LGBTコミュニティの先進的未来を描くプロジェクト「Dream Babes」

「少数派コミュニティのなかで周縁化されている人々に自己表現のチャンスを」——SFアートグループがイベントを開催。

by Tom Rasmussen
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17 October 2016, 11:14am

「LGBTQIA+コミュニティ」は扱いが難しい言葉だ。個人のセクシュアリティやジェンダーによって社会から周縁化された人々が、共感や助け合いを求め、そして人生を謳歌しようと自分に適したコミュニティを探すとなれば、やはり彼らはまず「LGBTQIA+コミュニティ」を思い浮かべるだろう。しかしその一方で、すでにLGBTQIA+として周縁化されて生きてきた人々の一部が、この「同胞」であるはずのコミュニティのなかでも特に周縁化されているという現実もある。

西洋における教育、歴史、社交、科学はすべて、生まれ持った身体的性別と自らの性自認が一致する(シスジェンダー)白人ストレート男性を中心に考えられ、成り立ってきた。そのなかでLGBTQIA+の人々は度重なる無力感と暴力、そして抑圧に苦しんできた。しかし、LGBTQIA+コミュニティは多様な人々で成り立っており、ゆえにそれぞれが体験してきたものも実に多様なわけだが、そのなかでも少数派となる人々の体験談などが表面化することは少なく、世界が注目するのは常に白人シスジェンダーのゲイ男性たちのストーリーだという現実がある。シスジェンダー白人ゲイ男性は、LGBTQIA+コミュニティのなかでも、そしてコミュニティの存在に頼らなくとも、より多くの力とチャンス、そしてプラットフォームを与えられているのだ。

「Dream Babes」は、そのような白人シスジェンダー男性中心の世のあり方を問い、「周縁化されたコミュニティのなかでさらに周縁化されている人々の過去と未来についてもっとよく考えよう」と発足されたプロジェクトだ。フィクションの形式を用い、「もしも社会のあり方が有色人種の性的少数派中心だったら」という想像を促そうというのがこのプロジェクトの手法だ。

「このプロジェクトは、LGBTQIA+コミュニティのなかで周縁化された人たちが常に感じている"落胆"と"無力化"に焦点を当てています。フィクションの形式を用いて物語を描くという手法は『もしも世の中がこうだったら』という現実逃避になる一方、いま現実としてあるこの無慈悲な社会構造のなかでいかに自分たちの立場を良い方向に転換していけるかを想像するためのツールでもあります」と、ロンドンにあるギャラリーAuto Italia South Eastと共に「Dream Babes」プロジェクトを立ち上げたヴィクトリア・シン(Victoria Sin)はi-Dに語った。

この空想的・科学的フィクションプロジェクトが焦点を当てているのは、テクノロジーや科学の進歩ではない。その焦点は、あくまでも人種差別や男性至上主義、女性軽視、トランスジェンダー排除が存在しない世界を想像するということ、そしてそのような世界が依然として理想にとどまっているという現実に当てられている。

「Dream Babes」は今後も継続的に進められるプロジェクトだ。もともとは、月一回のSFクィア小説朗読会やグループディスカッションから始まった。「読書から始まったんです。SF小説を読むことで現実逃避ができた。有色人種の女性が主人公の物語を読んでいると、自分の経験と重なって感情移入できるわけです。でもメディアや雑誌、映画で扱われている物語のほとんどは、白人シスジェンダーの経験を中心に描かれているのが現実」とシンはプロジェクトのアイデアが生まれた経緯について語った。

このプロジェクトは、生産的であることを目指している。未来を想像し、今ある現実のなかで有色人種のクィアやトランスジェンダーの人々が辿ってきた過去の体験を共有し、その意味を認め合い、祝福し、受け入れるためのスペースを作る。そして、彼ら彼女らの体験と尊厳が、シスジェンダー白人男性たちのそれと同じだけの重みを持って語られる社会を作ることが、このプロジェクトの目的だ。「アンチ規範のあり方について、クィアの世界ではさまざまな議論が取り交わされていますが、結局はこの『アンチ規範』とは一体なんなのか、それを実際に試してみたときに、私たちはどうなるのかを考えなければならない。そこで必要となるのが、クィアとしての体験を世に発信していくための生産的なメディアです。ひとびとが共鳴できる体験として物事を語ることの重要性はこれまでも多く語られてきました。しかし、いま考えるべきは『ではそこで私たちはどう自分たちの未来を想像し、構築していけば良いのか?』『それはどんな未来なのか?』という点なのだと思うのです」

