AKKO WEARS T-SHIRTS CARHARTT. BRA CURIOS. CORSET CHIKA KISADA. LEGGINGS NIKE. PANTS SASQUATCHFABRIX.

「らしさ」からの自由:あっこゴリラ

私たちの周りに溢れている〈普通〉や〈らしさ〉はどこからやってくるのだろう? ウルトラジェンダーなラッパー・あっこゴリラが自身初となるエッセイを書き下ろし。1stフルアルバム『GRRRLISM』に収録予定の新曲「グランマ」の原点がここに。

by AKKOGORILLA
|
18 October 2018, 12:32pm

AKKO WEARS T-SHIRTS CARHARTT. BRA CURIOS. CORSET CHIKA KISADA. LEGGINGS NIKE. PANTS SASQUATCHFABRIX.

この記事は『i-D Japan No.6』から転載しました。

「わたしの名前はサオリです。おばあちゃんという名前ではありません」。あるとき、わたしの祖母がそう言った。ちなみにサオリは仮名。送迎のために我が家に来ていたデイサービスの介護士さんが、行くのを嫌がる祖母に「おばあちゃん!」と声をかけたのに対して、そう言い返したのだ。この話を聞いて、どう思うだろうか? 「プライドの高い老人だなあ(笑)」「ひとりじゃ何もできないんだから、大人しくデイサービス行ってよ」そのとき、わたしは心のなかでそう呟いていた。

おとなしくやってくれたほうが、こちらには都合が良かった。要介護の老人と住むのは、かなりの労力を要する。だから正直、祖母の抵抗はかなり面倒くさかった。おばあちゃんと呼ばれることくらい受け入れてほしかった。介護士も悪気があって呼んだわけじゃないんだし。もしかしたら、デイサービスに行くのが嫌すぎて言っただけかもしれない。でも、デイサービスに行かせているのはあくまでこちらの都合だ。

じゃあ、サオリの意思は? サオリの想いは? 戦後を生き抜き、当時の女性としては珍しく大学へ進学し、英語の教師となってたくさんの生徒に慕われ、退職後も読書を趣味にしていたサオリが、介護がなきゃトイレにも行けなくなってしまった現実。他人に粗相を見られてしまう屈辱。冴える脳に反して衰えてゆく肉体。そこに折り合いつけろったって、ロボットじゃねえし。苦悩の果てに出たのが「わたしには名前があるの、おばあちゃんと呼ばないで」という叫びだったのかもしれない。

私は祖母を嘲笑した自分を恥じた。でも家族だけで介護するのが限界だったのも事実だ。わたしたちにもわたしたちの人生がある。じゃあ、どうしたらサオリを尊重できたのだろう? あの一言が、サオリが亡くなった今もわたしのなかでずっと引っかかっている。

1539856516060-FH010027
AKKO WEARS JACKET NAPA BY MARTINE ROSE. T-SHIRT ERROR404. CORSET CHIKA KISADA.

思えば、わたしもつねに年齢に悩まされてきた。10代のころは10代だというだけでナメめられ、20代前半は意見すると生意気だと言われた。ようやく20代後半になったかと思えば、今度はいきなりおばさん扱いだ。

「おいくつなんですか? あっ、女性に年齢を聞くのは失礼ですかね?」そう言われるといつも答えに迷う。なぜ失礼なのだろう? 歳を重ねることは恥だから? 若くない女に価値はないから? じゃあなぜ男性に聞くのは失礼じゃないの? 「おばさんなのに年甲斐なく好きなことやってます、エヘヘ」と自虐して身を守るのがこの問いの正解なのか。でも、わたしの人生は恥じるようなものじゃなかったはず。愛すべきバカな黒歴史の欠片たちは、わたしが一生懸命生きてきた証だ。エイジをアンチした覚えもないし、好きなことをして生きるのはわたしの勝手。そこに自信があるなら、なぜ年齢を聞かれると答えに迷うのか?

