらしかったと思います。

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Photo by Chris Felver. Getty Images.

──パンクといえば、アンソニー・ボーデインの話に戻るのですが、彼はどういう経緯で序文を書くことになったのでしょうか?

アンソニーから、彼の最期の出演番組となった『アンソニー世界をかける』の「Lower East Side」に出てほしい、と頼まれて。その2日後に、序文の執筆を依頼したんです。ふたりでお互いの書いたものを読み合いました。最初はこの本のアピールになるかもしれない、政治に詳しい女性ライターに頼もうと思っていたんですが、私の生い立ちを理解しているようなひとが思い浮かばなくて。でも、アンソニーは適任でした。

彼はロバート・クワイン(Richard Hell & The Voidoidsのギタリスト)やルー・リードが好きで、私たちは音楽の趣味も似ていました。彼が私の本の序文を書き、私が彼の番組の最後のエピソードに出たんです。彼と会ったのは3回だけでした。

──カウンターカルチャー的な視点や、旅と発見への飽くなき探究心が、おふたりの共通点だったような気がします。

彼はパンクで、私はノー・ウェイヴだったけど、最後にはひとつになりました。出版の助けにはならなかったけれど、彼は最高の仕事をしてくれたと思います。

リディア・ランチの最新作『So Real It Hurts』はSeven Stories Pressから発売中。購入はこちら

This article originally appeared on i-D US.

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