「Dream Babes」のイベントが、その疑問への答えを握っている。「ほとんどが有色人種のクィアの人々ですが、そう限定しているわけではありません。イベントの趣旨として『少数派コミュニティのなかでさらに周縁化されている人々』を中心的存在としているので、そこにはクィアの有色人種、女性、そしてトランスジェンダーの視点が多く含まれることになります。DJワークショップは、主に女性やトランスジェンダー、男女というジェンダーのいずれにも属さない人々を対象としています。とはいえ、黒人女性や有色人種女性はなかでも特にDJへの道が閉ざされてきた過去があるので、そういった女性たちを主に招致しています。無料で参加できるイベントで、これを機に多くのひとびとにデッキに立ってもらい、それぞれ独自の音楽を作っていってもらえればと思っています」

ふたつめのイベントは、クリストファー・キルビ(Christopher Kirubi)とカサンドラ・グリーンバーグ(Cassandra Greenberg)によるスペシャル・ティアーズ(Special Tears)と何かをやろうと話しています。ふたりは今、Space Studiosのレジデンスに採用されていて、私たちとはDJ3人とからめてスロージャムのセッションやパフォーマンスを予定しています。2時間のスロージャムセッションでは、人々に少しゆっくり「世界の隔たりはどこから生まれているのか」「どうしたら皆が一体となれるのか」を考えてもらう空間を作りたいと考えています。イベントにはすべて無料で参加できるようになっていて、ドリンクも安い価格設定にします。スロージャムセッションの後は、11時までBBC AZN Networkのマナラ(Manara)がオープニングパーティでDJをやってくれる予定です」

他にも、有色人種のクィアやトランスジェンダーの人々が作品を作り、語り合い、踊り、集まり、スキルを教えあい、そしてお互いを高め合えるイベントが目白押しだ。「周縁化されている人々は、その存在も体験談も、忘れ去られるのが早い。女性に開かれていたスペースが他のスペースに比べて急速に失われていったのも、そういうことです」とシンは説明する。「女性のためのスペースが多く失われたことにはさまざまな要因があったわけですが、ロンドンでは全体的に、周縁化された人々のためのスペースの存続が困難になっています。『スペースがなくなっていく』という言葉をよく耳にしますが、"有色人種のクィアやトランスジェンダー"のためのスペースは、最初から存在しなかったんですよ」

クィアコミュニティにおいて、周縁化されている人々自身が声を上げなくてはならないというのは理にかなっていない。彼ら彼女らがきちんと社会に存在を認知されるよう声を上げるべきは、もっとも社会的力を持った人々なのだ。しかし、有色人種のクィアやトランスジェンダーの人々にスペースを作り上げることが優先事項として認識されない現実があるなか、それでもこの「Dream Babes」プロジェクトに携わっているひとびとは、それを自分のこととして必死に取り組んでいる。

「とても疲れるプロセスではあります」とシンはいう。「これまで『この"人種問題"に関してどう自分たちが手助けできるか』と申し出てくれた、白人ゲイ男性の友達がたくさんいました。でも、ほぼ確実に議論になるんです。私は、彼ら白人ゲイの人々に『他の白人ゲイ男性の友達を教育して』と言うんです。まずはシスジェンダーの白人LGBTQIA+の人々が、私たち有色人種LGBTQIA+の悩みを深く理解すべきだと思うからです。でも彼らは決まって「んーそれは難しいな」と言うんですよね。そこで私はいつも『何ができるかと訊いてきたから正直に答えたのに』と、とても腹が立つんです。きちんと話を聞いてもらえていない、細かいニュアンスを聞き取ってもらえていないという、この感じ——多くの有色人種クィアおよびトランスジェンダーは、多かれ少なかれ誰もがこんな思いを経験してきていると思います」

「Dream Babes」が目指すのは、有色人種のクィアやトランスジェンダーが重苦しさを忘れ、パワーを感じられるスペースを作りだすこと。LGBTQIA+コミュニティは、平等が確立された場でもなければ、一致団結したコミュニティでもないのが現状なのだ。

周縁化された人々のグループのなかでもさらに周縁化されたグループに属しているというのは「水底から、湿気について話すようなもの」とジャレッド・セクストン(Jared Sexton)は表現している。楽天的な見方をすれば、この周縁化がコミュニティの細分化を生み、有色人種LGBTQIA+のひとびとそれぞれに最適なコミュニティを生む可能性が生じる。「Dream Babes」が、そんな少数派コミュニティのなかで周縁化された人々にとってイキイキできる場となることを、シンは願っている。

Credits


Text Tom Rasmussen
Translation Shinsuke Kuriyama at WORDSBERG Inc.

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