その問いに対してスッキリする解答を得たのは、ラップをはじめて数年経ったころだった。わたしは、ラップは大地を踏みしめて自身を内臓からシャウトする行為だと思っている。ヒップホップに出会い、ラップをするなかで、それまで自分の無意識の底に眠らせていた疑問と向き合うようになり、そして、気がついた。それまでのわたしは、社会と噛み合う自分をOKとし、はみ出るところをNGとしていた。うまく社会にフィットできない自分はクソだと踏み潰していた。“他人からの目線”を自分の判断軸にしていたのだ。そうなった原因は、無自覚に触れてきたシステムにあると思う。育った環境、学校の教育、社会の空気。「○○ちゃん、お母さんごっこ参加しないから明日から無視ね〜」と言われれば、やりたくもないごっこに加わり女の子としての自分のポジションを得ようと頑張るだろうし、「○○くん、いつもクネクネしていてゲイっぽい」なんて言われたら、自分にとっての普通がダメなんだと思い込み、“男らしい”振る舞いをしようと試みるだろう。

1539856536315-FH000034
SHIRT AND T-SHIRT CARHARTT. SHIRT AND SCARF SASQUATCHFABRIX. DRESS CHIKA KISADA. PANTS AND SCARF (WORN AS HAT) MISTER IT. LEGGINGS AND TRAINERS NIKE SPORTSWEAR.

広い視野を獲得すれば、「ゲイ」が中傷となること自体、かなりダサいとわかるはずだ。それでも幼いころに察知した空気は、呪いのウイルスとして少しずつ、確実に、体内を蝕んでゆき、やがて凝り固まって“当たり前”という癌をつくり出す。そして、そこからはみ出ようものなら、こう言われてしまう——「面倒くさい」。システムに沿わないから、空気を読まないから、場をわきまえていないから「面倒くさい」。言われたほうは、そこにそぐわない自身を恥じながら生きてゆく。“面倒くさい奴”として。

そこで負けずに「これが俺なんだ!」と言える人はカッコイイ。でもじゃあ、システムに翻弄された人はダメなのか。幼いころから身を守るために空気を察知し、無意識のうちに信じていった“常識”で凝り固まってしまっただけなんじゃないだろうか。「女性に年齢を聞くのは失礼ですかね?」と言ってきた彼も、そんな刷り込みから女性は年齢を気にするものだと、なんの疑いもなく信じ、悪意なく聞いてきたのかもしれない。

1539856557593-FH020028
T-SHIRTS CARHARTT. BRA CURIOS. CORSET CHIKA KISADA. LEGGINGS NIKE. PANTS SASQUATCHFABRIX.

わたしはラッパーです。わたしは、世の中に刷り込まれた“常識”へのクエスチョンと“当たり前”を解体する考え方、それらを覆す新しい価値観をクソだと信じて踏みつけていた昔の自分に向かって叫ぶと決めました。今のわたしは好きなファッション、メイクを楽しんでいる。「女性に年齢を聞くのは失礼ですかね?」と聞かれたら、「歳をとることは恥じゃないっすよ」と答えるし、「子どもを産んだほうが幸せになれるんじゃない?」と言われたら、「自分の幸せは自分で決めるんで!」と答えている。

あいつがゲイでも、それは彼を構成する要素のひとつでしかない。あいつの名前は「ゲイ」じゃないし、あの子の名前は「○○の奥さん」じゃない。介護が必要だろうが、老人だろうが、サオリはサオリだ。そして、わたしはわたしだ。

社会の枠組みを解体しながら、わたしは未来へ歩いてゆく。どこへ辿り着くのかはまだわからないけれど、それでもわたしは歩く。歳をわきまえてないショーパンに太い生脚をガッツリだして、颯爽と歩く。“らしさ”からの自由を目指して。

そう言えている今のわたしは、サオリを嘲笑していたあのころのわたしより、確実に自由になっている。

✳︎

10/19(金)に、あっこゴリラがスペシャルライブを行う『i-D Japan no.6』刊行記念パーティに渋谷hotel koe tokyoで開催。誰でも参加可能です。本号の出演者やコントリビューターらが集まります。「19日の金曜日」はぜひ渋谷に。

Credit


Photography Fish Zhang.
Styling Demidemu.
Hair and Make-up Megumi Kuji at Luck Hair.
Styling assistance Reina Ogawa.